黒坂岳央です。
本稿タイトルは筆者の言葉ではなく、元衆議院議員の杉村太蔵氏がNewsPicksのYouTube動画で語った言葉を引用したものだ。
東京は年収400万円未満の40代以降が住むには厳しい場所だということだ。
厳しく聞こえるこの正論に、胸を突かれた人も少なくないだろう。この主張は現実を突いた冷静なアドバイスなのか?そうでないのか?を元上京した立場の筆者が考察したい。

Chalabala/iStock
若者が東京へ行く目的は「仕事」
地方から東京へ出てくる理由はさまざまだが、やはり最大の動機は「仕事」で間違いないだろう。「進学」もあるだろうが、その後の就職を見据えるとやはり、こちらも仕事が動機だと言える。実際、20代~30代の独身者にとって、東京はチャンスの宝庫だ。
東京には、求人の数も種類も多く、優秀な人材との出会い、成長機会がある。さらに学生時代の「地元でくすぶるのは嫌だ」という感覚も、上京を後押しする。
スタートアップで働きたい、芸術活動に打ち込みたい、あるいは単に刺激的な生活を送りたい。そうした想いを胸に、多くの若者が毎年、東京の駅に降り立つ。
生きるコストが高い東京
だが、上京後に直面するのが「生活費の高さ」と「成果の厳しい現実」だ。
家賃、食費、通信費、交際費。東京での暮らしは地方に比べて明らかにコストが高い。例えば、地方であれば月5万円の1LDKが、東京ではワンルームでも月10万円を超えることは珍しくない。加えて、通勤時間や満員電車、仕事に求められるスキルなど、心身にかかる地方に比べて遥かに負担が大きい。
手取り25万円で生活費が20万円を超えるようでは、貯金も投資も難しい。ましてや、家族を持ち、教育費や医療費がかかる年代に入れば、ますます首が回らなくなる。
さらに今後はインフレと円安基調でこの傾向が強まることがあっても、弱まることはないのだ。冷静に考えれば年収400万円未満、40代で今後も東京に住み続けるというのは、明確な経済的合理性を見出すのは難しいかもしれない。
40代は見切りをつける年齢
40代以降、サラリーマンとして大きく飛躍する確率は、実はあまり高くない。これはデータにも裏打ちされている。
一般的に、昇進や転職で大きな年収アップが期待できるのは、30代までが中心だ。40代になると企業側は即戦力としての経験を重視するが、それに応えられるポストや機会は限られてくる。
また、若手への教育やマネジメントを求められる一方で、実際に課長になれる日本人は3割に留まる。
つまり、あくまでサラリーマンのキャリアにおいて「東京での勝負は40代で見切りをつける」という見方は、一定の妥当性を持つ。むしろ、30代のうちにある程度の手応えがなければ、まだ高値で売れる内に「損切り」の検討に入るべきだろう。
ビジネスの世界でも、株式投資の世界でも、撤退のタイミングを誤った者が最も大きな損失を出すのだ。
地方移住は“敗北”ではない
「実家に帰る」=「負け」と捉える必要はまったくない。むしろ今や、地方移住は一つの戦略であり、合理的な生存戦術ですらあるだろう。
コロナ以降、リモートワークが浸透し、地方からでも仕事ができるようになった。特に、ITスキルやWebマーケティング、ライティング、デザインなど、“東京で磨いたスキル”を地方で活かすというライフスタイルは現実味を帯びてくる。
筆者は30代なかばまで大阪、東京とずっと都市圏で生活をしてきたが、脱サラ、独立に際して人生初の熊本県の田舎へ移住した。生活費は驚くほど安く、家も広いし食材の質も高い。「都会から来た人に冷たい」「田舎は閉鎖的」という印象も杞憂に終わった。特に育児をする上では自分にとって田舎の方が向いていたという感覚が強くあるので、「都落ち」はまったく敗北ではないと思っている。
早めの損切りが人生を変える
人生において、「損切り」という言葉はネガティブに聞こえるかもしれない。だが、戦略的撤退はむしろ勇気ある判断だ。
もし30代半ばで、「年収は横ばい」「上昇の兆しが見えない」「生活は苦しい」という状況の人なら、一度立ち止まってほしい。その場所にしがみついても、数年後に状況が劇的に改善する保証はない。むしろ、年齢が上がるほど身動きは取りづらくなる。
東京に出てきた経験が、すべて無駄になるわけではない。そこで得た知識、つながり、成功も失敗も、地方での次のステージに必ず活きる。
東京は、夢を叶える場所でもある。しかし、すべての人にとって“勝ち”の街ではない。
40代で年収400万円未満。これは単なる数字ではなく、これまでのキャリアの“通知表”でもある。だからこそ、現実を直視し、次の打ち手を早めに考えることが重要だ。
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