簡単ではないグローバル人材教育:日本人では現地責任者が務まらない現実

池上彰氏が「キミたち、もっと世界を目指せ!」とハッパをかけています。いや、池上氏だけではなく、国内の著名企業の社長にこの言葉を発する人は多いと思います。ユニクロの柳井氏も楽天の三木谷氏もそうでしょう。そして彼らがグローバル人材を標榜したのは昨日、今日ではありません。5年も10年も前から言い続けています。

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日本の大学には様々な学部があります。昔の名前で出ている文学部、経済学部、経営学部あたりは昭和の響きで、今や各大学の目玉学部は国際〇〇学部と命名され、偏差値も昔の名前で出ている学部よりもずっと高く、少人数制で人気もレベルも高いというのが読み取れます。大学側も入学基準の偏差値はよく見ており、偏差値70台の学部が1つでもあればもはや一流校入りしたような感じであります。

当地に留学している国際〇〇学部の学生さんに「Youは将来どちらへ?」と聞けばドメ企業。留学している学生さんに「楽しいですか?」と聞けば「一日も早く日本に帰りたい」。全員がそういうわけではないのですが、わりと驚きのリアルの声を聴くこともあります。

国際〇〇学部の学生さんは確かに頭はシャープそうだし、弁が立つ方もいます。しかし、せっかく国際間の経済や政治、経営を学んだのに卒業後はきれいさっぱり忘れてしまうような就職口を選ぶのは何故なのだろうとずっと考えています。未だに答えは出ません。一つの仮説としては今の生活水準に満足しているため、自らが好んで苦行のような海外でのチャレンジを望む必要がないのかもしれません。

日本人の海外赴任先において北米と東南アジアではまるで違うと思います。東南アジアはそれでも同じアジア圏で以心伝心もあるし、日本がまだ指導的立場のケースは多いと思います。北米は「へぇ、お前、日本人」ぐらいなもので実力勝負。そして割とエグい争いや不平等を感じることもあります。私なんて日々の業務の中でプレッシャーをかけられることも多い一方、かなり押し込むこともあるし、声を荒げて談判することもあります。日本で声を荒げればハラスメントとすぐに言われそうですが、たぶんこちらはその内容が重要で真剣勝負しないとビジネスゲームに勝ち抜けないという危機感が常にすぐ後ろに迫ります。

私の周りではエネルギッシュな韓国人の若手起業家がビジネスを展開し、したたかな中国人が多店舗展開するなど目まぐるしい競争社会を見て取ることができます。ですが、日本人の経営となると本当に減ったと思います。飲食店すら新規開店がほとんどなく、既存の店のオーナーが必死に店を守っている状態で、明らかに経営者の高齢化を見て取っています。あと10年したら日本人の店が激減するのではないかという危惧すらあるのです。もっとひどいのは非飲食業、つまりITでも不動産でもサービス業でもいいのですが、それら業種で人を雇い、事務所を構えるような一定の規模のビジネスを立ち上げたケースがこの10年、数えるほどしかないのです。いや、仮に出たとしても既に消滅していたりするのです。

当地のブリティッシュコロンビア大学(UBC)はTHE(Times Higher Education World University Rankings)で東京大学とほぼ同じランクで日本のエリート学生も年間約50名前後、交換留学生としてきているほか、アジア研究、日本研究も盛んです。昨日書いたように、そのUBCの大御所名誉教授宅で日本の若者の海外意識の現状から、国際化を支援できるプログラムを作れないかと相談を持ち掛けているわけですが、正直、名案はありません。要は何をどうすれば成果があるのか、具体的プランが作れないことが最大のネック。

日本の一部からはグローバル人材教育なんて必要ないんじゃないか、という声が一部あるのは知っています。様々な考えがあり議論をするのは結構ですが、現実問題として大手企業ではほとんどが一定比率の海外売り上げが立っています。むしろ海外のおかげで日本の大手企業が存在しているといってもよいでしょう。ところが多くのグローバル企業の現地責任者は日本人ではなくなってきています。

1つには企業の成長スピードに対して日本人で現地責任者を務められる人材が育っていないこと、1つは日本独特の人事ローテーションシステムが邪魔をするため、日本人駐在員不要論が出てくるのです。現地駐在になった人もせいぜい4-5年の御奉公か、ぐらいで常に日本を向いて仕事しています。一方、海外事業で名をはせた日本人経営者は海外赴任期間が異様に長い方が多かったりします。つまり通常のローテーションから外れてその国の専門家として骨をうずめるぐらいの勢いで成果を上げた人が本社に戻りトップになったりします。つまり片道切符ぐらいのつもりで海外に来ないとなかなか成就しないのでしょう。それを長年やっているのがファスナーのYKKで立派だと思います。私の同期でYKKにご奉公した男も合計4か国駐在で会社人生の7-8割は海外でした。

一方、せっかくカナダやアメリカの大学を出た学生も現地での就職は極端に苦戦します。上述の名誉教授氏も「UBCを出てもねぇ…」というぐらいです。それは海外には新卒一括採用という仕組みがないためです。UBC卒業なんてそのあたりにごろごろいるし、失業している人も多いのです。そのため、多くの日本人留学生は卒業後、カナダで一定期間の就労ビザがあるにもかかわらず、職を求め、日本に帰国するケースが後を絶たず、ということになるのです。

グローバル人材育成の掛け声はあるものの具体的にどうすればよいのか、ここに解はまだ見出していません。正に空回りです。私のできる範囲でほんのわずかながらも支援できれば良いと思っています。お知恵を拝借できればと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月30日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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