米ジャーナリズムはどう立ち向かう?「破壊の時代」とメディアの役割

今年1月に就任したばかりの米トランプ政権だが、着任早々矢継ぎ早に大統領令に署名し、バイデン前政権の政策を次々と覆して米国内を驚かせた。

複数の国に高関税を課すとともに、米国の対外援助の大半を90日間凍結する大統領令も出し、政府は海外援助団体への助成金のほぼ全額の支払い停止を決めた。

政権発足前、すでに米テック大手はトランプ氏に擦り寄るような姿勢を見せたが、その頂点に位置するのが富豪のIT起業家イーロン・マスク氏だ。トランプ大統領はマスク氏に「DOGE=政府効率化省」を担当させ、政府予算の大幅削減が進んでいる。そのやり方があまりにも乱雑で、政府機能の一部が不全化していると伝えられている。

筆者が住む欧州も、「トランプ・ショック」の真っ最中だ。

トランプ氏は、3年前から続くウクライナ戦争でロシアに侵攻された側のウクライナ・ゼレンスキー大統領を「独裁者」に例えたかと思うと、第2次大戦後80年近くも続いてきた欧州の安全保障体制から米国の関与度を大幅に減少させる意向を示した。世界最強の軍事力を持つ米国が後ろ盾となってきた、欧州の安全保障体制は一体これからどうなっていくのか。

特にウクライナ戦争への和平に向けた動きでは、荒療治が目立つ。2月28日、ホワイトハウスでゼレンスキー氏を迎えたトランプ大統領とヴァンス副大統領が外交姿勢をめぐって激しい口論となり、その様子は世界中で報道された。ゼレンスキー氏に「感謝する」よう注文するトランプ氏の姿は「いじめ」にさえ見えた。

トランプ氏をいさめる人はいないのか。米国はどうなっていくのか。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

米ワシントン・ポスト紙の元編集主幹マーティン・バロン氏は、米国で最も尊敬されているジャーナリストの一人だ。3月4日、欧州のジャーナリズム・プロジェクト「欧州コンテキスト」(在ウィーン、協力団体ERSTEFoundation,PresseclubConcordia,fjum)がバロン氏に話を聞いた。インタビュー・イベントのタイトルは「破壊の時代の米メディアと政治」。

以下はインタビューの一部である。

マーティン・バロン氏
1954年10月生まれ。関与した調査報道記事で米ピューリッツアー賞を18回受賞した。ボストン・グローブ紙の編集長(2001-12年)、ワシントン・ポスト紙の編集主幹(2013-21年)を歴任。ボストン・グローブ紙ではカトリック教会の神父らによる児童への性的虐待と教会による組織的隠蔽を暴き、同紙はピューリッツアー賞を公益報道部門で受賞。事件の内幕は映画「スポットライト世紀のスクープ」として公開された(2015年、同映画はアカデミー賞の作品賞と脚本賞を受賞)。2013年10月、ワシントン・ポスト社はアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏に売却された。バロン氏の最新の著作は、「権力の衝突:トランプ、ベゾス、ワシントン・ポスト(CollisionofPower:Trump,Bezos,andTHEWASHINGTONPOST)」(2023年)である。

インタビューに答えるバロン氏(動画よりキャプチャー)

「事前準備ができない」トランプ政権

ーバロン氏はトランプ政権の1期目(2017-20年)の時、ワシントン・ポストの編集主幹だった。今回は2期目の政権となるが、米社会はトランプ氏の再来に対して、準備できていたと思うか。

バロン氏:トランプ氏のような大統領には、事前の準備はできない。イーロン・マスク氏をまるで副大統領のような存在にした。彼は閣僚の人事や政府省庁の仕事に大きな影響力を持つ。このような事態は予期できなかった。

私たちは、トランプ氏が政権を取れば、その言動を穏やかなものにするだろうと思っていたが、そうではなかった。

トランプ大統領はロシアのプーチン大統領とその権力にあこがれ、プーチン氏とは友人であるというメッセージを出している。欧州やカナダはそうでもないと。すべての予想を超えた動きと言える。

トランプ氏は「自分がやることはすべて正しい」と考えている。周囲をイエスマンで囲んでいる。

―どこまで破壊的行動を続けるだろうか。

バロン氏:はるか深いところまで、と言うしかない。米国は民主主義が強い国で、大統領がすべてを決めるような動きには抵抗できると思っていたが、もろいものだった。上下院も共和党が仕切っている。司法は頑張っているが。

これまでは大統領でも司法の判断を受け入れることが前提だったが、トランプ氏は受け入れない可能性もあるだろう。これから、状況はもっと悪くなると思う。

「国民の半分はトランプ支持」

ー国内の有権者の反応はどうか?

バロン氏:国民の半分は彼を支持し、半分は支持していない。今は若干のトランプ離れがあると思う。

しかし、政府が肥大していて、無駄があると多くの人が思っている。マスク氏は、「米国の対外援助制度は腐敗している」、「犯罪者集団が運営している」というが、その証拠を示していない。議会が承認し、実行されてきたのだから腐敗や乱用はないと思うが、トランプ氏やマスク氏がそう主張する。国内には対外援助の意義を疑問視する人もいる、なぜ外国を助けなければならないのか、と。

「米欧の協力体制の意義を信じない」

バロン氏:外交について言えば、トランプ氏は米欧の協力体制の意義を信じていないのだと思う。

関税については、そのうち、国民が諸外国に高関税をかけたことの影響を身をもって感じるようになるだろう。トランプは関税によって物価を下げると言っていたが、そうはならないだろう。経済が不安定になる。

ガスや車の価格が上がっていくと、国民は「何か違う」と感じるようになる。トランプ支持者は共和党支持者の州(「レッドステーツ」)にいることが多いが、ここに住む人は国からの支援を民主党支持者がいる地域(「ブルーステーツ」)よりも多くもらっている。貧困度も高い。共和党支持者の地域の大学の研究も政府支援の金額が大きい。すでに政府省庁の規模削減化政策の影響が出ている。

「トランプ政権に媚びる米テック業界」

―トランプ政権のテック業界への影響はどうか。ジャーナリズムにはどんな影響があるのか。

バロン氏:テック業界はトランプ氏に媚びへつらう状況だ。それは彼らが恐れているからだ。政府は様々な手法でテック業界を規制することができる。実際に、大統領選中にトランプ氏はメタのトップ、マーク・ザッカーバーグ氏を投獄すると言ったことがある。選挙が公平・公正に行われるように募金をしたからだ。

今や、ザッカーバーグ氏は180度変わった。トランプ支持者を取締役会にいれ、ポッドキャスト番組に出演して、政治にはもっと男性的な力が必要だといわせて、若い男性有権者にアピールしようとした。

(アマゾン創業者)ベゾス氏の場合は、ワシントン・ポストだけではなく、はるかに大きい規模である自分のビジネスへの影響を考えたのだろう。アマゾンは連邦政府とクラウドサービスで大きな契約を結んでいる。

ベゾス氏は宇宙プロジェクトも手掛けている。最近、ロケットを軌道に乗せることに成功した。マスク氏が所有するスペースXと競合しようとしている。

トランプ氏はいつも同じ手段を使う。力、いじめ、脅しだ。

―抵抗しようとするテック人はいるのか。それとも全員そうなのか。

バロン氏:リンクトインの創業者は民主党の支持者で、そういう意味では反対の位置にいる。しかし、あまりいない。

「もっともっと報道するべき」

ージャーナリストやメディア組織はどうするべきか。

バロン氏:ジャーナリストは民主主義社会で重要な役目を持つ。もっともっと報道するべきだ。すべてを検証し、事実をしっかりとつかむこと。誰かを低く見ることはしないこと。独立した立場から報道する。これが私たちへの信頼感の源となる。

最終的には、市民がどんな政府にしたいのかを決めなければならない。

私たちメディアには政府がやっていることを積極的に報道していく機会と義務がある。

米国で最も政治力を持っているのは大統領だ。世界的に、と言ってもよいだろう。だからこそ彼について書くべきだ。米国の創設者たちが自由で独立した報道機関の設置を憲法で定めている。

「検証する(examine)」という言葉に注目したい。これは、カーテンの後ろに入って、何が起きているかを報道することを指す。私たちは活動家ではない。独立の立場から、何が起きているかを探し出し、報道するのが役目だ。

―どのメディアが優れた仕事をしていると思うか。

結構たくさんある。ワシントン・ポストもそうだ。最近のベゾス氏の動きは悲しいが、編集内容については干渉していないようだ。私が同紙の編集主幹だった時には干渉はなかった。もし干渉があったなら、私もあなたも知っているはずだ。というのも、ニュースの編集室というのは情報が最も漏れやすい場所だからだ。

ベゾス氏とワシントン・ポスト

昨年、同紙は11月大統領選で民主党ハリス副大統領と共和党トランプ前大統領のいずれも支持しないと表明。同紙が大統領選で支持する候補を表明しないのは36年ぶり。ベゾス氏がこの方針を決めたといわれている。当時、バロン氏は「民主主義を犠牲にする臆病さ」と評した。

バロン氏:ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、放送局ABC、CNN、雑誌アトランティック、ニューヨーカーもよい仕事をしている。ウォール・ストリート・ジャーナルは保守系かもしれないが、トランプを非常に厳しく批判している。

メディア消費は分極化

ーそのようなメディアは国民にどのように広がっているのか。

バロン氏:米国のメディア消費は、ほかの国もそうであるように分極化している。実際にニューヨーク・タイムズを購読して読んでいる人はひとけた台ではないか。10%にはなっていない。ワシントン・ポストもそうだ。

トランプを支持する人はフォックス・ニュースを見ている。別世界だ。フォックス・ニュースは事実よりも意見の表明が多い。本当ではないことを言っている。トランプ政権のプロパガンダになっている。政府がメディアに出るときに選ぶのは、フォックス・ニュースだ。

メディアは、社会の中の特定の意見ばかりを取り上げるべきではないと思う。多様な視点を紹介するべきだ。私たちメディアは全米中を訪れ、様々な人の視点がメディアに反映されるようにするべき。トランプ氏の支持者の声も、だ。

ほとんどの米国民は政治とは関係のない生活を送っている。なんとか生活し、子供達にはよい教育を与え、自分の子供たちは自分よりもよりよい人生が送れるようにと努力している。こうした人たちの声、何を望んでいるのかを伝えていくべきだろう。こういうことを定期的に、継続してやっていけば、人々はメディアにもっと信頼感を抱くようになるだろう。長期的な話になるだろうが。

同時に、単に報道するだけではなく、どうやって報道しているかを示すことも必要だ。どのようにして情報を得ているのか、そのやり方などを公にする。文書、動画、データ、なんでもよいが。「私たちの仕事ぶりをチェックしてほしい」がキーワードだ。読者にはそうする権利がある。チェックする機会を与える。もし間違っていたことがあったら、それを読者に知らせる。

「事実が共有されていない」

―ソーシャル・メディアについてどう見るか。

バロン氏:多くの人がソーシャル・メディアからニュース情報を得ている。全くニュースを読まない人もいる。友人や家族から情報を得るからだ。

最近の世論調査によると、3分の1の人がどのメディアからもニュース情報を得ていなかった。次の3分の1はソーシャル・メディアからだった。これによって、自分がもともと持っていた見解が強化される。残りの人は伝統的なメディアに行くが、自分たちの信条に合致したメディアを消費する。

私たちは難しいときにいるのだと思う。社会の中で、事実が共有されていないからだ。もっと悪いことには、どうやって事実を確定するかについてさえ合意がない。

今まで私たちが事実確定のために使ってきたことは今は通用しないのだといわれてしまった。つまり、教育、専門性、経験、そして実際の事実だ。しかし、こうしたことがすべてが否定され、価値が低く見られる危険な状況がある。

全員を納得させることはできない。5%の人でも納得させられたらいい。そこで私たちがどのように事実を確定しているかについて、徹底的に開示する。報道するだけではなく、どうしてそう思ったかを見せる。5%を納得させられたら、世界が変わる。今度は次の5%を説得する。

ロシアとの距離感

ーロシア政府の関係者が米大統領官邸に入っていた。影響を与えていた可能性は?

バロン氏:驚くことではない。第1期目の2017年、トランプ氏はロシアの閣僚と官邸で会っている。これを目撃した唯一のメディアはロシアのメディアだった。驚くべきことだった。

今のトランプ氏は、なぜかプーチン氏を喜ばせようとしている。なぜそんなことをしなければならないのかわからないが。世界平和を実現するには、プーチン氏の側にいるべきと思っているのかもしれない。そうすることによって、平和ではなくもっと対立が起きると見る人もいる。

米政権はロシアも同様のことをしてくれるだろうと思っているのかもしれないが、そんなことはないだろう。

米政府はロシアに対するサイバー攻撃を止めたと発表した。ロシアが対米のサイバー攻撃を止めたという話は聞かない。なぜ米国は停止したのか。

ウクライナ戦争でも、米政府はゼレンスキー大統領に譲歩を求めた。ロシア側には譲歩を求めているのだろうか。ロシアにどんなプレッシャーを与えているのか。政府側は答えていない。

―トランプ政権下でも、ワシントン・ポストやほかの伝統メディアは果敢な報道を続けられるか。例えばベゾス氏が何か言ってこないか

バロン氏:これからの報道ぶりを見ないといけないが、今のところよくやっていると思う。

ワシントン・ポストはイーロン・マスク氏がどのようなことをしているのかを調査報道で明らかにした。いかに国民の個人情報にアクセスしているか。私的情報であるはずの医療情報、税金支払い情報にも。

DOGEによって大きな節税ができるというが、どうも数字が合わない。ポスト紙はDOGEの仕事の内容やマスク氏がいかに利益を受けているかを明らかにした。ジャーナリストたちは積極的に報道してきた。

重大な国家機密報道がどうなるか

バロン氏:もっと微妙になるのが、国家の安全保障にかかわる出来事だが、例えば(元CIA職員の)エドワード・スノーデン氏のように、何らかの国家機密が報道された場合、トランプ政権はここぞとばかり、報道にかかわったジャーナリストばかりか、編集長、出版社、所有者までをも追及しようとするだろう。

本の中にも書いたが、その時にどうするかがベゾス氏を判断する材料になる。私が編集主幹の時は国家機密も報道したが、スノーデン氏ほどの大きな機密ではなかった。だから、次回そうなったときにどうするかで判断できる。

ベゾス氏はいろいろな権益を持っている。アマゾンは政府の情報機関にもクラウドサービスを提供している。

トランプ政権はメディアを追及する機会を待っている。これだけは確実に言える。

-米国の民主主義はどうなる?2026年の中間選挙は何らかの影響を及ぼすか?

中間選挙:次は2026年実施。
米上院:100議席、任期6年(2年ごとに約3分の1ずつ改選)、下院:435議席、任期2年(2年ごとに全員改選)。
現在の議席構成は上院は共和党53、民主党45、無所属2=民主党系、下院は共和党218、民主党214、空席3。

バロン氏:民主党は今どう対応するべきかを考えている。民主党指導部がトランプ政権をもっと強く批判をするべきだという人もいる。

しかし、いつ何を批判するのか。いつも攻撃してばかりだと、「またいつもの政治か」と思われてしまう。「大統領選の結果を受け入れていない」などと思われるだろう。民主党は一つにまとまっていない。しかし、そのうちもっと意見を表明するようになるだろう。特に関税の影響で経済が悪くなっていった時だ。また、トランプ氏がさらにプーチン氏に近づき、これまでの外交上の友人たちの反感を買っていくとき、民主党はもっと声をあげるようになるだろう。

中間選挙がどうなるかは、私には予測できないが、民主党はもっと発言するようになっているだろうと思う。

トランプの移民取り締まり策を支持する国民が少なくないという点も考えないといけない。移民問題が大きな問題としてとらえられているのは、確かだ。

「共和党はすっかり変わってしまった」

―トランプ大統領もマスク氏も「国民は私たちに投票した」とも繰り返し、まるで国民全員が支持しているかのように話しているが。

バロン氏:確かに国民はトランプ氏に投票し、選挙に勝った。共和党が上下院を仕切っているせいもあるだろう。共和党はトランプ氏が牛耳っている。共和党ではなくてトランプ党とかアメリカ党とか名前を変えるべきなのかもしれない。

共和党はすっかり変わってしまった。現時点で、トランプ氏に反旗を翻す共和党議員はほとんどいない。トランプ氏に支持されないと、自分の議席を失うのではないかと恐れている。

―トランプ氏とマスク氏とはいつか衝突するか。

バロン氏:いつかは関係は悪化するだろう。どんな政治関係もそうだ。トランプ氏は自分のそばに頭がよいテック人を置いておくのが好きなのではないか。自分のために汚い仕事をしてくれるような人物だ。

マスク氏が閣僚と衝突するのも無理はない。マスク氏は20代で構成されたチームを使って、誰を解任するかを決めている。誰かに話をして決めるのではなく、データやアルゴリズムで決めているようだ。リサーチを十分にした気配がない。重要な職に就く人を辞めさせて、支障が生じ、また再雇用した場合もある。

悪い状況が出てきたら、トランプ氏はマスク氏のせいにするかもしれない。トランプ大統領は自分では責任を取らない人物だ。今年になって、1期目の政権のマイク・ポンペイオ元国務長官への警備が断ち切られたが、ほんの少しでも自分のことを批判したからというのが理由だったようだ。

―リベラルなメディアは、人が合理的にふるまうことを前提として考えているようだ。実際は違うだろう。どうするべきか

バロン氏:確かに、合理的にふるまうだろうと思っていても、実際に違うことはある。また、人は「この人とは合う」と思う人を選びたがるものだ。また、自分の親しい友人が投票する政党はどこかなどが気になるものだ。合理的というよりも、感情を元にして行動を決めているのが現実だ。

したがって、私たちはジャーナリストとして、もっと違うやり方で読者とコミュニケーションしなければならない。

例えば、今はインフルエンサーと呼ばれる人がたくさんの人とつながって、成功している。

伝統メディアの場合はこれまでの経験があるし、リサーチもやっている。該当するトピックに関しての長年の知識もある。しかし、信ぴょう性をもって話すことができないと、その事柄について話す権限がないように思われてしまう。読者がメディアを信頼しないことにつながる。

だから、私たちはメディアとしてコミュニケーションの仕方を変えなければならない。大きな変化が必要だ。コミュニケーションできていないことに失敗していることを認めなければならない。ポッドキャスターやインフルエンサーから学ばなければならない。

デジタル革命のときもそうだった。私たちは変化を受け入れることが遅かった。今はデジタルを受け入れ、いろいろやるようになった。

私たちは今、いかに効率的にコミュニケーションできるかを考えて、手法を変えていかなければならない。

「元に戻せないほどの大きな変化」

―トランプ政権が発足してから5週間。これからの4年間で、米国は修復がつかないほど変わってしまうのだろうか。

バロン氏:元に戻すことがとても難しくなるほどの大きな変化が米国社会で起きている。

独裁的政権はいったん発足してしまうと、これを変えることは非常に難しくなる。民主主義や民主主義社会の柱と思われたことが変わってしまう。既成組織が破壊された後、また築き上げるのは大変だ。4年間で、アメリカもそして世界も大きく変わるだろう。

もし高インフレになったり、経済がめちゃくちゃになったり、アメリカが不要な紛争に巻き込まれるようになったら、トランプ氏を選んだがために代償を払ったことになる。

2年後、あるいは4年後でもまだ自由で民主的な選挙制度があるとしたら、正直に言うと推定でしかないわけだが、経済が悪いと結果は大きく変わってくるだろう。トランプ氏に投票した人は今度は変えるかもしれない。

トランプ氏は今、アメリカの民主的な組織を破壊しようとしている。様々な事実を否定する。

民主主義社会を信じる私たちは、民主主義の基盤となる組織を守るよう、自分ができることをしなければならない。

連日、ジャーナリストは良い仕事をしていると思うが、心配なのは所有者だ。大手テレビ局は特に企業が経営している。企業は様々な利害関係を持つ。

新聞では特に心配なのがワシントン・ポストだ。私がいるときはベゾス氏は干渉しなかったが、最近の例があるので、心配だ。ロサンゼルス・タイムズも、トランプ氏に迎合する姿勢を見せている。

インタビューを聞いた後で

筆者には、2つのことが特に強く印象に残った。

一つは、「ジャーナリストやメディア組織が読者・視聴者とコミュニケーションをする方法を変えなければいけない」という点だ。

これは自分自身が読み手・視聴者・情報の受け取り手となった時、そして自分が情報発信者でもある時に、しみじみと感じていることだ。

筆者はニュース情報の多くを音声(ラジオ・ポッドキャスト)あるいは映像(テレビや映画)で吸収している。ニューサイトでも読むが、音声・映像でのインプットが大幅に増えている。文字情報だけではなく、音声・映像での発信でないと届かない場合があるのではと感じている。

もう一つは、「大きな変化が米国社会で起きている」という点だ。

欧州ではトランプ政権の方針によって安全保障体制が大きく変わりつつある。ポーランドはすべての成人男性に軍事訓練を受けさせる計画を立て、フランスのマクロン大統領は5日夜のテレビ演説で、ロシアの脅威が欧州に差し迫っているとして、フランスの核兵器による抑止力を欧州に広げることを検討すると表明した。トランプ・ショックのあと、それぞれが慌てて動きだした感じがある。

しかし、「何が起きるかわからない」から、そうするしかないのが現状なのである。


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2025年3月11日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。