木造アパート経営は日本の特徴でありますが、確実に衰退していくであろうビジネスかもしれません。私が小さい頃、大人たちは「アパート経営はいいよ。休んでいても病気していてもお金がチャリン、チャリンって入ってくるんだからね」と口をそろえていたものです。あれから40年以上たち、少なくとも都心では木造から鉄筋コンクリート造のマンションになったり、古いアパートは少しずつ取り壊され、時として土地を分割し、小規模の3階建て住宅にしてパワービルダーや名もなき不動産会社がお値打ち価格と称して売っていく、そんな構図でしょうか?

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この変遷は土地やアパートを所有する方々が高齢化し、お亡くなりになった場合に相続の対象となり、不動産を売却するケースが一つあるでしょう。また古い木造アパートの耐久性に問題があり、賃借人も高齢化したり家賃の未回収が生じたりするケースもあります。家賃の延滞率は5-6%だとされますが、古いアパートに住む高齢者や無職の方にそのようなケースが目立つこともあります。それもありアパートの大家は無収入の人には貸したがらないわけです。
もう一つ、隠れた問題として賃借人を見つけたり契約を含め面倒なやり取りをしてくれる不動産屋が見つからないケースがあります。どういうことでしょうか?
これは不動産屋も抱える賃貸案件を一定の需要と供給のバランスで見ています。もしも借り手よりも貸主が多すぎると大家さんからすれば「ウチの物件にはさっぱり客がつかないじゃないか?」と苦情を受けるでしょう。借り手は多くの物件を比較してよさげなものを選ぶのでどうしても成約する物件には偏りが出てしまうのです。すると不動産屋は「この物件は借り手を見つけるのが難しそうだから専任媒介は止めておこう」ということになるのです。
もちろん、大家の一見さんもお断りでしょう。仲介業とは大家さんとの関係が重要になるわけで面倒そうな方は遠慮させていただきます、ということになるのです。
もう一つは不動産仲介手数料です。例えば専任媒介している地場の不動産屋が客付けをしてくれれば手数料は約定の金額一本で終わりです。ところがもしもネットなどで見かけるような著名なネット仲介などを通じて客付けが行われた場合、手数料は2本、つまり2倍になります。これには私もムカついたのですが、仲介料をダブルで払った入居者が2か月で退去してしまい、私としては手数料倒れになったケースがありました。
こう見てもお分かりの通りアパート経営は実にローテクで人間臭い業務がちりばめられているとも言えます。
では借り手から見たらどうでしょうか?これも都心のケースになりますが、マンションの賃貸借が物件として圧倒しています。理由はセキュリティや建物の耐震性、音漏れなどでしょう。供給される物件数も多く、比較的新しい木造アパートとさほど価格が変わらない点も若い方を中心に選ばれるケースが多いようです。
これからアパート経営をしてみようという方へのアドバイスです。まず物件の所在地が客付けしやすいのかよく調査することです。住宅街なのか、大学や会社、工場のそばなのか次第で条件はまるで変わります。また例えば大学のそばだと当然競合も多い上に最近は大学がより便利ところに移転する現象がしばしば起きています。私の母校も厚木にキャンパスがあったのですが、わずか21年で相模原にそっくり移転するなど誰も想定しておらず、厚木の最寄り駅周辺は空き家のアパートだらけになったという逸話もあります。
また今から新築を考える場合は建設会社の高くなった見積もりをよく吟味した方がいいでしょう。それだけ投資しても本当に利回りが確保できるか、です。昨今の建築費は10年前の5割増しぐらいだと思います。今後も下がることはないでしょう。大工さんなど熟練した人出が足りないからです。
リターンですが、表面利回り(年間賃料収入と開発費の総額の比率)で最低でも10%は欲しいところです。経費や金利などコストを差し引いた実質利回りは現状3-5%ともされます。ですが5%の利回りはずっと満室経営で資金回収に20年かかるという意味です。建物の老朽化を考えると投資案件として私は5%ではとっても勝負できません。ましてや老後の安心収入などそれは大きな見当違いとも言えます。それなら配当利回りの良い株式投資の方がどれだけおいしいか。
お前は確かアパートを1軒経営していたな、と記憶されている方もいらっしゃるでしょう。2022年に完成させた物件が1つあります。おかげさまでずっと満室経営なのですが、実態は不動産屋が客付けした賃借人が退去するたびにその部屋を外国人向けに家具付き光熱費WiFi込みの住居に切り替えているのです。理由は不動産屋を介さず、自分で即座に客付けできることが最大の理由です。家具などのわずかな追加投資で賃料は高めに設定できるため、収益は改善します。ただし、契約を含め英語で細かいやり取り、また入居中もいろいろ出てくるのでそのコミュニケーションができないと難しいでしょう。
アパート経営は寝ていても休んでいてもお金がチャリン、チャリン入る時代ではありません。必死に経営しないと利益は出ないし、空き室であればそれは機会損失なのです。私どもの世界では昔、それを「八百屋より悪い」と称していました。意味は八百屋なら売れなくても古くなった野菜が残るけれど空き家は全く何も残らない」というわけです。
日本の木造アパート、地方はまだ健在だと思いますが、その様相は少しずつ形を変えていきそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月18日の記事より転載させていただきました。