財政悪化で社会保障、教育に影響
自公の少数与党が野党の日本維新の会や国民民主党の言い分に押され、ずるずると譲歩しています。野党は夏の参院選が目当てなのでしょう。安倍政権下で自公が圧倒的多数であった時も、選挙対策で予算をばらまきました。与党が強くても弱くても、選挙の度に財政状態が悪くなっていくようです。
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石破茂首相 自民党HPより
圧倒的多数の与党だった時期は独自の判断で予算をばらまき、少数与党に転落した現在は現在で、議席増を狙う野党の要求に押し切れられ、選挙対策に財政資金が使われる。野党は少数与党の弱みに付け込み、財源確保を後回しにして、声高に要求だけを通そうとしています。
選挙は民主主義を維持する最重要の装置です。その選挙のたびに財政が弱体化し、民主主義の基盤である社会保障、教育政策を支えられなくなる危惧があります。少数与党が野党と連携する場合、野党の要求する新規の政策について、その財源(増税、歳出削減)をセットで示すよう義務付けるべきです。
国債残高は1000兆円を超え、GDP(国民総生産)比で250%という絶句する規模です。欧州連合(EU)は、トランプ大統領の登場に危機感を募らせ、「米国に頼らない安保強化のために、防衛費増なら財政赤字を拡大を容認する」方針です。EUには厳しい財政ルールがあり、「債務残高はGDP比で60%、財政赤字は同3%」を求めてきました。今回の防衛費増の処理は別枠で措置するようです。日本の債務残高と比べてみてください。
トランプ政権はどうでしょうか。マスク氏の率いる米政府効率化省が大胆な行財政改革に乗り出しています。数万人規模の職員リストラ、米国国際開発局の閉鎖に加え、貿易赤字縮小のための世界一律の関税導入など、「トランプ革命」と評される措置に打って出ています。乱暴で傍若無人の振る舞いを続けるトランプ氏も、財政の健全化はおろそかにしない覚悟なのでしょう。
自民、公明、日本維新の会は高校授業料の無償化を柱とする25年度予算案の修正で21日、合意しました。新聞では「どのような教育効果があるかの議論を欠く。選挙目当てのばらまきだ」(読売新聞社説、2月22日)と酷評しています。「無償化に乗じて、私立では授業料の値上げが相次ぐのではないか」、「維新は高校無償化を実現して支持率を回復させたいとの思惑だ」とも批判しています。
日経新聞は21日の1面トップ記事で、「経済学者の7割が高校無償化に反対」と報道しました。47人の学者に「高校授業料に関する家計支援は望ましいかどうか」について質問したところ「そうは思わない57%、全くそう思わない13%」などの回答を得ました。通常の世論調査とは別に、経済専門家に対する調査には価値があります。こうした調査が今後、増えることを期待します。
学者たちの反対の理由は「国の支援があると、私立高が学費をあげる」、「学費をあげても国の支援(無料)があるので、家庭の負担は増えず、出願者数は減らない」、「私立高への集中が起こり、公立高が疲弊する」、「教育の質の向上策が後回しになっている」などです。
見た目は家計を助けるように見えても、私立高が学費をあげてしまうと、家計にとっては「プラスマイナスゼロ」となり、私立高は値上げができる。高校無償化は、結局、私立校への支援につながる。「有権者を喜ばせれば、選挙対策になる」と思い込んでいる維新の会は、勘違いしている。
財源については、25年度の税収は78.4兆円、前年度比9兆円で、税収は6年連続で過去最高を記録しているので、この税の自然増収をあてにしているのでしょう。
税収が伸びているのは、物価上昇が続いているためです。売上・利益が増えれば、法人税収も増える。給与が増えるから所得税も増える。価格が上がるから消費税が増える。つまり名目の給与が増えても、物価が上がり、実質の給与は目減りする。自然増収の使い方が間違っているのです。
インフレが常態化しつつあり、日銀の政策金利は上昇していく。金利が上がれば、国債の金利も上がる。25年度の国債費(償還費と利払い費)は28.2兆円で、これがどんどん増えていく。過去20年、利払い費は年7-8兆円だったのが、28年度には16兆円になる見通しです。そうなると、将来、他の歳出を削減しなければならなくなります。
本来なら、自然増収分は一般歳出で使ってしまわず、赤字国債の削減にあてていかなければいけないのです。「景気が悪くなったといって、国債を増発する」、「景気がよくなり、税収が増えると、国債削減でなく、使ってしまう」。だから、いつまで経っても、財政状態は改善しない。
高齢者世代には多額の医療費がかかるのに、病院の窓口で払う自己負担は2割程度です。現役世代がかなり援助するシステムになっています。維新の会は現役世代の高齢者援助を4兆円、減らそうとしています。その原資については、原則として、自己負担を現役と同じ3割に引き上げるべきです。高齢者は金融資産を現役世代よりたくさん所有しています。ですから国債をあてにしてはいけません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。