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「227%関税」は本質を外した議論
玉木氏の「コメ関税は227%、700%は誤り」という説明は、本質をはぐらかしている。トランプ大統領が求めているのは、アメリカ産米の「通常の市場アクセス」であって、例外措置である「ミニマムアクセス」ではない。
日本がアメリカからのコメに700%を超える高関税を課しているために貿易赤字が生じているという主張がありますが、これは正確ではありません。…
— 玉木雄一郎(国民民主党) (@tamakiyuichiro) April 7, 2025
日本はかつて関税化を拒否し、「これだけは輸入しますから勘弁してください」と設定したのがミニマムアクセス(MA)枠である。
その前提で後に関税化を受け入れ、設定したのが、341円/kgという法外な従量税だ。輸入米の価格次第では、従価換算で関税率は実質700%に達する。
これは国際的にも「アクセス拒否=市場遮断」として長年「不公正」と批判されてきた慣行であり、トランプの主張は貿易交渉上、むしろ常識的である。
実際、アメリカ産の主力米における農家庭先価格は約54円/kg、屑米なら44円/kg。341円の関税は、従価換算で約630~770%に達し、「700%関税」というトランプの指摘は、現実を反映した数字と言える。
農家価格は、本来従価換算のベースとすべきFOB価格ではないが、交渉や政治の文脈では、こうした誇張は極めて一般的かつ許容されるレトリックである。
日本の実効的な市場遮断の説明としてインパクトがあり、アメリカの農家が日本市場に直接アクセスできない不公平な現実を、より直感的に伝えることができる。
一方、玉木氏の「日本はミニマムアクセスでアメリカ産米を輸入しているではないか」との主張は、高関税による市場アクセス拒否を正当化する詭弁に過ぎず、国際的には通用しない。
アメリカにとって重要なのは、自由貿易に反するミニマムアクセスの枠ではなく、関税そのものだ。トランプから「そんな枠はいらない、関税を下げろ」と本質論を問われれば、日本は何も言い返せない。
トランプの常識的な主張に対し、玉木氏のような官僚的な説明で反論しても、外交交渉には勝てない。
問題の焦点は「数字の正確性」ではなく、「制度の異常性」にある。「227%か700%か」といった数字へのこだわりは、本質を外した“数字遊び”に過ぎない。
真に問われているのは、日本が高関税によって事実上市場を閉ざしている構造そのものだ。その現実を象徴する数字として、「700%」という表現はむしろ的確である。それを「誤りだ」と数値だけで反論しても、国際交渉では何の説得力も持たない。
こうした問題の構造に切り込まず、表層的な数値の揚げ足を取るような説明を繰り返す限り、交渉力のあるリーダーとは見なされない。
外交とは、言葉の使い方を含めた問題構造の提示力そのものである。今後、石破首相がトランプと対峙する方法は、このような構造的視点に立てば、いくらでも見出せる。
高関税が象徴する不公正な貿易構造
トランプ大統領が日本に求めるのは、単なる関税交渉の妥結ではない。その本質は「不公正な」貿易構造の是正にあり、アメリカの農家をはじめとする支持層の生活を豊かにすることにあるからだ。
そこで、不公正の象徴として名指しされたのが、高関税を課す日本のコメやその他の農産品だ。
石破政権は、コメ関税という「聖域」を突かれ、対案を示せずに狼狽している。石破首相自身が農水族議員であり、同じく農水族である多くの地方議員たちも思考停止に陥るしかない。
このままでは、日本が報復関税を受けるのは時間の問題だ。主力産業が揺らげば、農業保護どころか、日本の経済基盤そのものが危機に瀕する。農業を守るために他産業を犠牲にする従来の発想から転換すべきときだ。
コメを「安全保障資源」に変える発想
コメという象徴的な火種を、むしろ日米同盟と安全保障を再構築する接点に変える視点が求められる。
日本政府(農水省)は、国家貿易を通じてアメリカ産米や麦を購入できる事業主体である。この既存の枠組みを活用すれば、迅速な発注を通じて、トランプ大統領に即効性のある「ディールの成果」を示すことができる。
これにより、関税交渉を前に、トランプ支持層であるアメリカ農家に確実な売上を約束できるのだ。
さらに、一定量を長期的に購入する契約を結び、アメリカ国内で備蓄する。大豆や飼料用トウモロコシもこの仕組みに組み込めば、日本の食料安全保障とアメリカの政権・農業州の利害が一致し、日米の同盟関係がさらに強固になる。
これは空想ではない。2019年、安倍首相はトウモロコシの先行購入を即決し、トランプ氏の対日圧力を巧みに回避した実績がある。
この提案もまた、単なる食料備蓄に留まるものではない。
日本がアメリカ国内に設ける「穀物備蓄」を、米軍や同盟国と連携して「戦略物資」として位置づければ、台湾有事やシーレーン封鎖への現実的な備えとなり、抑止力にもなる。
中国にとっても、アメリカの食料と日米の安全保障が結びついた構造は、軍事的冒険を抑える重石となり得る。
わかりやすく言えば、日米安全保障条約に「食料条項」を加えるようなものだ。
さらに、中国の食料戦略に対抗する「インド太平洋・食料安保構想」へと発展させることも視野に入れられる。
農業・通商・外交をつなぐ現実的構想
食料安全保障のリスク管理が飛躍的に向上し、米軍の後ろ盾を得ることで、日本国民が有事の際、「飢えない」という安心感も高まる。こうした発想は、決して荒唐無稽なものではない。
TPP交渉時、豪州政府は「日本の食料安全保障のためなら、豪州国内に日本の食料備蓄制度を導入する用意がある」とオファーしたことがある(ただし、農水族が食料自給率や農業保護政策の名分、利権を失うことを恐れ、政府はこれを拒否した)。
また、イスラエルは実際、有事を前提に国内外に分散した備蓄体制を構築し、東欧諸国などと小麦確保の覚書を結んでいる。
購入した穀物は平時には日本国内で流通させず、国内のコメ市場やコメ農家への影響を抑える。
一方、アメリカ産を国内外に分散備蓄することで、国産新米の備蓄負担をなくし、すべてを市場に供給できる。これにより、価格高騰や供給不安の緩和にもつながる。
さらに、アメリカに備蓄があれば、飼料用米などに転作するための膨大な予算も不要になる。日本で生産されたコメは、すべて日本人が食卓で味わえるようになるのだ。
この日米共同の食料備蓄構想は、両国の農家を守りつつ、通商、農業、外交、安全保障を同時に結び直す現実的な提案である。
農業か経済かという二元論で個別に守ろうとすれば、すべてが崩れる。必要なのは、コメを基軸に、これらを戦略的に結びつけ、日米の同盟関係を深化させる構想だ。
今こそ、貿易摩擦や報復関税を超えた次元で、大局的に日米双方を利する基盤を築くときだ。
(注)正直、私の好みに合う提言ではないが、緊急事態であるため、石破首相や国会議員が理解でき、農水族でも政治的に受け入れ可能な案としてまとめた。
(編集部より)この記事は、浅川芳裕氏のX(@yoshiasakawa)のポストを、許可を得た上で転載いたしました。