日本人にとって追加関税による米国債売りは「対岸の火事」ではない

Lazy_Bear/iStock

トランプ大統領が追加の相互関税政策の発動に90日間の猶予を与えることを決めたのは、アメリカ国債が売られ長期金利が急上昇し、株安、円安、債券安というトリプル安に世界からの「米国売り」の危機感を抱いたからだと言われています。

その前例が2022年のイギリスにありました。2022年にイギリスに誕生したトラス政権は、財政の裏付けのない大規模な減税政策を発表し、ポンドは急落、イギリスの金利は急上昇。トラス政権は短期間で退陣に追い込まれました。

このようにマーケットに与えるインパクトを過小評価した強硬な経済政策の遂行は、投資家の混乱を招き市場からの大きなしっぺ返しを受けるということです。資本主義社会のマーケットメカニズムです。

アメリカの混乱は取り敢えず収まったように見えますが、今回の混乱を日本人は他人事のように傍観しているわけにはいきません。

日本の長期金利もじわじわと上昇しているからです。

日本経済新聞の報道によれば、4月1日からの日本国債のイールドカーブを見ると、短期ゾーンが低下しているにもかかわらず、長期ゾーンが上昇して、イールドカーブがスティープ化していることがわかります(図表も同紙から)。

長期国債が売られている理由は、日本の財政に対する懸念です。

野党だけではなく与党までが夏の参議院選挙をにらんで減税や現金給付といった「ばらまき」政策を打ち出すようになり、財政規律の緩みが目立っています。

さらに、今後の東アジアの軍事的な緊張から日本の防衛費負担が高まることも予想され、こちらも財政の悪化を加速させます。

既に先進国で最悪の財政状態となっている日本がこのまま目先の経済対策だけに目をとられ小手先の対応を続けていると、日本版トラスショックの可能性が高まっていきます。

日本人は他人事のように米国債売りによるトランプ大統領の政策修正に胸を撫で下ろしている場合ではありません。

減税を求めて財務省前でデモをしている暇があるなら、日本の財政危機の中で自分の資産をどうやったら守れるかを考え、早めに行動しておくべきです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年4月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。

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