黒坂岳央です。
若い世代にとって最も納得がいかないものの一つが「年金」だろう。筆者は昔からずっと年金を充てにしておらず、「税金」と思って払い続けてきた。
「むやみに年金を敵視するな。年金基金は破綻せず、支払時期は遅れるかもしれないがちゃんと払われる」
このような話をする人も多いが、筆者を含め、現役世代が年金というシステムに納得がいかないのはそこではない。
「年金は払い損」「年金は将来破綻」という金額的な話ではなく、年金はもっと価値あるものを現役世代から奪い続けている。
正直言って、支払う金額に対するリターンを考えると損失が発生する可能性が極めて高いシステムと言わざるを得ない。

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年金が払い損になる2つの理由
「若い頃に支払った100万円が、老後に100万円として返ってくるため損をしない」という論法で丸め込まれる人は経済学を学ぶといい。
経済学には割引率という概念があって、今の100万円は50年後の100万円と2つの意味で価値が異なる。
1つ目は純粋に経済的価値である。特にこれからの日本は30年間のデフレを脱して、インフレ経済トレンドが既定路線となる公算が大きい。仮に年間2%のインフレ率を考慮すると今の100万円は40年後、たったの45.3万円の価値しかならない(100万円 ÷(1.02)^40)。
いや、これはかなり低めに見積もった金額である。固く分散投資で年利5%の平均リターンが続くとシミュレーションするなら、なんと現在の100万円は40年後は約704万円にもなる(100万円 × (1.05)^40)。
これは年金として取られる代わりに、自分で資産運用するほうが遥かに価値を高められることを意味する。年金の代わりに強制的にiDeco運用をされる方が遥かに納得感があるのではないだろうか?
もう1つは機会費用だ。若者にとっての100万円は人生を大きく変える力がある。この100万円を元手にビジネスを起業したり、学問にコミットしたり、高付加価値スキルをつけて収入を増やす。または100万円を40年間、リスク資産で運用すればかなりの金額になる。
しかし、60代、70代が100万円を手にしても、若者ほど付加価値を出すことは極めて難しい。資産運用をするにもすでに運用期間は非常に短く、そもそもリスク資産運用自体が不適格である。
以上の要素を考えると、特に自己管理がしっかりでき、若い頃に自己投資をして自分の価値を高めていこうという気概がある人にとっては、年金制度が個々人の資産形成の自由度を強く制限していると感じる人もいる。
現代人に年金は不要
有名なDIE WITH ZEROという本で紹介されている一節に、「ほとんどのアメリカ人は死ぬ直前、最もお金持ちになる」と紹介されている。倹約気質の日本人はなおさらこの傾向が強い。
年金というのは老後を考えず、現役時代に資産を食いつぶしてろくに貯蓄できず、人生が詰むことを想定して作られたものだ。
しかし、実際には現代人は昔に比べて遥かに慎重になり、思慮深く、将来を計画的に行動するようになったことで、わざわざ年金というシステムを用意しなくても個々人が自分で老後の資産を考えられるようになっている。
中には年金制度をありがたく思う人もいるかもしれないが、「ハッキリいって余計なお世話」と感じる人は多いのではないだろうか。
もちろん、年金が不要と感じる人も増えている一方で、計画的に老後資産を形成できない人々にとっては依然として重要な制度ではあるだろう。問題はその要否を感じる人のバランスが大きく崩れて来たことにある。
また、年金は「長生きリスクのヘッジ商品」という見方をする人もいる。確かに現代は「短命リスク」より「長生きリスク」の方が圧倒的に多くの人に脅威と受け取られる時代であり、今ほどピンピンコロリが望まれる時代もないだろう。
しかし、これも冷静に考えれば違った見え方になる。まったく働くことができず、しっかりためた貯蓄もすべて食いつぶし、ただ生命維持をするためだけに莫大な医療コストをかけつづけるような状況になってまで「できる限り、国の税金を全力投資してもっと長生きしたい」と今の現役時代は考えるのだろうか?
胃ろうを導入するタイミングを、一つの寿命の区切りと考える人もおり、無理な延命治療を望まないという意見を持つ人も増えてきていると思っている。
◇
筆者は何も年金のすべてを悪く言うつもりはない。必要とする人も世の中にいるだろう。
だが問題は年金システムが作られた時代から現代は人口も年齢バランスも世界情勢も何もかも大きく変わっており、旧態依然で時代にそぐわないものを無理に続けていることにあるだろう。環境が変わればやり方も変わっていいはずだ。
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