上場会社が減る功罪:日本の「小さなビジネス」は誰が担うのか?

(トランプ相互関税問題については市場の行方を見てからコメントしたいと思いますので明日、カバーさせて頂きます。)

このブログでは東証には上場企業が多すぎると多分10年ぐらいまえから申し上げてきました。ダウやナスダックの上場企業数とその市場規模を比べると東証は小粒だらけで機関投資家や海外投資家が売買するにはあまりにも規模が小さすぎる企業が並んでいる、そんな状態なのです。当然そうなれば歴代首相がニューヨークやロンドンで日本に投資を、といくら呼び掛けても「ガタイが小さきゃ値が飛ぶおはじきよ」というものです。

うまい具合に東証が2022年4月からプライム、スタンダード、グロースという仕切り直しにしたうえで上場基準をより明白にすることで海外や機関投資家の投資を加速するという命題に立ち向かったわけです。

GOTO_TOKYO/iStock

実際、2024年7月には1989年以降抜けなかった日経平均を遂に超え、最高値をつけましたが、その背景の一つにはこの東証改革があったことは否めません。実はこの東証改革には経過措置がついており、22年4月の時点では基準を満たさなくても3年という期間限定で上場を維持できる仕組みがありました。この3年の経過措置期間である25年3月を超えるとこの条件を満たしていない企業には上場維持か、廃止か究極の二択を迫るスイッチが入ります。その企業数、昨年10月時点で267社あるそうです。

もう1つは東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄が2200から1200にまで絞るというもの。これにより機関投資家などが対象銘柄を絞り込むことになり、優勝劣敗が明白になります。構成銘柄から落とされる1000銘柄はリバランス対象になるので当然一時的に売り込まれる公算が出てきます。

もともとTOPIXと日経平均の関係はアメリカで言うS&Pとダウの様なもの。あるいはアメリカの物価指標で言うPCEとCPIの様なものと言ったらよいでしょうか?つまり比較的大きな企業群の指標と各産業の代表銘柄だけを拾った一種のサンプリング指標との違いでしょうか?株の専門家はTOPIXなりS&P500を見るとされます。理由は日経平均は225銘柄だし、ダウに至ってはわずか30銘柄なので構成銘柄数が少ないために構成銘柄の一つの株価が大きくぶれた場合、全体も引っ張られることになるからです。

例えば日経平均ではファーストリテイリングや東京エレクトロン、ソフトバンクGは比重が高いのでこれらの銘柄1つが大きく動けば日経平均が100円以上動くこともしばしば起こるわけです。ちなみに物価上昇率をみるPCEとCPIも物価検証する範囲が違います。パウエル議長が時折、口にするのはFRBはPCEで物価を見るとされます。またイエレン氏が議長だった時、失業率は一般に見られるU3指標ではなく、U6指標を使うと述べていました。U6とは本来フルタイムで働きたいけれどやむなくアルバイトでとどまっている人も含まれるより広範な指標です。

話がそれました。ではタイトルの「上場企業が減る功罪」です。功罪というのですから減ればよいばかりでもないと考えたのです。

上場企業減少⇒競合企業の減少⇒市場がより寡占化⇒顧客の選択肢は狭まる というシナリオが描けます。日本の99.7%を占めるとされる中小企業が上場企業の資本化の強化により経営体力的に勝てなくなることが生じる可能性を考えています。例えばアメリカのGAFAMなどはブラックホールのように新興企業を買収しまくり、巨大になり続けてきた経緯があります。日本で見られる例としては金融機関の合併や提携合戦は良い例でしょう。またニデックのように買収を得手とする企業もあります。これは資本効率と企業経営の効率が高まり確かに儲かるはずだし、価格優位性とサービス網の整備など顧客を取り込むスタイルになるので業績が伸びやすいのは自明です。

すると雇用がどうなるのか、ここが私の疑問なのです。中小企業を含め、各企業には管理部門がある訳ですが、買収が進むとこれがどんどんなくなったり縮小したりするため人材はだぶつくはずです。そのために他部門に配置転換されたりするわけですが、最終形はより少人数の精鋭による効率化が主眼となるはずです。

ならば精鋭になれない働き手はどうなるのか、であります。要は普通の社員があぶれてしまう結果になるのではないか、と思うのです。もちろん企業はそう言いませんし、「子会社、関連会社があるので」というでしょう。ここが一点、気になるところです。

もう一つは中小企業がもつノウハウとニッチなマーケットを埋める役割を誰がするのか、です。大企業になればなるほど小さなビジネスには目もくれなくなります。以前、私に相談を持ち掛けられたケースですが、当地で日本人が創業したある食品関係の創業者が亡くなり経営が宙に浮いたので困ったと。そこで私は知り合いで5大商社の1つの責任者に相談したところ、「うーん、小さいね。うちの会社じゃ買収額が10数億円規模はだめなんですよ。ゼロが一つ足りない」といわれたのを鮮明に覚えています。日経にはもっと小さいのもやっているような記事もありますが、実態はどうなのでしょうか?

もしもターミナルビルのレストランや店舗や食品売り場の店が全国区の名の知れた店ばかりだったらどうしますか?私は嫌ですね。ローカルにはローカルの良さがあるはずです。これが資本と効率のはざまで生き残れるか、という話になるのです。

もちろん、私の懸念が現実になるには相当の時間がかかるだろうし、どこかでまた機運が変わるのかもしれません。が、何事も一方通行じゃ駄目なのだと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。
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