3月2日から4日に1泊3日でカタールのドーハに出張してきた。Sidra Medicineという母子医療センターの理事会に出席するためだ。アラブ諸国(+アフリカ)の母子医療の診療と研究の中心となるセンターを目指している。
カタールは中東の政治にも大きな影響を持ってきているが、カタール財団は教育と医療に莫大な投資をしている。カタールには石油と天然ガスという資源があるが、将来を見据えて教育と医療に重点を置いている。日本は、人材が唯一の資源であるが、最近の教育や医療に関するお粗末な議論を聞いていると、本当に国が危うくなってきていると感ぜざるを得ない。
ハーバード大学のキャンパス 同大学HPより
それにしても、今回の出張は、今までになく、時差ボケがひどい。ラマダンの時期だったので、2時間強の会議中にはコーヒーのみならず、水もなかった。ホテルに戻って一人で8000円の遅い時間の昼食を取り、その後、部屋にあったコーヒーメーカーでコーヒーを飲み過ぎたのが、悪かったのだろうか?帰国後、夜中にぱっちりと目が覚めて睡眠不足が続き、今朝は完全にダウンしていた。
そして、日本よりももっと心配なのが、これまで世界の中心となってきた米国の動向だ。特に、医学研究に関するトランプ政権の無茶ぶりは目を覆いたくなる。
3月5日のNature誌に、すでに始まっていたLGBT+健康、ジェンダー、DEI「Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包括性・包摂性)」に関わる数百件の研究費の支給を中断するとトランプ政権が決定したと掲載されていた。
当然ながら、これらの研究費で雇用されていた研究員や技術職員は失業することになる。新規の研究費の審査は停止したままなので、今後審査が開始されて、研究費が交付されたとしても、研究費の給付が遅れたり、執行されないままになる。
また、NIHの職員が減ると、事務作業も停滞して大変なことになるだろう。そうなると9月30日で終わる予算年度中に予算が使い終わらない状況が生ずる。議会で決めた予算計画を大統領府が独断で変更できるとすれば、民主主義の根幹が崩れ、独裁政権となる。
コロンビア大学に対しても、反ユダヤのデモを抑えきれなかったり、ユダヤ人差別を見過ごしているとの罪で、500億円に近い補助金をカットすると脅かしている。この件にしても、ウクライナに対しても、「ディールというのは、弱みに付け込んだ脅迫と服従のことか」と思ってしまう。
日米安保条約も不平等だというが、そもそも、日本が再び米国の脅威とならないようにしてきた代わりに、日本に米軍基地を置き、日本を守る契約としたものだ。大阪から羽田に向かう飛行機がまっすぐ飛ばず、千葉県側から迂回するのは、横田基地上空の制空権を日本が持っていない故だ。
国を守ることができるかどうかの課題を喉元に突き付けられている時に、国会ではこのような議論が全くなされていない。ウクライナの今は、明日の日本かもしれないという不安はないのだろうか?
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。