ドイツとオーストリアはドイツ語を公用語とすることもあって兄弟国といわれる。もちろん、ドイツが兄貴分でオーストリアは弟の立場だ。ドイツで起きた事例、事象は一定の期間が経過するとオーストリアでも起きると言われてきた。特に、社会的現象やファッションなどの流行だ。
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テロ現場を監視するパトロール、2025年02月15日、オーストリア国営放送からスクリーンショット
ところで、ドイツで昨年から今年にかけ、イスラム主義の宗教的動機による襲撃テロ事件が頻繁に起きている。独南部バイエル州のミュンヘンで13日、車がデモ行進中の人々に突っ込み、これまで2人が死亡、30人余りが重軽傷を負うというテロ事件が起きたばかりだ。容疑者はアフガニスタン出身の24歳のイスラム教徒だ。その2日後、オーストリア南部ケルンテン州のフィラッハで15日、23歳のシリア出身者(滞在許可書を所持)がナイフで路上にいる人々を無差別襲撃し、14歳の男子が死亡、4人が重軽傷を負う事件が起きた。
ナイフで人々を襲撃する容疑者をたまたま目撃したシリア出身の42歳の男性が自分の車を容疑者にぶつけ、犯行をストップ。駆け付けた警察官が容疑者を逮捕した。
カルナー内相は16日、フィラッハで記者会見を開き、「容疑者はイスラム過激主義テロ組織『イスラム国』(IS)シンパで、犯行は宗教的動機に基づくテロだ」と説明した。家宅捜査された容疑者の家にはISの旗があったという。犯行は単独と見られている。
ケルンテン州のカイザー知事は「この不可解で残虐行為を再発させないためにもケルンテン州に住む難民は誰でも法と秩序を尊重し、私たちの規則と価値観に適応しなければならない。これに違反した者は誰でも、裁判を受け、投獄され、国外追放される」と述べる一方、殺害された14歳の少年の遺族に深い哀悼の意を表した。
ドイツで襲撃テロ事件が起きたばかりだったこともあって、オーストリア国民もショックを受けている。同時に、不法難民に対する強硬対策を求める声が再び高まってきている。なお、フィラッハには難民収容所があるが、今回の犯行と難民収容所関係者との繋がりについて、警察当局は捜査中だ。
ウィーンでは昨年8月8日、世界的人気の米国のポップスター、テイラー・スウィフトさんのコンサートが予定されていたが、テロの危険性が迫っているとして中止されたことがある。テロ容疑を受けた主犯の19歳の男性(国籍オーストリア人、両親北マケドニア出身)は拘束された直後、コンサート襲撃計画を練っていたことを明らかにしている。
ウィーン市内では2020年11月2日、新型コロナ感染防止の第2ロックダウンの開始前日、イスラム過激派による銃撃テロ事件が発生した。4人の市民(男性2人、女性2人)が死亡、容疑者は警察官によって射殺された。事件の主要容疑者とみられる人物は北マケドニア出身で20歳。IS支持者だった。
ちなみに、過去ウィーンを舞台としたテロ事件としては、1975年12月21日、「OPEC襲撃事件」がよく知られている。テロリスト・カルロス一味が閣僚会議中の石油輸出国機構(OPEC)本部を襲撃し、閣僚を含む多数の死傷者を出した。1985年にはパレスチナ人ゲリラ指導者アブ・ニダル容疑者がウィーン空港を襲撃して無差別銃乱射したテロ事件が発生した。両事件はオーストリアの2大テロ事件と呼ばれている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。