イタリア北部ロンバルディア州は中国武漢発の新型コロナウイルスの最大感染地となった。その州の中でも人口12万人の小都市ベルガモ市(Bergamo)の感染者数が最も多い。世界のメディアはベルガモを「イタリアの武漢」と呼んだほどだ。

「イタリアの新型コロナ感染者をケアする医者と集中治療室」(イタリアの「ANSA通信」から、2020年3月19日)
感染者が殺到する同州の病院は患者で溢れ、医療は崩壊し、重症者を収容するベッドはない。感染者がまだ少ない南部州に転送するなど、イタリア保健当局は対応に苦しんだ。2020年3月18日、コロナ患者の遺体を運ぶ軍用トラックの写真が世界に発信された。遺体の数は多すぎて埋葬する場所がなくなったために、軍用トラックがコロナ患者の死体を他の州に運ぶ写真だ。この写真を見た人々は中国武漢発の新型コロナウイルスの恐ろしさを肌で感じたはずだ。
イタリア当局は2020年3月19日、コロナ患者の死者数を初めて公表した。当時、3405人がコロナ感染で亡くなった。死亡者の平均年齢は79.5歳だった。新型肺炎の死者数では欧州のイタリアは中国のそれを大きく上回り、世界最大の感染地となった。
ベルガモ市の病院に勤務する医師がソーシャルネットワーク(SNS)を通じて緊急支援のアピールを発信し、イタリア全土ばかりか、欧州でも大きな反響を呼んだ。医師は「患者の急増で病院では医師が使える防御服は限られ、重症患者用の人工呼吸器が不足している」と訴えた。イタリアでは医師不足を補うために、大学で勉強を終えたばかりの医学生を病院の現場に送った。
集中治療室のベッドは限られ、人工呼吸器は不足している中、医者はどの患者を優先して治癒し、どの患者を後回しにせざるを得ないかの選択(トリアージ)を強いられていた。すなわち、患者の生死を自分が決定しなればならない現場の重い選択に悩み、多くの医者たちは体力的にも精神的にも疲れ切ってしまった。
独週刊誌シュピーゲル誌(2025年03月15日)はコロナのパンデミックの欧州のホットストップとなったベルガモを現地取材したルポを掲載していた。コロナ感染で亡くなった家族関係者にインタビューしていた。家族は埋葬の場には立ち会えず、葬儀も15分から20分で終わり、直ぐに埋葬された。突然の親族の死に「準備もしていなかったトラウマに今なお苦しむ人が多い」(シュピーゲル誌)という。
ベルガモ市内で会社を経営するカルロ・ツォナト氏は「新型コロナウイルスは我々のライフスタイルを激変させるだろう」と述べていた。ベルガモにはローカル新聞があるが、新型肺炎で亡くなった市民の訃報欄が10頁にもなった(「”欧州の武漢”ベルガモを救え!!」2020年03月21日)。
ローマ教皇フランシスコは3月27日、誰もいないサンピエトロ広場で「主よ目を覚ましてください」という聖句を引用しながら新型コロナウイルスの感染の終息を祈った。イタリアで同日、969人が新型コロナで死去した。死者数では最も多い日だった。
国境、民族の壁を越えて広がり、世界で700万人以上が犠牲となったコロナパンデミックで人類は何を学んだろうか。世界の関心はその後、ウクライナ戦争、中東戦争に注がれていったが、コロナウイルスの発生源について今なお解明されていない。
ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2022年2月9日)で、「残念ながら、中国側は実験内容の全容を隠蔽している。また、米国の一部のウイルス研究者は武漢ウイルス研究所(WIV)の実験について知っていたが、その内容を積極的に明らかにすることを避けた」と指摘している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。