「常在戦場」の政治家に「政治活動」でない「会食」はあり得ぬ

13日夜に『朝日』が「石破首相側が15人の議員側に商品券配布 10万円ずつか、複数証言」と報じた。石破氏は直ぐさま記者団の取材に応じ、政治資金規正法に抵触しないか問う記者に、以下のように「第何条のどの条文を仰っていますか」との逆質問を5度繰り返した

記者「政治資金規正法に抵触しないと考えるか」
首相「政治資金規正法第何条の、どの趣旨で仰っていますか」
記者「──………」
首相「第何条のどの条文を仰っていますか」
記者「──………すいません」
首相「いま、政治資金規正法上と仰いましたので、第何条のどの条文か仰っていだたけますと、正確にお答えできますが」
記者「──………すいません」
首相「どうぞ仰ってください。法律上の解釈を仰っておられますので」
司会「その他、いかがですか」
記者「商品券は首相のポケットマネーからか」
首相「さようでございます」
記者「事前に首相は商品券を配ることは承知していたのか」
首相「当然、その通りでございます」「どうぞ」
記者「政治資金規正法21条の2項に抵触するのではないか」
首相「ですので、そこのどこの部分ですか」

「慇懃無礼」という語がある。『デジタル大辞泉』には「表面は丁寧で礼儀正しいように見えるが、実は尊大で無礼なこと。また、そのさま」と解説されているが、真にその使用例として掲げたいような石破氏と記者のやり取りではなかろうか。

石破首相 首相官邸HPより

事の核心は、石破氏が3月3日に新人15名と官房長官・副官房長官2名の19名で開いた「会食」(@15千円)が「政治活動」に当たるかどうかであって、商品券の額やその出どこがポケットマネーか否かなどは二義的な問題だ。だからこそ石破氏は5度も問答を繰り返したのである。

そこで、記者がようやく見つけた「政治資金規正法21条の2」にはこう書いてある。

(公職の候補者の政治活動に関する寄附の禁止)
第21条の2 何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはならない。
2 前項の規定は、政党がする寄附については、適用しない。

キーワードは「公職の候補者」、「政治活動(選挙運動を除く。)」。そして「金銭等によるものに限る」の3つだ。判り易いところから、先ず「金銭等」とは「金券」、即ち「金銭の代わりに通用する券」を指すから、「商品券」も「収入印紙」や「切手」など共に当然含まれる。

次に石破総理総裁が「公職の候補者」か否か。ちょっと違和感はあるが、政治資金規正法が定義する「公職の候補者」には、「公職選挙法(昭和25年法律第100号)」の「第3条に規定する公職にある者を含む」。つまり、同法86条にいう選挙の候補者に限らないということ。

「公職選挙法第3条に規定する公職にある者」については、「この法律において『公職』とは、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長の職をいう」と定義されている。よって、衆議院議員である石破氏も「公職の候補者」に含まれるのである。

そこで「政治活動」のことになる。「政治活動」の法令上の定義は存在しないようだ。が、各都道府県や市区町村などのサイトには、「選挙運動」との違いという観点から「政治活動」について書かれている。例えば新宿区のHPの記述は以下のようだ。

「政治活動」と「選挙運動」は、どのように違いますか。

政治活動とは、「一般的には政治上の目的をもって行われる一切の活動、すなわち政治上の主義、施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し又は候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを目的として行う直接間接の一切の行為をいう。」ものとされています。中略

しかしながら、公職選挙法においては、「政治活動」と「選挙運動」を理論上はっきり区別しており、ここにいう政治活動とは、「政治上の目的をもって行われるすべての行為の中から、選挙運動にわたる行為を除いた一切の行為をいう。」ものとされています。

石破氏は「私の選挙区にお住まいの方も全くいらっしゃいませんので、公職選挙法にも抵触をするものではございません」と述べているので、それは諒としよう。だが、「会食」が「政治上の目的をもって行われるすべての行為の中から、選挙運動にわたる行為を除いた一切の行為」に当たらないとすることには疑念がある。

例えば石破氏が、件の新人15名を党本部に集め、党の総裁として、自民党の来し方、議員としての心得などを、労いの言葉を交えつつ語ったとすれば、それは自民党の「政治上の主義、施策を推進」するための訓示であることは明白だ。よもや石破氏も、それを「政治活動ではありません」などとは言うまい。

では、それが首相の公邸か官邸か知らないが、会食付だとなぜ「政治活動」に当らないというのか。会食が1時間(2時間かも)行われたとして、そこでの話題が「自民党の来し方、自民党議員としての心得」などには一切触れず、下世話に終始したとでもいうのか。そうだとすれば、これもまた問題だが。

記者は、石破氏が「会食」(及びお土産)の意図が「労い」だと強弁するなら、逆質問におたおたせず、石破氏が「会食」中に何を述べたかを問い質すことが必要なのだ。同様に、新人15名にも、石破氏がそこで何を語ったか、どういう話題が出たのかなどを取材せねばならない。

石破氏は「一人飯」が多いらしい。が、菅(すが)元総理などは「会食のハシゴ」で有名だった。政局になれば誰と誰が「会食」したかがメディアを賑わす。「常在戦場」とは政治家のためにあるような語だが、そうした政治家の「会食」は須らく「政治活動」なのである。

石破総理総裁のままで夏の参院選を戦いたい野党は、この問題を追求する腰が全く引けている。が、夏に改選を控えた西田昌司氏や青山繁晴氏などは公然と、両院議員総会での総裁交代を口にし始めた。

そもそも安倍政権での国政選挙6連勝の期間、ずっと党内野党として政権を後ろから撃っていた人物が、自民党の主流になれる道理がない。筆者に言わせれば、即座に「お土産」を返した新人の方が余程しっかりしている。石破総理総裁は、一刻も早く退陣すべきである。