始まった関税戦争:アメリカの勝ち目はない戦い

1か月前、トランプ大統領はカナダ メキシコへの25%関税をぎりぎりの交渉の末、延期するとしました。その夢が再び訪れるかと一部では期待もあったようですが、今回は前回のような必死の回避交渉が行われた感がなく、前日である月曜日の段階で確定していたようです。トランプ氏は振り上げた拳を下ろせないだけでなく、4月以降も関税を次々上げていく自己計画の中でその初期の段階にあるカナダとメキシコ、中国への関税引き上げを中断する勇気もないし、方針を180度転換する気もないということでしょう。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

さて、トランプ氏がこの関税の効果、つまりメリットとデメリットについてどれぐらい公平な目で査定しているのか、ここが最大の疑問であります。

私にはトランプ氏が関税を一種の武器のように扱っている、そんな気がするのです。今後さらに増えるであろう各種関税は世界を敵に回すだけでなく、アメリカの孤立化を生みかねません。カナダでは既にバイ カナディアンの動きが出ており、カナダの酒販店からはアメリカの酒が消えていきます。(カナダの酒販は州政府が経営する酒販店でほとんどが販売されており、政治色が出やすくなります。)

カナダの主要産業である自動車産業。完成車を作る過程はそうシンプルではなく、部品工場が多いカナダとアメリカの国境を部品メーカー同士、更に完成車工場の間をトラックが行き来する、そのような状況です。もしも関税というお金を払うだけの行為であれば企業は最終価格に転嫁するという手法を取るだけで何ら影響はないかもしれません。しかし、もし感情的な意識が生じて部品の流通がスムーズにいかなくなるような事態になったらどうでしょうか?車が作れない、つまり国内需要を満たすことができず、コロナ期にあったような中古車市場の価格暴騰が再燃しないとも限りません。

カナダは心情的に相当怒っています。多分メキシコもそうでしょう。カナダ政府は報復案の第一弾を発表しました。カナダ国税が発表した膨大な全リストをサラッと見ましたが、一週間後にもっと大きなリスト来ると思うと仕事をし、生活をしている者としてぞっとする思いです。一方、例えばカナダは農業用の肥料の生産が強く、アメリカに輸出していますが、これが関税分値上がりすればアメリカの農作物の価格が上がるか、農家の利益が圧縮されます。またカナダの主要産業のひとつ、資源採掘、鉱業では輸出先をアジアに振り向けよ、としています。カナダの特徴である重質油の原油はアメリカで産出されず、絶対不可欠なものですが、10%の「軽減税率」とはいえ、その影響はジワリと時間をかけて出てくるでしょう。

ブルームバーグには「FRB利下げ年内3回完全織り込み、トランプ関税発動で『転換点』」とあります。今回の関税で雇用及び景気の減速を見込んでいるのでしょう。特に個人消費が弱まる公算は高く、マスク氏が政府部門の雇用を削減している中で民間部門の雇用も急速に悪化するならば利下げは当然の成り行きかもしれません。ただ物価は関税によるスタグフレーション化で今より1ー2割上がるものが続出し、企業も値上げ転嫁できず、利益圧迫、業績悪化という実に都合の悪いシナリオが生じる公算も大いにあると思います。

カナダでは来週月曜日に新首相が決まります。現時点で元カナダ中央銀行総裁でその後、史上初の英国での外国人中央銀行総裁となったマーク カーニー氏がかなり有利になっています。また、3月中にも出されるとされる野党による内閣不信任案を受けて秋の期間満了を待たず、総選挙になる公算も高いと思います。以前、その場合には野党の保守党が勝つだろうと述べたのですが、このひと月でカナダの様相はすっかり変わりました。保守党党首、ポワリエーブル氏は「カナダのトランプ」と称され、アメリカ追随型されますが、カナダ国民感情がアンチ アメリカとなっているため、世論調査で25ポイントぐらいリードしてた保守党は現与党の自由党に逆転を許してしまったのです。また第三党である新民主党は昨年暮れに自由党とトルドー氏嫌いで「縁切り」をしたのですが、再度自由党との連立に前向きになっています。

自由党と新民主党を合わせれば支持率で過半数を超える状況にあるため、今、総選挙をすれば自由党の党首、それはカーニー氏の可能性が高いのですが、が首相をしばらくやるということになりそうです。その場合、カーニー氏が対トランプ政権にどのような対策を打ち出すか、国民の期待を一身に背負うことになりそうです。

個人的にはこの関税戦争、アメリカには分がないと思います。以前申し上げたと思いますが、就任から半年ぐらいしたとき、大きな動きが出てくるかもしれないと思っています。もちろんアンチ トランプの国民感情と経済です。株価が崩落する中、投資収入に頼るアメリカ国民は個人資産の血を流しています。トランプ氏が関税という銃を撃ちまくり、アメリカ国民が血を流す、こんなバカバカしいシナリオはないのです。仮に関税の壁を作るならアメリカが全てを自給自足し、かつ成長を望まず、アメリカ国内でじっと閉じこもることを選択し、その準備をしっかりしない限り、アメリカの勝ち目はないでしょう。

一方、諸外国がアメリカを手玉に取りたければアメリカ国債を売って売って売りまくればよい、それだけです。ドルの価値を下げ、アメリカの輸入物価を更に上伸させ、ドル基軸の危機となればアメリカは一発でアウトです。トランプ氏にも弱点はあるのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月5日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。