陸自にレンジャー訓練は必要ない

陸自、レンジャー訓練を一部中止 死亡事故相次ぎ内容見直し 朝日新聞

陸上自衛隊は3日、精鋭の隊員であるレンジャーを新たに養成する訓練を一部の部隊をのぞき当面中止にする、と発表した。ドローンなど最新技術を駆使する現代戦へ対応できる教育プログラムの作成と、訓練中の死亡事故が相次ぐなど安全管理を見直すことが理由という。

レンジャーは敵地に潜入して困難な任務を行うことを想定し、訓練期間は約3カ月に及ぶ。自衛隊内で「最も過酷な訓練」とされ、自衛隊関係者によると1日1食に制限された中での不眠不休での行動や、山中に潜みながら植物を見分けて食べる訓練も受けるという。

森下泰臣陸幕長は3日の会見で「事故が続いていた状況もあり、この機会にしっかり安全や健康管理を十分反映して新しい教育をしたい」と述べた。

もう随分昔にレンジャー訓練は役に立たないと本で書きました。はっきり申し上げてレンジャー訓練に使っているリソースは別に使ったほうがいい。

役に立たない理由はレンジャー訓練が一回だけだからです。一回の訓練で徽章をもらって一生ドヤ顔ができる、それだけです。

ある意味観光地のバンジージャンプと同じ。度胸だけが試される。

確かに厳しい訓練をクリアしたという自信は生まれるでしょうが、それだけです。では10年後に同じレンジャー訓練受けてクリアできますか、ということです。

本来の趣旨であればレンジャー訓練は継続的にやらないと意味がないわけです。サバイバル技術にしても日進月歩だけし、訓練は継続してこそ身につくものです。そしてその訓練は集団でどのように行動するかのスキルの取得も含まれます。バンジージャンプ・レンジャー訓練にはそれがありません。

そして昨今では敵のセンサーやドローンに対する知識や対処も必要です。20年前に一度だけ受けたレンジャー訓練では対処は不可能です。そして陸自には敵性地域に潜入して活動するようなスキルもないし、装備もない。

自衛隊のレンジャー訓練のようす Wikipediaより

悲しいかな、レンジャーが部隊として運用されているのは昭和の特撮ドラマ「怪獣王子」の中だけです。

「レンジャー遊撃隊」が宇宙人と戦っている(笑

怪獣王子〔園田光慶版〕【上】 (マンガショップシリーズ 376) – 園田光慶

それに死亡者が多数でているのは、生理学や医学を無視しているからでしょう。例えば普通の部隊ですらヒートマネジメントをしていない。70年代のまま止まっています。だから夏場の行軍で定期的に水分を取ることをさせなかったり、それを邪魔したりする指揮官もいます。

ですから18式防弾ベストみたいな欠陥品が装備として採用されます。しかも調達完了に1500年もかかるペースで調達された。そしてプレートキャリは今になっても存在しない。ぼくの報道がきっかけとなって、18式が見直されて、スタンドアローンで使えるプレートキャリアも開発されるようです。

夏場に17キロの重量で、皮膚を広く覆えば熱中症になることは間違いなしです。

装甲車に関してもクーラーは未だにほとんどない。やっと途中から16式MCVについて、今度の共通戦術車やAMVに搭載されます。ですが、既存の装甲車両には搭載されない。これでどうやって夏場のNBC環境下で戦うのか?16式のクーラーに関してもぼくがあれこれ動いていなかったら未だに未装備のままでした。

組織としてきちんと隊員の体調を管理してベストで戦わせるようなシステムがありません。さらに申せばそのような組織で知見を発揮する専門医の医官もいません。以前医官らが防弾ベストに関して提言したら「素人があれこれ口を出すな」といじめられました。これは本人から直接聞いた話です。こういうことをするから専門知識と改善の熱意がある医官が疎まれて、自衛隊を去っていきます。

だから昔の軍隊でいう「陸式」の脳筋、根性論が幅を効かせている。今回の問題の根源にはこれも大きな原因となっているのではないでしょうか。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
高コスト・低品質な国産戦闘服:自衛隊装備調達の問題と改革の必要性
石破首相のC-17導入発言の真意

ES&D誌に寄稿しました。
Japan orders 17 Boeing CH-47 Block II Chinook helicopters

【Kindle出版】
昔書いた「防衛破綻」「専守防衛」がKindle化されました。順次他の電子媒体でも発売となります。電子版向けのまえがきも追加しております。15年ほど前の本となりますが、防衛議論の基礎データとしてご活用いただければ幸いです。


防衛破綻 – 清谷 信一


専守防衛 – 清谷 信一

財政制度分科会(令和6年10月28日開催)資料
防衛
防衛(参考資料)

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編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2025年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。