進化するSwitchが次に食い荒らすのは何処か

2025年4月2日、任天堂が自社の配信Nintendo DirectにてNintendo Switch 2を正式発表した。

Nintendo Switch 2 任天堂HPより

Switch2は据置機と携帯機のハイブリッドという革新性で市場に衝撃を与え、世界で1億5000万台超を売り上げた初代Switchの後継機であり、7年の時を経てゲーム機の常識を覆す新たな一手が放たれようとしている。

Switch2の新たな挑戦

此度のSwitch2で進化を遂げるポイントはどこか。

任天堂が目玉として挙げたのが、ゲームを同時プレイする仲間と対話コミュニケーションを行う、ゲームチャット機能の本体標準搭載であった。

ゲームチャット機能 任天堂HPより

これまでのSwitchでは、該当機能は外部デバイスやアプリによる代替となっていたが、Switch2ではハード内蔵型となっただけでなく、『マリオパーティジャンボリー』のようにゲームプレイへ自然かつ直感的に融合させるUIを突き詰めており、「遊び」を追求する任天堂ならではの他社にはない試みが詰まった出来栄えとなっていた。

しかし該当機能内蔵だけでみれば、競合であるPlayStationやゲーミングPCにて実現済みで、これ単独ではあくまでキャッチアップの域を出ない。

Swtich2の核となるイノベーションは、別にある。

それはSwitch最大の特徴であった着脱式小型コントローラー・Joy-Conに、マウスとして操作できる機能を追加搭載したことだ。

Joy-Con 任天堂HPより

ゲーミングPC市場の広がりに伴い、ゲーム操作には従来のコントロールパッドのみならず、マウスを用いた繊細なエイム・カーソル移動を補助として求められるニーズが増えてきた。

Switch2はこれに対してTVリモコンのような極薄コントローラーを、側面を下に設置することで、「薄い・小さい・軽い」マウスとして使う回答を提示したのだ。

さらにJoy-Conは2本1セットなので、最小限のスペースでマウス2本使用を前提とした新しいゲームへの可能性も提示している。

Joy-Conの使用例 任天堂HPより

マウスはPC周辺機器としての歴史が長いがゆえに、ここ数十年では大型化・高機能化の一途を辿り発想に限界があったが、それを再構築する設計には任天堂の哲学ともいえる「枯れた技術の水平思考」が息づいているのだろう。

ゲーミングPCの「モバイル性」を奪い去るSwitch2

では、これら2つが意味するものは何か。

それはSwitch2が、「ゲーミングPCのモバイル体験」をほぼ完全に置き換え得る存在となった、という点と思われる。

昨今のゲーム市場では、MSXの如く「あくまでPC」ではあるが、高性能CPUや専用グラフィックボードによって精細なゲームを楽しめる、ゲーミングPCがシェアを伸ばしている。

それらにもデスクトップ、ノート、ポータブルといった区分があるが、Switchは2へと進化したことで、デスクトップ(今の任天堂が見据えていないAAA級タイトル)を除いた2つの市場を一気に食い荒らしにきた、と感じられるのだ。

特に顕著なのがノートPCである。

デスクトップPCよりゲーミングノートPCを選ぶ理由は、「高性能ゲームをモバイル環境で楽しみたい」が決め手だろう。

しかしゲーミングノートPCは、高価格、大型かつ2kg前後の重量、大型の外付けマウス、ゲーム起動の煩雑さ、ゲームチャット連携の複雑さと、手軽に楽しみたいユーザーには高いであろう障壁を多く抱えていると感じる。

一方のSwitch 2は、(比較的)廉価、小型かつ軽量・薄型設計、シンプルな起動→プレイまでの導線、超小型マウス2本標準装備、ゲームチャット一体型UIを備えた。

つまりノートPCの特徴を、一体感・快適性に特化した設計に再構成したのだ。

これに加え性能面でも、モバイルでFHD/120Fps、据置なら4K/60fpsと一定水準を超えたことで、ポータブルPC用ゲームをSwitch2でさらに引き受ける態勢も整ってしまった。

イノベーションの視点からみるSwitch2

このような「モバイルゲーミングの完成形」を提示したことで、初代Switchで魁となったポータブルPCに加え、残されたノートPCの市場までも食い荒らし得る設計となったSwitch2は、クレイトン・クリステンセンの提唱した「破壊的イノベーション」たる条件を満たしている。

スマホの進化すら頭打ちになった現在、Switchから「体験」特化の開発精神をさらに進めただけでなく、「破壊され得る」市場まで明確にした思想・発想は舌を巻くものである。

冒頭のDirectでは、発売前時点で海外ソフトメーカーがこぞってSwitch2対応を表明しており、大きな市場可能性が見出されていると言えるだろう。

多くの子供に体験を

ただ、Switch2には一つ懸念点がある。

それが税込49,980円(日本国内のみ対応版)という価格だ。

これは初代Switch発売時(29,980円)と比較して約1.67倍。

性能向上や世界的インフレを考えれば控えめとも言えるが、日本はいま先進国首位インフレの中にあり、中間層以下への負担が増す一方である。

発売日も6/5とクリスマスやお年玉シーズンから外れており、アルバイトができる高校生以上ならともかく、小・中学生はSwitch2による新たな体験から漏れかねない。

日本の政治家は利権や既得権に固執していないで、昨今のインフレにより真剣に向き合ってほしいものである。

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