アメリカの介入による2つの戦争へのPauseボタンは十分に機能しているとはまだ言えそうもありません。一時停止すら容易ではないのに長期的な停戦や終戦となるとはるか彼方に霞んでいるような気すらしてきます。
まずトランプ氏とプーチン氏の電話会談。先週お伝えしたように学者や研究者は合意はないだろうとみていました。トランプ氏の会談前のコメントも「プーチン氏が合意することを望む」という希望的観測であったことからアメリカ側の提案に対してプーチン氏がもろ手を挙げて賛成ではなかったことはあらかじめ予見できました。

トランプ大統領(ホワイトハウス X)、ゼレンスキー大統領(同大統領インスタグラム)、プーチン大統領(クレムリンHP)
プーチン氏は「30日間停戦して何の意味がある?」と繰り返し述べており、会談で難癖をつけるのは明白でした。実際の電話会談で出てきた妥結は「インフラを30日間攻撃しない」。正直申し上げて私のひと言目は「なんじゃこりゃ?」であります。私が見るロシアの時間稼ぎ策の1つにはロシア領クルスク州の奪取ではないかとみています。ウクライナ軍が24年夏に始めた威勢良いロシア領内への進軍もロシア側が北朝鮮兵も投入し、総力を挙げての奪回作戦で押し返され、現時点でウクライナによる最大占領地の9割近くを失うばかりか、ウクライナ軍が実質的に包囲されているとされます。ロシアとしてはもう一息というところなのでしょう。
ウクライナとロシア、俯瞰すれば国力も兵力も違いすぎます。ウクライナは武器を諸外国からの支援で凌いだとしても兵力には限界があります。トランプ氏との会談でプーチン氏はウクライナへの武器供与と情報提供を止めるよう要請したようです。これらを受けて今日、トランプ氏とゼレンスキー氏は電話会談を行いました。インフラの30日停戦は合意されそうですが、ウクライナの原発をアメリカが所有管理する新提案は真の意味での「 死の商人 アメリカ」と呟きたくなります。
領土問題で明白なる立場の相違があり、現時点で長期停戦できる下地はまだないように感じます。
一方、イスラエルのガザ侵攻。3段階ある停戦の第1ステップが終わり、第2ステップに入る条件闘争で双方の足並みが揃わず、イスラエル側が一気にガザへの戦闘を再開してしまいました。アメリカの仲裁担当はウィットコフ中東担当特使です。氏は不動産業を主として弁護士資格も持ち、トランプ氏とはゴルフ仲間であります。私からすればお友達人事の典型。その氏はイスラエルとガザの第1ステップの停戦を成功させたとして評価を得ています。その後、ロシアに飛び、ロシア高官やプーチン氏と今回の下地交渉をしてきました。こう見るとウィットコフ氏の外交成果は1勝1敗1分け(ガザ第一ステップ〇、ガザ第二ステップ✕、ウクライナ△)の成績で、氏の外交努力による2つの戦争へのPauseボタンは現時点ではまだ評価しにくいところにあります。
アメリカが更にコトを複雑にしたのはアメリカによるフーシ派への直接攻撃。これは一時収まっていた紅海を航行する船へのフーシ派による攻撃が再開したことを受け、トランプ氏が攻撃を命じたものでこちらはアメリカ対フーシ派の戦いになっています。フーシ派はイスラエルの敵であるハマスと一蓮托生であることからイスラエルのガザ再侵攻はフーシ派を含むイスラム過激派に刺激を与えることになりかねません。
何故戦争が止まらないのでしょう?私の見解は「アメリカが一国でやろうとしている」ことにカギがあると思います。つまり本来であればウクライナ問題は欧州が全面的に仲裁なり停戦への下地作りをすべきですが、あまり機能したとは思えません。またロシアと一定の距離を置きながらも近い関係にある中国もダンマリです。一時はトルコも介入しようとしましたがエルドアン氏の声も聞こえなくなりました。
イスラエルのガザ侵攻についてはイランの声がよく聞こえない中、イスラムの盟主は誰なのかという問題に差し掛かっているようにも見えます。スンニ、シーアの両派同士の緊張関係もあるのでしょう。つまり、世界は外交までばらばらになっているとも言えます。
一方、英国のスターマー首相は欧州の安定を願い、ウクライナ停戦後の安全保障プランを立てるべく欧州のNATO諸国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどが参加する会議を行い、次の会議も20日に予定されています。これはトランプ/プーチン会談がうまくいった場合を前提としています。仮にこれがうまくいかない場合には「圧力を強化してプーチンを交渉のテーブルに引き込む必要がある」(BBC)とスターマー氏は述べています。とりあえず30日間の部分停戦となりそうですが、どう取り込むか、これまた容易くなさそうです。
いよいよトランプ氏の政治的手腕が機能するのか、しないのか、瀬戸際にあるように感じます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月20日の記事より転載させていただきました。