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「識学」とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どのように解決できるか、その方法を明らかにした学問です。
2025年4月1日に識学にて安藤社長と対談をしました。本稿は対談時のやり取りを記事化したものですが、読みやすいようにアレンジを加えています。
【対談者】
安藤広大氏(株式会社識学・代表取締役社長)
尾藤克之(アゴラ・コラムニスト)


右:安藤社長、左:筆者 於:株式会社識学にて
組織構造の考え方
尾藤克之(以下、尾藤):人の特性が組織設計の制限要因になってしまうことはありませんか?私は上司と部下の組み合わせなども重要な考慮点だと考えています。
安藤広大氏(以下、安藤):鋭い指摘ですね。私たちは会社の目標達成を最優先に考え、それを実現するための役割分解を行います。その役割に人が合わせていくという発想です。だからこそ、「タレントパレット」のような、人の組み合わせを重視するアプローチには全く賛同できないんです。人の個性に合わせて組織を設計し始めると、組織全体の目標達成可能性が確実に下がります。
これは時代の流れとも関係しています。景気の悪化とともに本質に戻る動きとも言えるでしょう。日本経済が好調だった時代には、「タレントに合わせる」とか「やりたいことに合わせる」という考え方が一時的に成立したのかもしれません。でも、本質的には違うアプローチが必要です。
例えば戦国時代の戦争で「ここを攻めなければいけない」という状況で、「攻められる人材がいないから攻められません」とは言えませんよね。プロ野球でも、打撃の得意な選手が全員投手になれるわけではありません。役割に応じた適材配置が不可欠なのです。
もちろん、コミュニケーション能力など個人の資質も重要ですが、それは優先順位でいうと3番目くらいの要素にすぎません。
尾藤:では、マネジメントにおいて何を最優先に考えるべきなのでしょうか?
安藤:まず戦略とミッションです。次に、それを実現するためのロール(役割)設計です。結局は経営の本質に立ち返る必要があるということですね。この考え方を広めるために書いた「リーダーの仮面」がダイヤモンド社から出版され、爆発的に売れました。
尾藤:ダイヤモンド社の出版は影響力がありますね。
安藤:1冊書くのに3〜4ヶ月はかかりますね。やはり商業出版には影響力があるのでこだわりました。自費出版では流通網に乗せにくいですから。
尾藤:確かに、商業出版は営業面での強みがあります。
安藤:私の著書でも一貫しているのは、「個人」ではなく「仕組み」「構造」に着目する点です。ここが一番伝えたいメッセージです。
自己啓発セミナーが流行ったのは、「個人のやる気」に依存する組織運営が一時的に成果を出したからでしょう。しかし私たちのアプローチは逆で、「一人一人がやらざるを得ない環境をいかに作るか」に注力しています。
会社のルールを明確にし、各人の責任範囲を明確にした上で、その責任に見合った権限を与える。そうすることで「できない理由」を言わせない環境を作ります。
また、一人では「できなくてもしょうがない」と思われがちな仕事でも、競争環境を整えることで、「誰かはできているのに自分ができていない」という状況を作り出し、自己責任の認識を強めます。こうして一人一人が「仕組み」の中で動かざるを得ない環境を作ること、それが「枠組みで動かす」ということなのです。
そういう環境に置かれた人は、「やらざるを得ない」状況から頑張り始めます。そして頑張った結果、成長できると、その成長の実感から「仕事の喜び」を感じ、さらに頑張るようになる。
これが私たちの考える理想的なステップです。つまり、やる気は成長の結果として生まれるものであり、従来の日本的アプローチのように「やる気を先に与える」という発想とは逆なのです。これも時間軸の考え方の違いです。この違いが広く認識されれば、日本のマネジメントも変わるのではないかと思います。
本当の成果主義とは
尾藤:評価制度についてはどのようにお考えですか?
安藤:多くの企業が評価制度だけを改革しようとしますが、それだけでは本質的な変化は生まれません。会社としての人事哲学やマネジメント方針がしっかり確立された後に、それを表現する手段として評価制度があるべきなんです。だからこそ、私たちはそういうステップを踏んでアプローチします。
評価制度の最も重要なポイントの一つは、「マイナス評価の存在」です。つまり、成果を達成できなければ評価が下がるという仕組みが不可欠なのです。
尾藤:それが日本企業には定着していないように感じますね。
安藤:その通りです。多くの企業は「成果主義人事制度」と謳いながら、実際は数値に基づく客観的評価ではなく、上司の主観に頼った「定性的な成果主義」になっていました。
日本では解雇規制が厳しいという前提条件があります。アメリカのように簡単に解雇できる環境とは異なるため、その制約の中で適切な仕組みを整えた上で評価制度を導入しなければなりません。
だからといって、成果主義自体が間違っているわけではありません。そんなはずがないんです。企業の成果は個々の成果の積み重ねですから、本来は成果で評価するのが当然です。問題は評価の精度や、その前提となる仕組みにあったのです。
この本質を理解している人は非常に少ない。霞が関でも「働き方改革」や「人的資本経営」といった言葉が踊っていますが、構造的な理解が欠けているため表面的な議論に終始し、実質的な改善には至っていません。だからこそ、私たちの役割が重要なのです。
理論的には競合がいないんですよ。市場では「リンクアンドモチベーション」のような、私たちとは逆のアプローチを取る会社が最も近い競合になります。私たちはベンチャー界隈で「モチベーションを高める前にやるべきことがある」という考え方を広められたのではないかと思います。
尾藤:マネジメントにおいて最も重要な能力は何だとお考えですか?
安藤:マネジメントの核心は「やり切る力」ですね。私がリーダーシップ論で「逆境での対応」という質問を入れたのは、自分自身が比較的共感力が高いと自覚しているからです。
共感力が強すぎると、部下の気持ちがわかりすぎて、本来厳しく指導すべき場面でそれができなくなってしまう。だからマネジメントには「共感しない力」、つまり徹底力が必要なのです。
リーダーを単なる管理職と捉えるのではなく、私の立場で言えば、「マーケットが何を求めているかを見極める力」が二つ目に重要です。そして三つ目は、目標に何としても到達するという執念です。達成してこそ、かっこいい形になるのです。
(次回に続く)
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