漂流する英仏の欧州軍「自称平和維持軍」ウクライナ派遣構想

数日前に「ウウクライナ「自称」平和維持軍の曖昧さと危険性」という題名の記事を書いた。

ウクライナ「自称」平和維持軍の曖昧さと危険性
トランプ米国大統領の停戦調停努力が進む中、蚊帳の外に置かれた形の欧州諸国が危機意識を強めている。そこで出てきた反応の一つが、「欧州軍」なるものの「平和維持軍」構想だ。 イギリスとフランスが、いわば存在感をかけてメディアにアピールしてい...

その後に、関連するいくつかのニュースがあった。いずれも以前の記事で私が指摘した懸念の要素を反映したものだった。

旗振り役の一つであったはずのフランスが、構想していた「欧州軍」あるいは「有志連合軍」を、国連平和維持活動で「代替」させてもいいのではないか、という示唆をしたという報道が流れた。

マクロン仏大統領は国連平和維持軍を欧州部隊のウクライナ派遣の代替として検討=報道
フランスのマクロン大統領は、あり得る和平合意を守るために、欧州部隊の派遣可能性の他に、ウクライナへの国連平和維持軍の派遣する可能性も検討している。 — ウクルインフォルム.

それを意識したのだろう。ゼレンスキー大統領が、国連ミッションは、外国軍の代替にならない、という発言をした。

国連ミッション、外国軍派遣の代替にならず=ゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、国連ミッションについて、ロシアとの戦争を終結させるための外国軍派遣や安全保障の代替にはならないと考えているとの認識を示した。

これは「欧州軍」と「国連平和維持活動」が別々のものであること、それぞれがそれぞれの機能に応じた役割を期待されていること、などが整理されて共有理解になっていないことによって発生した混乱である。

イギリスでは、派手に「欧州軍」構想を打ち上げたスターマー首相が、すでに計画策定の段階に入った、などと主張した。ところが計画策定の役割を与えられたイギリス軍幹部層から、「『平和維持軍』ではなく『保証軍』として説明されるべきだ」という声が上がっていると報道された。

ウクライナ和平合意、保護策なければプーチン氏は「破る」と英首相 「有志連合」の軍事指導者会議(BBC News) - Yahoo!ニュース
イギリスのキア・スターマー首相は20日、ロシアとウクライナが和平合意に至っても、それが守られる体制が伴わなければ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は合意を破るだろうと発言した。 ロンドンではこ

さらに、英紙『テレグラフ』が、イギリスの軍人層がスターマー首相の平和維持軍構想を「政治劇」と一蹴した、その他の関係者の間でも拙速なやり方に不満と批判が出ている、と報じた。

Starmer’s Ukraine peacekeeping plan dismissed as ‘political theatre’ | The Telegraph

提案者で旗振り役であるはずのイギリスがこの有り様では、追随する国は、欧州の内部でも、相当に限られてくるのではないか。

マクロン仏大統領とスターマー英首相 マクロン大統領インスタグラムより

これに関連して、ドイツの『ディ・ヴェルト』紙が、外交関係者の発言をもとに、ブリュッセル駐在の中国の外交官が欧州連合(EU)の主要機関に対して、中国がウクライナへの平和維持軍に参加する可能性をEUではどのように受け止めるかと質問していたと報じた。ところがこの報道を中国政府が否定する、という報道も流れた。

中国、ウクライナへの平和維持軍への参加可能性に関する報道を否定
中国の郭嘉昆外務報道官は24日、中国政府関係者が同国による戦後のウクライナへの平和維持軍への参加について協議しているとする報道を否定した。 — ウクルインフォルム.

率直に言って、中国が、イギリスが主導する「有志連合軍」に参加する、などということは、よほどの天変地異がないと、起こりそうにない。最初のドイツでの報道が驚愕の内容であり、おそらくは記者が何らかの事実誤認をした可能性が高い記事であったと思われる。

逆に言えば、中国が否定したのは、あくまでも「同国による戦後のウクライナへの平和維持軍への参加について協議しているとする報道」だ。中国政府は、何があってもウクライナにおける国際平和活動に参加するつもりはない、と言っているわけではない。もし国連安全保障理事会でこの件が議題化されたら、中国が関心を持って積極的に議論を推進する可能性はない、と言ったわけでもない。

中国が、イギリスが主導する「有志連合軍」への参加を検討しているかのような荒唐無稽なドイツ紙の報道は現実離れした虚偽だ、と言っているにすぎない。

この件は、むしろ逆に中国が、イギリスが主導しようとして混乱を見せてしまっている「有志連合軍」などとは全く違う枠組みで、つまり最も有力には国連安全保障理事会決議を伴った国連ミッションで、参加して貢献することに十二分な関心を持っているかもしれないことを示唆している。

日本の自衛隊がウクライナで活動できないか、という話題を、ちらほらと目にするようになった。伝統的には、障壁は国内法制度である、と考えられる。確かに、それは正しい。自衛隊の海外活動をめぐる法制度は、特に国際平和活動への参加の面において、まだまだ非常に曖昧模糊としており、弱い。

だがウクライナの場合には、さらに複雑かつ繊細な政治的性質の問題がある。自衛隊は、南スーダンであれば国連PKO、イラクであればアメリカ軍の圧倒的な存在を大前提にして、海外での部隊派遣の活動を進めた。しかしウクライナにそのような存在はない。現在話題となっているイギリスの構想は、控えめに言って曖昧模糊としており、正確に言えば混乱したものでしかない。

もしウクライナでの貢献を考えるのであれば、世論迎合的な感情論で押し切ろうとする考えを捨て、徹底的に緻密に政治分析を行い、しかもその結果を作戦行動に反映させることができる体制を整えることを、何よりも重視していかなければならない。

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