人の採用に思うこと:昔の労働組合的発想に近い今どきのキャリアコンサル

私の社会人人生は一般的なサラリーマンの方と違い、プレーイングマネージャー的なポジションを20代の時から今日までずっと続けてきた点において世の中の変化を同じ立ち位置から見続けることができました。多くの会社勤めの方は平社員から係長、課長、部長…と昇進するたびに管理業務が増え、現場の状況は間接的に報告を受ける形が主になるでしょう。すると「現場は大変なんです!」という声も小さくなり、「どうにかしろよ!」と部下に命じて終わりということもあります。

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長年同じ立ち位置で見る業務では様々な変化を感じるのですが、人の働き具合も変わったと思います。

業者がコミットメントができないケースは北米では当たり前になっています。工期、納期、品質、金額などが当初に比べてあれ?という場合は往々にしてあります。「約束が違う」といえば3、4つぐらいのできない言い訳を聞かされることになります。挙句の果てにもっと金をくれ、と言われます。

従業員はどうでしょうか?ちょっと注意するとすぐに辞める、これは世の東西を問わないと思います。理由は「親にも先生にも怒られたことがないのに何で会社の人に怒られなきゃならないの?」という極めてシンプルなメンタル的理由。怒られるといってもとても些細なことで、怒鳴るわけじゃない、ただ、その事実を淡々と述べ、注意を促す程度でもダメな人はダメで、「私、辞めさせて頂きます」。

最近はこの傾向に慣れているので「あ、そう。わかりました」で引き留めもしません。かつて辞めそうな人を一生懸命引き留めたことも何度かあったのですが、一度ついた会社への不満や辞めたいという気持ちは並大抵では取れないし、引き留め期間のクオリティ オブ ジョブが極めて低下したのです。

では日本の社員がそれでも長く務めているのは何故か、といえば家族を養う、あるいは住宅ローンがあるから辞められないというのが現実的理由だと思います。それゆえアメリカのギャラップ社が調査した仕事の満足度の国際比較では「満足している」人は日本ではわずか5%で世界最低水準であります。

また会社組織ですと辞める社員が出るとその組織の責任者にマイナス点がつくこともあるでしょう。人事部長あたりから「〇〇課長、オタクの部署からまた退職者が出ているようだけど何か組織内に問題でもあるんじゃないかね?」と言われるのはたまらないわけで辞めないように腫れ物に触るぐらいのものになりかねないのです。

日経に上田晶美さんというハナマルキャリア総合研究所の方のコラムがありました。これを読んで私はのけぞるほどびっくりしました。面接の際によくある質問の一つ、「自分の長所と短所を述べてください」のうち、短所を聞く意味がないというのです。「自分の短所について深く掘り下げる必要があるだろうか。仕事は自分の長所を生かしてするもので、短所のことを考えても無駄ではないか」というわけです。その上で「就職面接で不適切な質問をしてはならないのはハラスメントに敏感になってきた現代において常識である。もちろんセクハラ、パワハラは言語道断。それに加えて短所のような仕事にあまり役に立たない、しかも学生に不利になる情報収集も考え直してほしい」そうです。

マジか?上田さんはメディアにも出演しているキャリアコンサルの方ですが、ここまでくると昔の労働組合的左翼発想に近い気がします。

先日も述べたように今の学生は就職する企業の業務内容はほぼ無知で全く白紙のキャンバス状態で入社してくるのです。その若手に企業が時間と金をかけて色を付け、キャンバスに描くような教育を行うわけです。ありがたいですよね。一方、大和証券のように即戦力=その分野の基礎知識や能力を持った人を初任給50万円で採用すると打ち出したところもあります。今後、このスタイルが増えてくると思われ、就活は二分化すると思います。つまり真っ白なキャンバス型の学生を時間をかけて教育するパタンと即戦力採用型です。

北米だと即戦力採用型なので多少性格がゆがんでいても成果を出してくれればよいのです。ところが日本の場合メンバーシップ型雇用なので組織の和は重要なのです。また日本は一度雇うと「やっぱりお引き取りください」と言えない仕組みなので入り口の検査は極めて重要なのです。その選定過程において外部コンサルが「あれはダメ、これもダメ」というのは雇用のミスマッチを引き起こしかねないのです。キャリアコンサルなのでどこかにはめ込めばよいという感じがしないでもありません。

お前は昭和だな、と言われるかもしれませんが、打たれ強い人が私は欲しいのです。就活マニュアルで美しい履歴書をいくら作っても人事担当者も私もほぼ瞬間に見抜きます。そしてAIで作ったかどうかもわかります。なぜわかるかといえば語彙や言い回しが機械的なんです。でも今の就活、AIを使わない人が少ないでしょう。ならば生身の人間と面接するとどうなるか、といえば美しい履歴書に対して恐ろしいほどギャップが出てしまうのです。受け答え、話す内容の質、使う言葉や語彙、ポイントを端的にまとめられない…いろいろです。その中で私はその人の人生まで見抜く必要があるのです。わずか20分の面接は雇う側も真剣勝負で最終的には職歴や職能と共にパーソナリティが判断の半分は占めると思います。

化粧は化粧なんです。短所を聞くなと言われれば聞きません。それでも化粧の向こう側の人の性格は見抜けるものなのです。人事の人はプロなのです。そこはどんなに隠しても見えてしまうものです。よってコンサル主導の就活テクニック論は今も昔も大流行ですが、最後はその人の素が全てだと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月11日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。