黒坂岳央です。
日々、仕事やプライベートでいろんな人とコミュニケーションを取っていると「この人はテイカーだな」と感じる人と会うことがある。
世の中には「テイカー、ギバー、マッチャー」と3種類いると言われており、テイカーは「何の対価も支払わず、自分の私利私欲を満たすために相手を道具のように扱う、サイコパスで根っから悪魔のような存在」といった印象を持つ人もいるかもしれない。
だが、当のテイカーは自分が相手から搾取しようとしている自覚がそもそもないことがほとんどである。
「自分はこのくらいしてもらって当たり前」くらいに考えているのだ。それ故に彼らには「上手にスルーして深く関わらない」のがちょうどよいのだ。

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自覚がないテイカーたち
これまでの人生で数え切れないくらいテイカーと会話してきた。実体験した事例を取り上げたい。
ある日、法人から問い合わせがあり、「黒坂さんはこの分野の専門家と思いますので、ぜひこの課題についてご意見を聞かせてください」と、大量の資料とともに具体的な分析を求められた。
これはどう見ても仕事の依頼にしか見えなかったので、「これは業務としてお引き受けしますね」と念の為、その旨の確認をしたところ、「え?お金取るんですか?ちょっと聞きたかっただけなのに。お金取るんならいりません!」と強い口調で憤慨されてしまった。
だが、送られてきた資料の量や求められている成果物を見るに、どう考えても「ちょっと聞きたかった」とは思えず、回答に数日かかるのは明らかだった。どちらかといえば「お金を払いたくないのでタダ働きをしてくれる相手を探している」ようにしか感じられなかったのだ。
また、こういうことはメディア会社でも意外なほどよく経験する。取材の依頼やテレビ制作会社から1時間も2時間も意見を聞かれて、その回答した内容を元に番組を制作してオンエア、だが自分が話したことには一切触れられず、取材費もなしでタダ働きをすることになった経験も何度かしている。そして一言のお礼もない。
こうした人達に共通するのは「そのくらい無料でササッとやってもらって当たり前」というテイカーの感覚である。
企業の善意を悪用するテイカーたち
かつて、派遣社員やバイトで働いていた若い時期はさらにひどいテイカーがいた。
携帯電話会社で働いていた時は、返品ポリシーを悪用して何度も返品を要求してくるクレーマーや、飲食店で働いていた時はクレームをつけてタダ飯を狙うお客などだ。
自分が働いていた当時は別に勤務先の企業オーナーでも株主でもなかったが、企業の善意や親切を悪用して「システムに穴を開けたままの落ち度がある方が悪い」と言わんばかりのテイカーたちにいい気持ちがしなかった。
また、最近見聞きした話で言えば、最初から会社を悪用する気満々の社員がフルリモートで仕事を散々サボり尽くし、挙句の果てに出社要請をしたら鬱の診断書を出して逃げおおせるという話である。
会社と従業員は「給与」と「労働サービス」を交換する関係だ。しかし、中には「給与はもらうが、仕事はしない」というブラック社員も存在する。本人にテイカーの自覚などなく、「働かずに稼いでしまう自分はスマート!」くらいに思っているのだろう。
一般的に世論は母体が大きい方が叩かれる風潮で、ブラック企業は糾弾されてもブラック社員は「行きたくないような会社が悪い」と言われがちだ。
しかし、結局ブラック社員が増えることで、長期的には企業が人間の雇用を忌避して採用を控える代わりにAIへの投資を先行するようになる。そうなれば、回り回ってまっとうに働く気のある社員が一番損をすることになる。
だから権利ばかり主張する前に、労働の対価という義務を果たさないブラック社員も問題視するべきだろう。
◇
真のテイカーは自分が相手を搾取している自覚がない。だから彼らを注意してもその意見が耳に届くことはないのだ。ではどうすればいいか?結論は全力で逃げるしかない。
筆者はテイカーと見抜いたら静かに距離を取る。表立って論戦する気もないし、彼らを改善しようとも思わない。真のテイカーは、自身の弱者性を武器化し、相手を支配する成功体験を積みすぎている。彼らにつける薬などこの世に存在しないのだ。
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