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令和のコメ騒動にアメリカはどう動いているのか。先日、大統領報道官は「日本のコメ関税700%!」と宣戦布告したばかりだが、これはアメリカの官民一体となった日本のコメ市場攻略への狼煙である。「正しくは400%だ!」などと官房長官は呑気に反論するが、問題の根本を分かっていない。解説しよう。
まず、日本市場で割安なコメの需要が急騰している事実を正しく認識する必要がある。「日本のコメ関税は700%だ!」との発言は日本のコメ輸入が不公平との指摘と同時に、コメ高騰に苦しむ日本国民へのメッセージでもある。日本の生活者に対し、懐に優しいアメリカ産米のポジショニングを図っているのだ。
その背景として、アメリカ政府は令和のコメ高騰を冷静に分析済みだ。農務省の専門レポートを読めばわかる。アメリカ産米・潜在需要の急騰を読み切っている。そこで米国のコメ業界はトランプ政権に働きかけ、日本市場の開放を要求。その実現のため日本政府に対し、関税を下げろとメッセージを発している。
トランプ政権の動きとは別に、本丸の米国コメ業界は、日本マーケットの潜在力を最大限に引き出し、攻略するため、多角的な戦略を展開している。その中心となるのが、アメリカのコメ農家業界団体のUSAライス連合会である。以下に具体的な活動内容をまとめる。
まず、日本向けプロモーション活動の強化を徹底している。2025年1月23日、USAライス連合会と国際プロモーション委員会の指導者らが東京を訪れ、国際プロモーション計画会議を開催した。
この会議では、アメリカ農務省(USDA)の市場アクセスプログラム(MAP)、海外市場開拓プログラム(FMD)、地域農業プロモーションプログラム(RAPP)からの資金を活用し、2025年の日本向けマーケティング予算を策定。
日本でのコメ需要の高まりを受け、RAPP資金を活用したプロモーション拡大が計画された。特に、日本の大手米卸業者(神明、木徳神糧)や米穀卸団体(全米販)と連携し、アメリカ産米の品質や供給力をアピールしている。
USAライス連合会国際推進委員会のスティーブ・バーガス委員長は「日本は米国最大の米輸出市場の一つであり、この好機を逃さない」と強調した。そのため、USAライス連合会は日本政府との直接対話も図っている。USAライス連合会は農水省と定期的に会談を行い、輸入規制の緩和を働きかけているのだ。
USAライス連合会は農水省の会議で、同時売買(SBS)入札で米国が10万トンの枠のうち6万トンを受注した実績を基に、さらなる市場アクセスの拡大を議論している。その際、2025年のカリフォルニア米の生産予測を明確に提示し、日本のコメ農家の不安定な供給に対し、アメリカ産の安定供給体制をアピール。
アメリカの米業界は日本のコメ輸入業者との交流を深め、信頼関係を強化している。2024年7月24日には、第27回日米コメ技術会議をカリフォルニアで開催。日本の輸入業者を招待し、水田・精米所ツアーを実施した。アメリカ産米の需給動向や品質管理を説明し、その高い信頼性を現地で示した。
さらに、2024年9月には日本の農水省代表団がカリフォルニアの稲作現場を視察。USAライス連合会のメンバーが田んぼや精米所を案内し、輸出前の検査プロセスを公開することで、品質への信頼を高めた。これらの取り組みは、高品質なアメリカ産コシヒカリやカルローズの競争力を訴求するものだ。
USAライス連合会は日本市場の攻略のため、資金調達にもぬかりはない。2024年12月19日、USDAからRAPP資金として680万ドルを追加獲得(年間総額1305万ドル)。この資金は、日本を含む既存市場の強化と新興市場開拓に充てられる。
USAライス連合会バーガス委員長は「アメリカの米生産の半分が輸出に依存する中、資金は輸出市場拡大に不可欠」と述べ、日本での需要増に対応する意欲を示した。「日本におけるコメ在庫の低下と価格高騰(前年比70%増)は、輸入米への需要を押し上げている」と冷静に分析。
一方、「日本の高齢化による生産力低下も追い風だ。アメリカはミニマムアクセス枠での最大供給国として地位を固めつつ、高関税(1キロ341円)が障壁となる枠外輸入の規制緩和を求めていく」と語る。USAライス連合は「一連の活動を通じ、米国コメ業界は日本市場の開拓と普及を目指す」と意気揚々だ。
(編集部より)この記事は、浅川芳裕氏のX(@yoshiasakawa)のポストを、許可を得た上で転載いたしました。