トランプ米大統領を冷笑する意図や考えもないことを先ず断っておきたい。トランプ氏は1月20日、第47代大統領の就任式を終えた後、大量の大統領令に署名してきた。その署名の度に世界は喜んだり、悲しんだり、怒ったり、首を傾げたりしてきた。トランプ氏は自分の言動に関心がある世界の人々を飽きさせない才能の持ち主だ。

ドイツ鉱物資源庁の公式サイトより
そのトランプ氏が目下関心ある不動産物件は3件だ。世界最大の島、デンマーク領土のグリーン島、ウクライナ、そしてパレスチナ自治区ガザの3件だ。グリーン島にはレアアース(希土類金属)など豊富な地下資源が埋蔵しているといわれる。ウクライナの場合も鉱物資源だ。トランプ氏はウクライナとの停戦交渉では埋蔵されているレアアースの採掘に関連した取引きをキーウ側に持ち掛けている。中東ではイスラエル軍の攻撃で破壊されたパレスチナ自治区ガザからパレスチナ人を隣国のヨルダンやエジプトに移住させ、その後、ガザ区を世界的なリゾート地域に開発する計画を有している、といった具合いだ。
グリーン島、ウクライナ、ガザ区の3件を羅列すると、トランプ氏はやはり不動産業界出身者だと痛感せざるを得ない。その土地の価値を臭覚で判断できるのだ。それらの土地に埋蔵されている地下資源に熱い関心がある。ただそれだけならば、トランプ氏は政治家の仮面を被った利権を漁るビジネスマンに過ぎない。トランプ氏には別の政治的な計算が働いているのだ。グリーン島やウクライナの2件ではズバリ、レアアースの開発だ。中国が世界のレアアース市場を支配していることに、米国は国家安全への危機感を持っているのだ。

トランプ氏と習近平国家主席 2017年 中国共産党新聞より
ちなみに、レアアース金属とは、17種類の金属の総称であり、その中には9種類の重希土類金属と8種類の軽希土類金属が含まれる。これらは「戦略的資源」に分類されており、経済的に重要である一方、供給リスクも高い。金属そのものは必ずしも希少ではないが、大規模な埋蔵量を持つ鉱床は少ない。
レアアースはスマートフォン、電気自動車、最新の兵器システムなどに欠かせられない。特に深刻なのは重希土類金属の供給だ。これらは自動車産業だけでなく、米国の防衛産業にも不可欠な素材だ。現状では、重希土類金属は100%中国から供給されており、中国で採掘されるか、少なくとも精製されている。
オーストリア国営放送は13日、「レアアース、中国の支配は続く」というタイトルでドイツ鉱物資源庁(DERA)の研究結果を報告している。以下、その記事の概要を紹介する。
「DERAが13日に発表した研究によると、世界が中国に依存し続ける状況は当面変わらない。その理由は、現在のレアアース金属の世界市場価格が低迷していることだ。現在、レアアースを採掘・加工しているすべての企業が経済的な問題を抱えている。中国企業も例外ではない。そのため、他国での新たな採掘プロジェクトの実施が難しくなっている。さらに、中国以外の地域では、採掘や加工に必要なインフラが不足している。中国の場合、豊富なレアアース資源を持つだけでなく、長年にわたる大規模な政府投資によって原材料の精製ネットワークを築いてきた。さらに、この分野で必要な技術に関する特許を多数保有している。DERAの専門家によると、電気自動車のバッテリー、スマートフォン、風力発電機などに使われるレアアースの需要は今後大幅に増加する見込みだ。ちなみに、DERAの研究によると、2023年の世界のレアアース金属生産量の約60%が中国によるものだった。精製加工においては中国のシェアは93%に達している」
「デンマーク・グリーンランド地質調査所(GEUS)の推定によると、島内には3,610万トンのレアアース金属が埋蔵されている。しかし、米国地質調査所(USGS)によると、そのうち実際に採掘可能な量は約150万トンに過ぎない。これは、中国(4,400万トンの軽希土類・重希土類金属)やブラジル(2,100万トン)の埋蔵量と比べると、かなり控えめな数字だ。グリーンランドでは現在レアアースの採掘は行われていない。2021年にグリーンランド政府がウラン採掘を禁止したことで、中国が支援するレアアース開発プロジェクトも頓挫した。また、ウクライナにも複数のレアアース鉱床があるが、今のところ採掘はされていない。ウクライナでは、ザポリージャ、ドネツク、ドブラ周辺の地域には大量のレアアースが埋蔵されていると推定されているが、これらの地域はロシアが占領しているか、その周辺に位置している」
なお、中国政府は2010年の尖閣諸島をめぐる対立の中で、日本へのレアアース輸出を一時的に停止した。これは、日本のハイテク産業に大きな影響を与え、中国がレアアースを政治的手段として利用した最初の実例となった。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。