セブンイレブン買収案件、日鉄のUSスチール案件、そして日産自動車の行方、これが日本の3大迷走案件かもしれません。セブンは昨年の8月にカナダのアリマンタシォン クシュタール社からの買収意向の提案がなされていたものです。日鉄のUSスチール買収は23年12月に日鉄が発表したもの。日産自動車の迷走については一体どこまでさかのぼればよいのかわかりませんが、基本的にはルノーとのごたごた話でクルマ作りよりも経営権の話が主体になり従業員と経営陣の乖離が生じたところから始まっているのだと思います。
どれも時間がかかっているうえにここに来て状況に変化が見られます。その変化とは「より複雑に、より困難に」ではないでしょうか?
まずセブンイレブン買収の件ですが、セブンの創業家である伊藤興業を中心とする国内企業グループが特別目的会社を作り、国内金融機関からの借り入れを含め8兆円調達し、セブンを買収するという案がここにきてとん挫しました。私にはセブンの特別委員会がこのMBO案の行方を見届ける時間稼ぎをしたとみており、審議に不公平感を感じます。あとだしじゃんけんの伊藤興業による実質MBO案は当初から資金調達がハードルとされていたのです。

セブンイレブン Wikipediaより
今般、買収のキープレーヤーとなる伊藤忠商事が参画を断念しました。同社への出資要請は1兆円規模でしたが出資に見合わないと判断したとのことです。伊藤忠は商社機能を駆使し、一般企業の出資者よりはるかに付帯的メリットが高いはずでした。そこが断念したのならこの特別目的会社を支えられる会社はないと思います。
そもそもファミマを持つ伊藤忠がセブン買収に参画すると独禁法の問題が出てきます。私はこのMBO話が出てきた一番初めに商社なら三井物産ではないかとこのブログに明記していました。我々には計り知れぬ理由で伊藤興業は伊藤忠を選んだのでしょうが、私には伊藤興業の痛恨の判断ミスだったような気がします。
それよりも一企業であるセブンの買収に関して6か月かかって話が振出しに戻る、では話にならないと思います。アメリカのビジネスのスピード感に対して遅々として進まない日本のビジネス判断は一言、「とろい」と思います。
次に日鉄ですが、トランプ氏の裁定後に日鉄がいったいどういう出資を考えているのか見えてこない、これが懸念材料です。日鉄-USスチールの今の状況を一言で述べると「こんがらがった釣り糸」では魚は釣れない、であります。おまけにここに来て全米鉄鋼労働組合がUSスチールを相手取り、第三者機関に告発を行ったと報じられています。組合員にUSスチールが圧力をかけたというもの。またライバルのクリフス社のゴンカルベスCEOが「日鉄は荷物をまとめて出ていけ」と発言しています。これらは嫌がらせでしかなく、クリアできないわけではないのですが、日鉄のビジネス判断として思った以上に付帯リスクが出てきている中でUSスチールを得るメリットがまだあるのか、再考の時期にある気がします。

日本製鉄 Wikipediaより
日鉄が経営資源を投入してこの一連のごたごたを解決して投資収益を上げるにはうまくいって10年かかるでしょう。その粘りと我慢の経営を日鉄がし続ける価値があるかです。今見えるのは経営権は取れない、です。しかもその行く手の困難さはブリヂストンによるファイアストン買収の時よりはるかに困難だという点です。話がストレートに決まるならそれは私もうれしい話ですが、ここにきて何か無理がかかり過ぎている、これは前述のセブンの伊藤興業による買収提案と同じ構図に見えます。
最後に日産自動車ですが、この会社の最大の問題は従業員と共に協力会社にTier1から3までに19000社ある点です。自動車産業のピラミッド構造そのものが日本の雇用問題に直結する、だからこそ経産省は躍起になるのです。ところが経営陣が最優先して議論しているのは権力闘争です。この会社を買収する企業があるとすれば相当勇気があるでしょう。それこそゴーン氏のような強者が現れないと厳しいと思います。内田社長の退任は既に既定路線で暫定CEOはエグゼクティブとしてはまだ日が浅く、ホンダとの合弁推進派であるジェレミー パパンCFOとなりそうです。その間、アメリカの主要格付け3社は同社の格付けを投機的レベルに引き下げてしまいました。

日産HPより
同社は今、坂を転がり落ちるところで私が先週、勝負は案外早いと申し上げたのは時間軸に対する経営の耐性がさほど残されていないという点であります。誰か救いの手を伸ばすか、破綻か、さもなければウルトラCで復活するか、です。私は仮に破綻させてもやむを得ないと思っています。産業として革新的でもなく、存在価値が希薄になっており、歴史的大変革期にある自動車産業において淘汰はつきものだからです。もはや日本には大護送船団もないのです。
これら3社の行方を見てもご理解いただけると思いますが、10年、20年前のようなディールができなくなってきた、これが私も海外で経営者の端くれとして毎日戦っている中で感じていることです。世の中に規制やルール、利害関係、更に様々な声や圧力が極めて複雑怪奇に絡まっているのです。
それと3つの会社に共通しているのはどれも成熟産業なのです。コンビニは成熟産業かと言われれば海外進出の余地という意味はありますが、ビジネスモデルは完熟状態です。あとの2社は言うに及ばず、です。とすれば経営資源をどう配分していくのか、これが今後、大きな課題になってくる気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年2月28日の記事より転載させていただきました。