S&P 500はトランププットを否定し急落

Shen

S&P 500は更に大幅に続落した。週初めから3/4火曜のカナダ・メキシコへの関税に関してディールが出て来ずそのまま課徴開始となったことで反落が始まり、3/5水曜発表のISM非製造業が堅調だったため下落は一度緩和されたものの引け後にマーベル・テクノロジーMRVLの決算の評価が悪く、翌3/6木曜引け後に控えるブロードコムAVGO決算に向けてヘッジが殺到した。ついでに3/7金曜寄り付き前の雇用統計に向けたヘッジも入ったと思われる。

もっともAVGO自体は好決算に終わり、雇用統計も概ね無事に通過したが、3/7金曜午前はそれでも下値を掘る動きがしつこかった。もっともパウエル議長の講演という最後のイベントを通過した後に最終的には買い直され、金曜は大きな下ヒゲ陽線となった。

欧州と中国からそれぞれ財政拡張のしっかりとしたニュースが出たものの、米株のセンチメントも連れられて改善するというより、むしろこれらの国へのローテーションの犠牲になった感さえあった。

S&P 500はウォール街のストラテジスト達の年末ターゲットからすっかり離れてしまった。「トランプ政権はビジネス・フレンドリーだ」と株式に飛び付いた人達が罰せられているわけである。蓋を開けてみると出てきたのは小さな政府であった。その上、関税等についてトランプは毎日喋り続ける。

第一次トランプ政権の経験から「トランプは株価を気にする、特に当選以来S&P 500がマイナスに転落するのを嫌がるだろうから、株価が下がったら何かビジネスフレンドリーな政策転換が来るに違いない」という間違った考え方もあったようだが、ベッセント財務長官に「トランプ・プットはない」と正面からにべもなく否定されている。S&P 500はあえなく当選日対比マイナスに転落した。

この調整はナスダックが中心であり、特にAI関連銘柄からの資金引き揚げが目立った半導体ETFにショートも集中した。ナスダック100はピークから10%調整し、調整入り認定された。もっともそれだけでなく金融やラッセルも大幅に売られており、ラージテックだけがアンダーパフォームしたわけではない。



引けベースでは絶妙に1日2%以上の下落は見られなかったものの、イントラデーの前日比2%下げは見られたし、連日1%台下げが続いた。

GS CTAの2月Op Ex以降の下落相場で一応はポジション削減が行われたとGSは推定するが、過去対比ではまだ進んでいない。3月もメインシナリオでは緩やかな削減が続きやすいものの、そのペースは2月ほどではない。

DBが推定するシステマティック勢のポジショニングはまだ重いものの、小さな直滑降は見られた。こちらでもCTAは2月に増やしたポジションをまだ大して削減していないが、これはやや古い2/27時点のものであることに要注意である。

CTAが横ばいなのにシステマティック勢が売り越しだったことは、消去法でVolコントロールが――1日2%の下げが見られなかったにもかかわらず――とにかくリアライズドVolの上昇を受けて売却に回ったことを示唆する。

裁量勢も含めたDBの統合ポジショニングは38パーセンタイルまで削減された。

流れてきた日付が新しいこともあり、野村はもう少しCTAの売りを観測している。1ヶ月のリアライズドVolは16.8まで上昇しており、それが再び落ち着くまでVIXのボトムもそのあたりになる。Volコントロールも1~2月の買い戻しの後に再び売られている。機械の売りは、例えば火曜3/4などに見られたような引け前の怒涛の売り崩しとして観測された。

個人投資家の活動はトランプ当選をピークにあまり目立たなくなっている。これはAAIIとマッチしており、今後の展開において、警戒してきたDeepseekショック以来の個人投資家の損益悪化プロセスが一巡しつつあることを意味すると見ている。

問題は誰が買いに転じるかである。機械勢はリアライズドVolが下がって来ないと買い出動しないし、裁量勢もFMSのキャッシュ比率の低さからこの下げを喰らっている。

NAAIMはようやく大きく切り下がった。先週の記事で「やはりNAAIMが指数の値動きにマッチする程度には下げてくれないと底打ち判断がしづらい」としていたのは正しかったのである。NAAIMだけ見ると前の週よりは押し目買いを入れやすくなる。GSのセンチメント・インジケーターはついにマイナスに転じた。

シーズナリティは最悪な2月後半~3月初旬という最悪期を通過し、セル・イン・メイまでの長い順風が始まる。毎年この通りになるなら苦労しないものの、2月後半の売り手のショート・エントリーをエンカレッジした条件のうちにシーズナリティが入っていたなら、シーズナリティの通過と共にショートカバーの理由が一つ出来るというものだ。

関税関連のスケジュールのうち、3/12に始まる鉄鋼アルミについては撤廃を期待する声もないだろうから、3/4のように織り込まれていない発動によるリスクオフにベットする必要はないだろう。最大の敵は4/2に始まる本格関税であるがまだ少しだけ時間がある。

フォワードEPSは短い停滞を経て再び上向きになった。今回の下げを主導したのはフォワードPERの調整であることが分かる。従ってゲームチェンジャーがあったわけではないが、それでも政治の不確実性がもたらすフォワードPERの調整余地はいくらでもあるのが辛いところである。

テクニカル。先週の記事が「安直に考えるとナスダックの18370 -19300レンジを意識することになり、先週と違って下値を叩かず、戻り高値を追い掛けないことが求められそうである」と結論付けたのは確かに安直であった。

急落が始まる前からの「ナスダックで見ると12月から続く保ち合いからの下抜けはその間に建てられたロングに対して死刑宣告になってしまう」という見方の方が重要だった。5730近辺に位置する日足200SMAには確かに市場参加者の注目が集まったが、だからと言って跳ね返ったら買っていいわけでも、抜けたのを見て売って意味があるわけでもなく、散々上下ピストンした挙句に引けベースでは守られた。

シーズナリティとNAAIMを頼りに、もう一度「金曜の日足下ヒゲ陽線」を信用してみたいと思う。つまり5666は日足サポートとなる。今回の調整はこれまでのような急落→反発のパターンと少し異なりダラダラとした下落となっており、それは中期的な下向きトレンドに転じた可能性も示唆しているようにも見えるが、その場合「戻り高値の目安探し」という目線になることを考えると、25SMAと50SMAがデッドクロスしている5950 -6000あたりは重いだろう。


編集部より:この記事は、個人投資家Shen氏のブログ「炭鉱のカナリア、炭鉱の龍」2025年3月9日の記事を転載させていただきました。