独の連邦議会選挙の結果はほぼ想定内でサプライズはなかった。敢えていうならば、新党のBSWが議席獲得に必要な得票率5%の壁を越えられず、連邦政治には加わることができなかったことだ。「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)の得票率は4.97%だった。あと1万3000票あれば5%をクリアして連邦議会に参加できたのだ。BSW関係者から「悔しい」という嘆きが聞かれるのは当然だろう。
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次期首相候補のメルツ党首の写真を一面に報じるドイツ大衆紙ビルド、2025年2月24日、オーストリア国営放送中継からのスクリーンショット
それ以外、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が28.5%で第1党となったのは予想通り。CDU/CSU関係者は30%を超える得票率を期待していただろう。ショルツ首相の与党「社会民主党」(SPD)は同党歴代最低の得票率(16.4%)となった。選挙後、ショルツ首相が政治から退くと表明したのも頷ける。「緑の党」のハベック副首相も同じように、「党内で今後指導的な役割を担わない」と宣言していた。ショルツ首相もハベック副首相も信号機政権の解体の張本人であり、得票率を落とした投票結果の責任を取ったわけだ。最悪は、自由民主党(FDP)のリントナー党首だろう。5%の壁をクリアできず、全ての議席を失った。その責任で24日、政界から辞任することを発表した。
右派「ドイツのための選択肢」(AfD)が2021年の前回の総選挙の得票率の2倍、20.8%を獲得したが、予想されていたことでサプライズとは言えない。しかし、創立からまだ12年の同党が短期間で連邦議会の第2党の勢力に躍り出たのだ。注目に値する躍進だ。ただし、現時点では、AfDが連立政権に参加する可能性はない。他の政党がAfDに対して防火壁を構築しているからだ。看過してはならない点は、同党の票はもはや単なる抗議票でなく、AfDの政治信条、世界観に同意した有権者の票であるということだ。
今回の総選挙で最も驚いた結果は82.5%の投票率だ。前回は76.4%だったが、それを上回った。日本で昨年10月27日に衆議院選挙が行われたが、その投票率をご存じだろうか。53.85%だ。前回3年前の選挙の投票率より2.08ポイント下回り、戦後3番目に低かった。日本の国民は80%以上の投票率を想像できるだろうか。
ドイツ民間放送ニュース専門局ntvは「有権者(約6000万人)は選挙に強い関心を有している。ウクライナ戦争からエネルギーコストの急騰、物価高騰、そしてイスラム過激派テロ事件と、さまざまな不祥事、出来事が起きた。国民はそれらの出来事に対して不安と懸念を感じている。それゆえに、選挙に関心が出てくるわけだ」と解説していた。実際、選挙戦に入ってから2度のイスラム過激テロ事件が起きだ。移民問題と関連して、テロ問題は選挙戦後半の中心的テーマとなった。
当方が気になった点は、高い投票率はドイツの民主主義の成熟度を表しているといえるが、同時に、有権者の20%は投票日になってもどの政党に票を入れるか決定していないというのだ。固定票ではなく、浮動票だ。ntv局は路上で「どの政党を支持しているか」とインタビューしていたが、多くは「まだ決まっていない」とか「前回はA党に入れたが、今回はB党に投票しようかと考えている」と答えていた。ドイツでは約20%が浮動票という。
すなわち、国民は国や自身の問題を解決し、将来の夢や希望を実現するために、選挙や政治活動に関心が高まっているが、既成政党でどの政党がそれらの問題を解決できるか分からない。関心はあるが、心に響く政党が見つからないのだ。「浮動票20%」と「投票率83%」の世界から、ドイツ国民は現代の閉塞感を脱出するために懸命にその出口を模索している、といった姿が見えてくる。
ショルツ首相は2021年12月、緑の党、FDPのドイツ政界初の3党連立政権を発足させたが、その際、「われわれは時代の転換期に遭遇している」と述べ、新型コロナ感染問題、ウクライナ戦争、環境保護問題から再生可能なエネルギーへの転換などの難問に対峙し、一種の使命感を抱きながらスタートした。しかし、任期4年間を全うできず、連立政権は解体し、前倒しの総選挙となったわけだ。
CDUのメルツ党首は「世界はドイツに新政権が発足するまで待ってくれない。ドイツは欧州の指導国としてプレゼンスを回復して責任を果たさなければならない」と強調し、「新政権は復活祭(4月20日)前までに発足させたい」と述べていた。メルツ次期首相はドイツを再生できるだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。