世の中の消費動向を探るのは単に経営や経済的な指標だけではなく、人々の感性や社会変化を見て取ることが必要です。例えば消費全体像だけ見れば私が見ているのは中国の消費の復活の兆しとアメリカ、カナダの凋落がトレンドとして出てきます。
アメリカの消費は強いという方もいます。が、私には強がりでしかないとみています。事実、アメリカの2月度の小売売上高は前月比0.2%増で1月もマイナス1.2%に下方修正されました。1年ぐらい前までは3000円のラーメンが当たり前のような報道がなされていましたが1回だけ行くのか。年中行くのかでは意味が違います。
日本の報道でも「この店の味がたまらなく好きで週に2-3回は通っています」といったコメントが紹介されることもしばしばみられますが、あれをまともに聞いてはいけないのです。盛っている話の可能性はあるし、何週間それを続けたのですか、という追求があればせいぜい1か月だと思います。それが証拠にサブスク系飲食店がさっぱり流行らないのは同じようなものを毎度食べるのは飽きるのです。特に飲食店の食べ物は味を濃くすることで脳に刺激を与え、うまく感じさせる「騙し」があります。ところが慢性化すると脳へのインパクトは徐々に弱まり、飽きを早める結果にもなるのです。ビールは一口目が一番うまいというのも同じです。我々は「美味い」を脳で感じていることを忘れてはいけないのです。
次に消費トレンドは何故うねるのか考えてみましょう。一つは消費をしたくなる時期と飽きる時期があると思います。食材や生活関連の消費は除外します。それ以外の消費、例えば服飾でも旅行でも趣味の物品購入でも、それをすることでスカッとするわけですが、当然そこには「散財」という意識が少しずつ芽生えるようになっています。誰一人底なしの財布を持つ人はいないのです。そうすると「ちょっと使い過ぎたから節約しなくちゃ」になります。
使いすぎが過ぎると生活必需品にまで影響が及びます。少し前の日曜報道で橋下徹氏が「… 国民が今、1万円、2万円で四苦八苦している中…」と言ったら梅津弥英子アナウンサーが「100円、200円です」とフォローを入れるシーンがあったのですが、これなど極端な例なのです。私は梅津アナに聞いてみたいです。「最近、何か散財しましたか?」と。多分、家計財政的には橋下さんが正しいのですが、メンタル的には梅津アナのようになるのです。

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先日のドジャース戦に群がった日本の野球ファン。ギフトショップには長蛇の列で飛ぶように売れていくのです。それこそ、皆さんは橋下さんのいう1万円、2万円と土産を買うわけで、しっかり消費しているのです。この差は何なのでしょうか?
ずばり、「欲しいものだけにお金を使う」のであります。私の友人は「乗り鉄オタク」。彼は誰も知らないような地方の廃線になりそうな路線を何十年もかけて回っています。その間、彼は電車賃は払うけどそれ以外には全くお金をかけません。せっかく地方に行ったらうまいものを食いたいだろうと聞いてもNON!宿泊費もなるべく浮かします。
私の目にふと留まったのは「大阪万博にホロライブが参加」のニュース。一言、「見たい!」のであります。海外在住で日本には会議などの予定で縛られる日程絡みなので数か月先の予定は立てられないのです。かつてAKBが爆人気だった時も帰国日程内でアキバのAKB劇場チケット申し込みを何度したか。結局全部ハズレ。
一時期(いや今でもかもしれません)、イケメンがいるホストバーに入れ込む女性たちが話題になり、犯罪者も出ました。欲しいものだけにお金を使うことは際限がない出費のリスクを生みます。するとその業界の人は潤って嬉しいでしょうが、最終的に万人に共通な消費、生活必需品は削れるだけ削るのが必然的な答え、ということではないでしょうか?
日本はデフレというけれど私の感覚ではとっくに終わっています。日本の消費者物価指数はこのような現代の非常にいびつな消費傾向を反映せず、万人の消費という観点なのです。あの統計の裏にはおびただしい数のアイテムが並び、指数化するのですが、メリハリ消費とか押し活消費は係数が低く、仮に数値化されたとしても他の数字の中で埋没してしまうのです。たとえば「食はふりかけご飯だけでいい、だけど、〇〇にはすべてを注ぐ」という方はほぼ無意味な指数とも言えるのです。
ではお前はどうやって消費を見るのか、と言われれば一番簡単なのはネットの収入(手取り)マイナス貯蓄額、これが消費に回っている金額だと考えてよいはずです。日本人の貯蓄率は23年度まで3年連続で減少しているのでそれだけ消費にお金が廻っているとみてよいのです。住友生命の分析では20代から60代まで概ね収入から消費を引いた貯蓄率は単身、家族持ち共に18-10%となっていてますが、単身世帯の方が貯蓄率が1-2ポイント高く出ています。しっかりしているのか、つつましいのか、さてどちらなのでしょうね?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月24日の記事より転載させていただきました。