営業目標は最終的に顧客基盤を破壊する

熊本の不動産視察をしてきました。一棟ものの賃貸物件の施工・販売・管理をワンストップサービスで提供する会社の皆様に案内していただき、建設中の現場を見学。現地で丸一日大変お世話になりました。

こちらの会社は不動産の販売を開始して20年になり、既に日本全国で1200棟の販売実績があるそうですが、売却された物件は5%程度と圧倒的に低い数字です。

これは高い賃貸実績が投資家から評価されているからです。例えば、熊本で管理している同社物件の2024年の年間入居率は98.5%と東京23区の中古ワンルームマンションと遜色ない数字になっています。

投資家の満足度が極めて高く、物件を手放そうとしないのです。これは一般の投資用物件を販売する不動産会社とは大きく異なります。

ご一緒した役員の皆様と話をしていて、このような成果が実現できた理由がわかったような気がしました。

この会社には販売ノルマのような営業担当の達成数値がありません。それよりも顧客との長期的な関係の維持や会社の持続的成長を目標にして営業しているのです。

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営業担当者の売上目標のような数値設定があると、納得できない物件であっても無理に仕入れて、顧客に販売するインセンティブがどうしても生まれてしまいます。

短期の売上のために顧客を犠牲にして品質や価格に劣る物件を販売すれば、入居率や家賃の下落を招き、顧客満足度は下落します。口コミの評価も下がり、長期的な顧客離れにつながってしまうのです。短期的な販売ノルマがなければ、無理に物件をさばく必要はありません。

また、納得できる良いものだけを販売するので、営業担当者に罪悪感やストレスもありません。営業担当者のモチベーションは下がらず、顧客満足度も上がり、口コミで販売を広げていく好循環が生まれるのです。

もちろん、営業が怠けていれば、会社の経営は成り立ちません。良いものを作り、それを顧客に愚直に粘り強く伝えていく努力は必須です。

不動産ビジネスにおいては、成果を短期で求めることは危険です。長期的な信頼関係が確立して初めて、一般には出回ることのない「インナーサークル情報」を提供してもらえます。

毎年の決算毎に性急に成果を求めるノルマ主義は、経営の指標として拙速すぎるのです。

商売は「売り手」「買い手」そして「社会」の全者が満足できる「三方よし」が基本です。

高い営業目標は、買い手と社会をなおざりにするリスクを高め、企業の長期的な存続にマイナスになる可能性がある。

今回の熊本で、ビジネスの基本について再認識する機会を与えてもらいました。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。