水産物等の卸売市場においては、卸売業者は、売り手である出荷者を代理し、仲卸業者は、小売業者や飲食店等の買い手を代理しているが、両者は、取引対象の商品について等しい情報をもっている、即ち、情報の対称性のもとにあるからこそ、対等な条件のもとで需給を均衡させて、公正価格による取引を成立させ得ているのである。

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ここでは、仲卸業者の商品価値を評価する能力が決定的に重要である。なぜなら、商品に関する完全情報は出荷者のもとにあって、卸売業者は、出荷者を代理することで、情報の優位を得ているのだから、仲卸業者は、豊富な商品知識をもち、練達した高度な目利きとして、商品を目で見て、即座に価値を評価できるのでなければ、情報は対称的にならないからである。
仲卸業者は、商品知識や経験の豊富さにおいて、小売業者や飲食店等に優越していて、そこに情報の格差があるはずだが、小売業者や飲食店等も、それなりの商品の目利きなのだから、その格差は小さく、より大きな情報格差は、小売業者や飲食店等と、その顧客である消費者との間にあるわけだ。
また、大手の小売業者等のなかには、売買参加者として、仲卸業者と並んで、卸売業者との直接取引を認められているものがあるが、こうした小売業者等は、当然のことながら、仲卸業者と同水準の商品評価能力を備えているわけで、その顧客である消費者は、非常に大きな情報格差のもとで購買していることになる。
卸売市場では、取引当事者間の情報の対称性が前提にされ、しかも取引単位が大口になっているから、情報弱者であり、かつ小口の取引者である消費者は、そこに参加できない。故に、仲卸業者と小売業者等は、消費者との情報格差を埋めて、大口を小口に分荷するという社会的責務を担うのだし、社会的責務を担うからこそ、事業の成立基盤を得るのである。いうまでもなく、この社会的責務は、普通は、顧客からの信頼と呼ばれているわけだ。
こうした市場原理は、資本主義経済においては、水産物等に限らず、全ての商品において成立している。ただし、市場の存在形態としては、水産物等の卸売市場のような物理的な建物の空間であるのは例外で、多くの場合、業者の相互取引の連鎖が作る情報ネットワークになっているだけである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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