ドイツ下院、戦後最大の「債務計画」を採択

ドイツ連邦議会(下院)で18日、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が提出した数千億ユーロ規模の財政パッケージ(特別財産)が「緑の党」の支持を得て3分の2の賛成を得て採択された。21日の連邦参議院(上院)で同じように3分の2の賛成を獲得できれば、財政パッケージは正式に承認される運びとなる。

CDUメルツ党首インスタグラムより

同財政パッケージはCDU/CSUと社民党は進めている連立協議の今後を占うものとして注目されていただけに、CDU党首で次期連邦首相候補者メルツ氏は今後の政権運営で欠かせられない財政パッケージが賛成513票、反対207票で圧倒的多数で可決されたことにほっとした表情を見せていた。

連立協議を進めているCDU/CSUとSPDは、この法案を通じて防衛予算に対する「債務制限(Schuldenbremse)」を緩和する。今後、ドイツの国内総生産(GDP)の1%を超える防衛支出は、基本法の負債規制の対象外とされる。さらに、各州の債務制限も緩和され、今後は連邦政府と同様に、GDPの最大0.35%までの借り入れが可能となる。そのうえ、インフラ投資のための5,000億ユーロ規模の特別財源が計画されており、その運用期間は12年に及ぶ。このうち1,000億ユーロは各州に割り当てられ、さらに1,000億ユーロは気候変動対策と経済の脱炭素化を支援する「気候・転換基金(KTF)」に充当される予定だ。

国債発行を抑制する財政規制を明記した基本法(ドイツの憲法に相当)を改正して財政パッケージを可決するためには議会の3分の2の賛成が必要だが、総選挙後の議席ではCDU/CSUとSPDの2党では3分の2には届かない。そのため「緑の党」の支持が不可欠となった。
メルツ党首は「緑の党」と交渉し、財政パッケージから「緑の党」が推進する環境保護政策へ財政支援することを約束。そのうえ、総選挙後の議席構成ではCDU/CSU,SPD、そして「緑の党」の3党を合わせても3分の2は難しいため、選挙前の連邦議会の最後の会期で財政パッケージを採決するという綱渡りをしたわけだ。

一方、CDU/CSUとSPDの財政パッケージを否決するために、第2政党の右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」、自由民主党(FDP)、左派党(DieLinke)、およびサハラ・ワーゲンクネヒト連合(BSW)は、カールスルーエの憲法裁判所に緊急申請を提出したが、申請は却下された。

AfDのクルパラ共同党首はメルツ;党首に対し、選挙前には財政の規律を強調し、健全財政を主張していたが、選挙後は巨額の財政負債を要求しているとして、「貴方は国民の政治への信頼を大きく傷つけた」と糾弾。左翼党、自由民主党(FDP)も同様に、財政パッケージの採択は「国家の健全な財政運営を破壊する」として、メルツ党首を非難した。

財政パッケージは21日、連邦参議院で採決されるためには、下院と同じように3分の2の賛成が必要だ。ドイツメディアによると、動向が注目されていたバイエルン州で与党「キリスト教社会同盟」(CSU)と自由有権者党(Freie Wahler)はパッケージ支持で一致したことから、大きな障害はもはやないと予想される。

「過去最大の債務計画」と呼ばれた財政パッケージが採択されれば、メルツ党首を主導した次期政権が成立する可能性は高まる。今後は社民党との連立協議で部門ごとに16グループに分かれた作業部会が協議、政権の閣僚配分などを決めて、4月20日の復活祭前までには新政権が発足する予定だ。

メルツ党首は「ウクライナ戦争やトランプ米政権の激しい圧力などに対峙している欧州には多くの時間はない」として、「ドイツは欧州の盟主としてその主導的な役割を果たしていかなければならない」と強調、「ドイツは戻ってくる」と述べた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。