ゼレスキー大統領との口論事件の後、バンス副大統領叩きが、流行しているようだ。もともとトランプ大統領が気に入っていない方々であったわけだが、バンス副大統領は、さらに輪をかけて悪い奴だ、しかも小物だ、という侮蔑の言葉を頻繁に見かける。
日本人は一般に彼のような歯切れのよいタイプは嫌いなようである。批判も、ほとんどがイメージ先行での人格批判の侮蔑ばかりである。特に「ウクライナ応援団」界隈では、「トランプ大統領がいつか豹変してくれるのではないか」という期待があるので、横にいるバンス副大統領の存在が邪魔で仕方がないらしい。
バンス副大統領が、トランプ氏によって副大統領候補に選ばれた昨年7月、私は、彼の著作を読んだりして少し調べてみて、これは大変な実力者である、という趣旨の文章を書いた。

「ウクライナ応援団」の方々にとってみれば、篠田の知的資質の欠落を証明するのに十分なスキャンダル記事だ、ということになるのだろう。
だが私は印象を変えていない。バンス副大統領の現在の存在感の大きさを考えると、むしろ私が正しかった可能性がある、とすら思っている。
歴代の副大統領と比して、バンス副大統領の発言力の大きさが際立っている。もちろんそれはトランプ大統領の深い信任を得ているからなのだが、発言内容の影響力の大きさは、バンス副大統領が常に鋭い発言をしていることによるところが大きい。

ゼレンスキー大統領と会談するバンス副大統領 同副大統領インスタグラムより
批判者の方々は、ほとんどの場合、バンス大統領の人格の批判ばかりをしている。発言内容を取り上げて吟味したうえで批判をしている事例を見たことがない。
米国内でバンス副大統領は、現時点で際立って人気が高いわけではないが、不人気でもない。副大統領に就任してから、好感度を上げている。

トランプ政権内で比較的人気のあるほうだ。

民主党側に有力な大統領候補がいないことを考えると、バンス副大統領は、現時点で、次期米国大統領の有力候補だ。日本が今後まじめな外交政策を追求していくのであれば、バンス副大統領の実力は、認めたほうがいい。
ゼレンスキー大統領との「口論」の後、バンス副大統領は、SNSにトランプ政権の停戦調停を進める姿勢を説明する投稿をした。
This is moralistic garbage, which is unfortunately the rhetorical currency of the globalists because they have nothing else to say.
For three years, President Trump and I have made two simple arguments: first, the war wouldn’t have started if President Trump was in office;… https://t.co/xH33s6X5yf
— JD Vance (@JDVance) February 20, 2025
バンス大統領の主張の要点は、次のようなものだろう。現在、ロシア軍が、戦況で優位にあり、国力の総合的優位を考えても、これ以上の戦争の継続は、少なくともウクライナの利益にならない。停戦が利益である。
わかりやすくするために追記すると、以下のような感じだろう。
「・・・しかしウクライナは勝たなければならない、現実が厳しいならアメリカが第三次世界大戦を恐れず直接介入するくらいのことをやってロシアを放逐してくれないか?アメリカは世界の指導者だろう、それくらいのことは文句を言わずにやれよ!」、と言ったことをアメリカに言われても、困る。われわれにも力の限界がある。アメリカの国益を大切にしながら、事態の収拾を図りたい・・・。
正直、バンス副大統領の主張は、少なくとも破綻したものだとは思えない。恐らく批判者たちも、そのことに気づいているので、徹底してバンス副大統領の人格批判だけを行うのだろう。あとはせいぜい「お前はプーチンの催眠術にかけられている!」といった類のカウンター陰謀論の陰謀論2.0である。
正直、ゼレンスキー大統領も「お前は戦争を知らない」といった言い方をして、イラク従軍経験を持つバンス副大統領に上から目線の態度をとり、会合の破綻を招いてしまった。これは誰にとっても楽しいことではなかった。
感情論の優越性が堂々と主張され、冷静な議論は封印されるか、あるいは冷戦な議論をしようと試みること自体が道義的に間違ったこととして糾弾の対象になる風潮がある。
「ウクライナ応援団」が存在しない世界人口の圧倒的な大多数が住む非欧米地域の地域の人々は、われわれのことを冷ややかに見つめている。彼らには彼らの深刻な問題が多々ある。
状況は厳しく、未来は暗い。
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「篠田英朗国際情勢分析チャンネル」(ニコニコチャンネルプラス)で、月2回の頻度で、国際情勢の分析を行っています。