こんにちは!自由主義研究所の藤丸です。
4月9日、トランプ米政権による相互関税いわゆる「トランプ関税」が発動しました。

トランプ関税が発表されて以来、アルゼンチンや台湾などはトランプ政権と交渉して自由貿易を進めたり、中国は報復関税を発表したり、各国の対応はさまざまです。
日本政府は、対応が遅すぎると批判されていますが、それも当然のことでしょう。
日本経済に大打撃を与えると予想される今回のトランプ関税ですが、そもそも「関税」とは何でしょうか?
経済産業省の資料では、「関税」は次のように説明されています。
関税とは、物品の輸出入に際して課せられる税金のことであるが、物品の輸入に際して課せられる輸入関税を指すのが一般的である。(※)
(※)我が国の関税は、関税定率法第3条において、「関税は、輸入貨物の価格又は数量を課税標準として課するものとし、・・・」と規定しており、輸入貨物にのみ課することを明らかにしている。
つまり関税とは、海外から物品を輸入する際に課される税金であり、これは輸入する国の消費者が最終的に負担することになります。
日本では保護主義の観点から、
「関税は、国内の産業を守るために必要なもの(良いもの)」
と考えられることも多いようです。
海外の物品に高い関税を課し、国内の産業を守り、国内産業(企業)での雇用を守ることは、一見必要なことのように見えます。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
実は関税は、目に見えない(もしくは、見えにくい)悪影響が非常に大きい、悪質な税金だといえます。
このことに関して、わかりやすくまとまった記事を一部意訳して紹介します。
アメリカの自由主義系シンクタンク・ミーゼス研究所のHPに3月8日掲載の記事「関税の隠れたコスト: バスティア『見えるもの、見えないもの』からの教訓」です。記事では、カナダが言及されていますが、これは日本(またはそれ以外の国)に置き換えてもほとんど同じだと思います。
フレデリック・バスティア(1801~1850)は、フランスの経済学者で、自由貿易を支持しました。

フレデリック・バスティア
太字と(※)は筆者です。元の記事は以下から全文が読めます。

関税の隠れたコスト: バスティア『見えるもの、見えないもの』からの教訓
関税はしばしば、国内産業を保護し雇用を創出するシンプルな解決策のように説明されます。トランプ大統領をはじめとする政治家たちは、関税を政治的手段として利用し、競争の緩和と国内生産の拡大を通じて、即時の利益を約束してきました。
しかし、このような説明は、フレデリック・バスティアが「見えるもの、見えないもの」の原則の中で明確にした根本的な経済学的教訓を見落としています。この教訓を関税に当てはめれば、保護主義政策が経済に与える隠れた長期的ダメージが明らかになります。
カナダにとって、米国の関税に報復で反応することは問題を増幅させるだけです。その代わりに、カナダは経済的自由を最大化し、構造改革を受け入れる戦略を採用しなければなりません。
バスティアの「見えるもの、見えないもの」の原理とは何か?
バスティアは、自身の有名なエッセイ「見えるものと見えないもの」の中で、「経済的な決定は、目に見える直接的な効果と、目に見えない長期的な効果の両方を生み出す」と主張しました。
政策立案者はしばしば、政策の直接的な利益である「目に見えるもの」に焦点を当て、手遅れになるまで隠れたままの連鎖的な悪い影響を考慮しない傾向があります。
関税に関して言えば、目に見える効果は理解しやすいでしょう。
外国製品の価格が上がることで、消費者は国内製品を買うようになり、それによって国内産業と雇用が守られます。
しかし、ここで「目に見えないもの」は何でしょうか?
それは、生産性、生産構造、貿易関係、そして経済成長に対する、より広範で長期的な影響です。
目に見えるもの:国内産業の一時的な保護
関税が課されると、当初は国内の生産者が利益を得ます。輸入品をより高価にすることで、関税は短期的には国内産業に競争上の優位性をもたらすのです。
政治家は、関税が雇用を保護し、国内生産を促進する効果がある証拠として、この利点を強調します。しかし、この一時的な保護には大きなコストがかかります。
目に見えないもの:経済への長期的なダメージ
1. 消費者と企業にとってのコスト上昇
関税は消費者に対する税金として機能し、消費者は輸入品やその国内代替品に対して、より高い価格を支払わざるを得なくなります。その結果としての家計への累積的な影響と、経済の他の分野での支出の減少は、目に見えません。
また、材料や部品を輸入に依存している企業は、コストの上昇に直面し、国内外での競争力が低下します。
2. サプライチェーンの混乱
現代の生産工程、特に自動車や製造業などの産業では、国境を越えた複雑なサプライチェーンが存在します。
たとえば、1台の自動車は生産される間に米国とカナダの国境を何回も通過することがあります。各通過地点で関税が課されると、コストは急速に上昇し、最終製品の価格が上昇し、競争力が低下します。目に見えない影響として、関税のないスムーズなサプライチェーンに依存する産業全体に、連鎖的な混乱が生じます。
3. 報復と貿易戦争
関税は、単独で存在することはほとんどありません。つまり、ある国が関税を課すと、貿易相手国はしばしば報復を行い、貿易縮小という悪循環に陥ります。
カナダは、1930 年代のスムート・ホーリー法(※)の時代にこれを直接経験しました。当時、米国の関税に対する世界的な報復措置は、世界貿易の60%減少につながりました。 目に見えない損害には、輸出機会の喪失、海外投資の減少、貿易関係の弱体化などがあります。
「1930年関税法」とも言われる。1930年、アメリカのフーヴァー政権下で出された世界恐慌対策で、高関税によって国内産業を保護しようとした。
しかし、アメリカが保護貿易に転じたことに対して、各国も一斉に高関税政策をとり、世界貿易は停滞し、世界恐慌をさらに拡大するという逆効果に終わった。
4. 生産性とイノベーションの低下
保護主義的な政策は、国内産業を競争から保護するため、イノベーションや効率改善のインセンティブを低下させます。これは、長期的には停滞と生産性の低下につながります。目に見えないのは機会費用であり、自由競争とグローバル市場への参入によって達成できたはずの成長の損失です。
5. 長期的な構造的ダメージ
関税が市場のインセンティブを歪めると、資源配分は非効率的になってしまいます。「保護がなければ競争力のない産業」が人為的な後押しを受ける一方で、より効率的な部門は投資の減少に苦しみます。
目に見えない結果として、長期的な構造的弱点が生じ、経済は外的ショックに対してより脆弱になります。
カナダの戦略的対応:経済的自由の受け入れ
カナダに対するトランプ関税の脅威は、より広範な経済ナショナリズム戦略の一環です。 報復することは自然な反応に見え、ある種の感情的な満足感を与えるかもしれませんが、保護主義的な政策による経済的な混乱を深めることで、目に見えない損害を悪化させてしまいます。
報復する代わりに、カナダはこの機会に、自国の経済的可能性を制限してきた長年の構造的問題に取り組むべきです。その方法は以下の通りです。
1. すべての関税と貿易障壁を世界的に引き下げる
一方的に関税を引き下げることで、カナダは消費者と企業のコストを削減し、自国の産業の競争力を高めることができます。 また、このアプローチは自由貿易へのコミットメントを示し、国際投資を誘致します。
2. 州間の貿易障壁を撤廃する
カナダ国内の貿易障壁は生産性の大きな足かせとなっています。これらの障壁を撤廃すれば、商品、サービス、労働力の自由な流れが可能になり、著しい経済成長が期待できます。
3. キャピタルゲイン税を撤廃して投資を奨励する
キャピタルゲイン税は、長期投資と起業家精神を阻害します。キャピタルゲイン税を撤廃すれば、資本が開放され、イノベーションが促進され、経済の多様化が促進されるでしょう。
4. 資源開発に対する規制を撤廃する
カナダの広大な天然資源は主要な経済的優位性がありますが、規制によって開発が制限されてきました。これらの規制を取り除くことは、輸出を促進し、雇用を創出し、米国市場への依存を減らすことになるでしょう。
5. 貿易関係を多様化する
欧州、アジア、新興市場との貿易協定を拡大することは、カナダの米国への依存を減らし、成長のための新たな機会を開くことになります。
結論:経済的自由を通じた長期的繁栄と強靭性
バスティアの「見えるもの、見えないもの」という教訓は、保護主義の真の代償は、目に見えるものだけではないことを教えてくれます。短期的な利益に目を向けることで、各国は長期的な経済停滞と構造的な損害を被るリスクがあるのです。
カナダ(そしてアメリカやすべての国)にとって、進むべき道は明らかです。経済的自由を最大限に受け入れ、貿易障壁を引き下げ、生産性とイノベーションを解き放つ構造改革を実施することです。保護主義的な脅威に反応するのではなく、カナダが模範を示すことで、自由貿易と開かれた市場で繁栄する、弾力的で国際競争力のある経済を創造することができるのです。
編集部より:この記事は自由主義研究所のnote 2025年4月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は自由主義研究所のnoteをご覧ください。