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1. 労働者1人あたり国内総生産
前回は日本の労働者1人あたりの総固定資本形成、固定資本減耗、純固定資本形成についてご紹介しました。
情報通信業や、電気・ガス・空調供給業など固定資産への投資が大きく関わる産業では、1990年代の水準から大きく目減りしています。
製造業では投資が多いですが、固定資産残高が釣り合う程度の水準の投資が継続しているような状況のようです。
固定資本減耗は、投資した固定資産の維持費用として見る事ができます。
一般的に労働生産性とは、稼いだ付加価値に対して、投入した労働者数や労働時間の割合として計算されます。
付加価値の合計が国内総生産です。
今回は、日本の経済活動別に見た労働者の生産性について確認してきましょう。
まずは、経済活動別の国内総生産を労働者数で割った、労働者1人あたり国内総生産です。

図1 経済活動別 労働者1人あたり国内総生産
OECD Data Explorerより
図1が経済活動別の労働者1人あたり国内総生産です。
全体的に横ばい傾向ですが、電気・ガス・空調供給業が断トツで高い水準となっています。
次いで、金融保険業、公務、情報通信業、鉱業、製造業、教育と続きます。
労働者の大きく増加している保健衛生・社会事業や、パートタイム労働者の多い宿泊・飲食業、芸術・娯楽、農林水産業はかなり低い水準となっています。
この労働者1人あたり国内総生産は、固定資本減耗を含んだ数値です。
実際には、固定資産の減価分である固定資本減耗を除外した、国内純生産で評価する方が実態に合っているように思います。
2. 労働者1人あたり固定資本減耗
前回ご紹介した内容ですが、念のため経済活動別の労働者1人あたり固定資本減耗についても確認しておきましょう。

図2 経済活動別 労働者1人あたり固定資本減耗 日本
OECD Data Explorerより
図2が経済活動別の労働者1人あたり固定資本減耗です。
電気・ガス・空調供給業を始め、図1で労働者1人あたり国内総生産の高い経済活動程、固定資本減耗も多い事になります。
公務、鉱業、製造業、情報通信業などの水準が高いようです。
投資が多いほど生産性が高いとも言えますし、総額では生産性は高いけれども、その分固定資産の維持費が嵩んでいて、企業や家計への分配が目減りしているとも考えられます。
3. 労働者1人あたり国内純生産
労働者の正味の生産性を考える場合に、国内総生産から固定資本減耗を引いた国内純生産で評価した方が構成かもしれません。
国内純生産 = 国内総生産 – 固定資本減耗
労働者1人あたり国内純生産 = 国内純生産 ÷ 労働者数
具体的に経済活動別の労働者1人あたり国内純生産を計算した結果を見てみましょう。

図3 経済活動別 労働者1人あたり国内純生産
OECD Data Explorerより
図3が日本の経済活動別労働者1人あたり国内純生産です。
図1の労働者1人あたり国内総生産に比べて、電気・ガス・空調供給業、情報通信業、公務、鉱業、製造業などが全産業合計の平均値に近づいています。
特に電気・ガス・空調供給業の減少ぶりが大きく、アップダウンが大きいながらも金融保険業と同程度となっています。
製造業も大きく水準が低下していて、2022年には卸売・小売業を下回っているのも印象的です。
4. 労働者1人あたり国内純生産の特徴
今回は経済活動別の労働者1人あたり国内純生産についてご紹介しました。
機械・設備、建物・構築物など固定資産に依存した産業ほど、労働者1人あたり国内総生産からの減少度合が大きい事になりそうです。
ただし、相対的に産業の中では高い水準である事は変わりありませんね。
投資が多い産業ほど生産性が高いと解釈する事も出来ますし、投資が多い産業はその分その維持コストも大きく、結局は労働者や企業への分配はその分目減りするとも受け取れそうです。
日本の場合は特に製造業が特徴的な変化をしてきました。
物価が下落し、名目の国内総生産は減少し、労働者も減り、実質の国内総生産が増加しています。
そして、投資はかなり高い水準が維持されています。
投資による実質=数量的な生産性の向上はあるものの、それを付加価値の増加に繋げられていないという事を物語っています。
労働者1人あたり国内純生産も高い方ではありますが、2022年には卸売・小売業を下回るなど、それほど生産性の高い産業とは言えない事もわかりました。
安く、大量にという規模の経済を追うのは経済活動、とりわけ製造業の基本姿勢ではあります。
それだけではなく、品質の高いものを、適正価格で生産・販売していく余地も大きいのではないでしょうか。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。