トランプ関税が合理的だと思っている人は世界にほとんどいないが、トランプ政権の中には何人かいる。彼らが本心からトランプを信じているかどうかは疑わしいが、彼を利用して野望を実現しようとしていることは確かだ。その筆頭はベッセント財務長官である。
米財務長官、ブレトンウッズ再編の野望 対日交渉3本柱https://t.co/ouKs4syJEa
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) April 14, 2025
- ベッセントとは何者か?
- 元ヘッジファンドマネージャーで、ジョージ・ソロス氏に師事。
- エール大学で経済史を教えた経験を持つ、経済史家としての顔も。
- アベノミクスによる円安で巨額の利益を上げた知日派。
- ベッセントの目指す「新ブレトンウッズ体制」
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- 現行の国際経済システム(ドル基軸+アメリカの消費と安保依存)は機能不全。
- アメリカの再工業化と、ドル高是正×基軸通貨維持の両立を目指す。
- 安保と通貨を結びつけた、新しい国際ルール作りを視野に。
- 日米交渉の柱は3つ
- 製造業の回帰による再工業化
- ドル高是正と通貨協調
- 安全保障の応分負担
ベッセントはソロスのファンドマネジャーとしてイングランドを倒した国際金融のプロ中のプロだが、ちょっと変わった信念を持っている。それがアメリカの再工業化である。
Treasury Secretary Scott Bessent tells Tucker Carlson
– The top 10% of Americans own 88% of equities, 88% of the stock market
– The next 40% owns 12% of the stock market
– The bottom 50% has debt
-Summer of 2024 more Americans were using food banks than they ever have in history pic.twitter.com/Idt0l5Ivtw— Wall Street Apes (@WallStreetApes) April 4, 2025
トランプ政権の関税政策の目的
- 関税収入を使って減税を可能にし、中間層を支援。
- 製造業の国内回帰(リショアリング)を促進し、経済の再工業化を目指す。
- 「経済安全保障=国家安全保障」との認識から、サプライチェーンを国内に戻す。
中間層と地域格差の是正
- 経済の金融化で、東海岸(金融)と西海岸(IT)は繁栄したが、中西部の製造業は没落した。
- 「チャイナ・ショック」による中西部の衰退を取り戻すことが政策の核心。
- 「ウォール街はもう十分稼いだ。今度はメインストリート(実体経済)の番」。
財政政策との関係
- 財政赤字も大きい。政府債務はGDPの123%で、限界に来ている。
- トランプ政権は関税収入を活用して、チップ、社会保障、残業に対する税金の廃止などを検討。
- 関税は年間3,000億~6,000億ドルの収入を見込む。
つまり関税とドル安誘導で為替相場をコントロールし、初期のブレトン・ウッズ体制のようにアメリカが通貨を管理する制度に戻そうというのだ。これをクルーグマンは一笑に付している。
■ アメリカが築いた国際経済秩序の崩壊
- 第二次世界大戦後、アメリカは貿易ルールや透明性を重視した体制を構築。
- 「相互貿易協定法」(1934年)により、関税引き下げと国際協調を進めてきた。
- その体制がトランプ政権により混乱状態に。関税が日ごとに変更されるなど、企業が計画を立てられない。
■ ドルの過大評価は大した問題ではない
- 1930年代の「スムート・ホーリー法」以来の最悪水準。近年のアメリカとEU間の平均関税率はほぼゼロに近かったが、それを壊している。
- ドルの「基軸通貨」としての優位性は、経済的には大きくない。その過大評価も大した問題ではなく、アメリカ人が英語とドルで貿易できる利益のほうが大きい。
- 製造業の空洞化は為替レートではなく比較優位によるもので、為替レートを操作しても製造業は戻ってこない。ドイツでも空洞化は進んでいる。
■ 「再工業化」はナンセンス
- モノの貿易赤字は大した問題ではない。国際資本移動や情報プラットフォーム(サービス収支)が重要。アメリカのサービス収支は世界最大の黒字だ。
- 関税には空洞化を巻き戻す効果はなく、ドル安を人為的に維持することも困難。
- ベッセントも再工業化なんてできるとは思っていないが、関税の好きなトランプに迎合して権力をふるっているだけ。
- しかし関税実施後の金利上昇にはあわてて、トランプにストップをかけた。彼は金利が下がると予言していたからだ。