総選挙後の連立交渉「136日間」の軌跡

オーストリア国民議会選挙後、2月12日で136日目を迎えたが、新政権は依然誕生していない。昨年9月29日の総選挙後、これまで3回の連立交渉が行われたが、悉く決裂した。そこでこれまでの3回の連立交渉の軌跡をまとめ、その後の展望を考えてみた。

国民党との連立交渉が暗礁に乗り上げた背景を説明するキックル党首、2025年02月12日、自由党公式サイトから

2024年9月29日
国民議会選挙の結果、極右政党「自由党」が約28・8%の得票率で連立レベルで初めて第1党に躍進。与党の中道右派「国民党」は26・3%、社会民主党21・1%、リベラル政党「ネオス」9・2%、そして「緑の党」8・3%だった。

2024年11月8日
ファン・デア・ベレン大統領は5党の議会政党の党首と個別で会談後、第2党の国民党のネハンマー党首(首相)に連立交渉を要請。それを受けて、国民党は社民党、「ネオス」との3党連立政権を目指して連立交渉を開始。

大統領の判断は、第1党の自由党との連立を他の4党が拒否したことを受けたものだったが、第1党の自由党やその支持者、一部のメディアから「先ず、第1党に連立交渉を委ねるべきだった」という批判の声がでた。

2025年1月3日
「ネオス」が連立交渉から離脱を表明。その結果、国民党と社民党2党が連立交渉を継続することになった。両党で議会の過半数を辛うじて上回る。

2025年1月4日
国民党のネハンマー党首は社民党との連立交渉を停止する。ネハンマー党首は責任を取って国民党党首と首相ポストを辞任すると表明。

2025年1月6日
ファン・デア・ベレン大統領は自由党のキックル党首に連立交渉を要請。キックル党首は国民党との連立交渉に乗り出す。国民党は辞任したネハンマー党首に代わってストッカー党首代行をたて、キックル自由党との交渉に臨む。両党間の実質的交渉は1月10日からスタート。

選挙戦からキックル党首とは連立を組まないと宣言してきた国民党が自由党との連立交渉に乗り出したことから、党内外から「公約違反」として批判の声が出た。

2025年2月12日
キックル党首とストッカー党首代行はそれぞれファン・デア・ベレン大統領と個別で会談後、自由党と国民党は連立交渉が暗礁に乗り上げたことを発表した。両党の交渉期間は34日間だった。

【1回目の連立交渉暗礁の背景】
リベラルの「ネオス」は社民党のバブラー党首のマルクス主義的な経済・社会政策に匙を投げた感じだ。ベアテ・マインル=ライジンガー党首は3日、「わが党は経済的に危機にある国の再生、改革に責任を感じているが、他の政党との間に政策的な相違が大きすぎた」と説明した。

【2回目の連立交渉暗礁の背景】
ネハンマー党首はバブラー党首の大企業税や金持ちへの課税といった案を拒否、譲歩が見られない社民党との交渉を停止した。国民党内には社民党と連立を組まず、移民・難民問題で政策的に近い自由党と交渉すべきだという声が急速に高まってきた。

【3回目の連立交渉暗礁の背景】
第一に閣僚分配問題だ。自由党と国民党は内相と財務省を共に要求。国民党は財務相を断念し、内相だけで絞ったが、キックル党首は内相のポストを譲らなかった。交渉ではキックル党首の強硬姿勢が目立った。一方、国民党内でも妥協と譲歩を拒む自由党の交渉姿勢に強い反発が生まれてきていた。

ファン・デア・ベレン大統領は12日、3回の連立交渉の決裂について、「心配する必要はない。わが国には政府があるし、新しい政府も発足するだろう」と語った後、今後の展望として、①繰り上げ総選挙、②少数派政権、③専門家政権、④現議会での政党間で連立交渉を再開する、等の4つのシナリオを挙げている。

現地のメディアは、「国民党と社民党、そしてネオス3党の連立交渉が再度行われるのではないか」と憶測している。繰り上げ総選挙の実施については自由党以外、他の政党は消極的だ。自由党が得票率を増やしたとして同党と連立を組む政党はない限り、状況は変わらない。時間と資金の無駄使いとなる。アルプスの小国オーストリアで新しい政権が発足するまで忍耐がまだ必要だろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。