株式市場には、個人投資家が直接に市場に参加できる。開示制度によって情報の対称性が実現されていて、金融商品は、情報化された抽象的な権利であるために、容易に取引単位を小口化できるからだ。

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個人投資家の情報分析力には、大きな開きがあるから、開示制度は、平均的な知識と思考能力を備えた普通の人を想定して、その人が投資対象の価値の分析を十分に行えるように、必要最低限の情報の開示を発行体に求めることで、情報の対称性が成立したとみなしているだけである。故に、十分な情報分析力をもたない投資家が資本市場に参加していることは、制度設計上の前提なのである。
実際、株式市場では、開示情報の分析を十分に行うことなく、株価変動だけを見て売買することが普通になされている。こうした投機的、もしくは心理的行動は、適法になされる限り、自己責任原則のもとでは、規制されるべきものでは全くないどころか、市場に流動性を供給するものとして、市場の制度設計上、むしろ不可欠のものだと考えられる。
ここで、流動性の供給とは、ある重大な事象が生起したとき、専門的知見をもつ投資家は、類似した投資判断を形成する可能性が高く、売り一色、もしくは買い一色というように、同一方向への売買行動が誘発されるのに対して、投機や心理的動揺のように、全く異なった行動様式をとる投資家がいて、反対方向の売買を行えば、需給が調整され得るということである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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