サンチェス・スペイン首相の中国訪問裏事情

サンチェス首相の中国訪問を調整したのは、ベネズエラ・マドゥロ政権の大使に転身したサパテロ元首相である。

サンチェス首相は、2025年4月8日から12日までベトナムを訪問した後、中国を訪問した。ちょうど米中間の関税戦争が激化する最中での訪問となったが、これは偶然の一致であり、意図的にこのタイミングを狙ったものではない。ただし、今回の訪中の背景には以下のような複雑な事情がある。

国内スキャンダルの回避

スペイン国内では、サンチェス政権をめぐるスキャンダルが次々と表面化し、議会運営すら困難な状況となっている。さらに、彼の夫人をめぐる刑事事件の公判では、サンチェス氏自身が関与していたことを裏付ける証拠が次第に明らかになっている。こうした国内情勢から目を逸らすため、外交出張を利用したという見方がある。

王室に先んじたい意図

フェリペ6世国王夫妻が、習近平主席の招待を受けて17年ぶりに中国を訪問する予定となっている。そのため、サンチェス首相はこれに先んじて訪中する機会を狙っていた。あたかも自らが国家元首であるかのように振る舞う傾向があり、王室に後れを取る形での訪問を避けたかったとされる。

中国企業への便宜供与

中国企業によるスペイン進出の促進も目的の一つとされる。たとえば、バルセロナの日産工場の跡地には、中国のEVメーカー「チェリー」社が進出する予定であり、スペイン政府はこの計画に対してEU資金の提供を検討している。だが、本来EU資金はEU域内企業への支援を目的としたものであり、中国企業への供与は道義的な問題をはらむ。

EU内での影響力誇示

米国がEUに課す関税措置を受け、サンチェス首相はEUと中国の橋渡し役を果たす意向を抱いていた。しかし実際には、EU内でのサンチェス氏の影響力や信頼度は極めて低く、こうした動きは自己誇示と受け取られている。

首相継続の正当性への疑念

現在、首相の夫人および弟が汚職容疑で起訴され公判中である上に、サンチェス氏本人が背後で糸を引いていたとの証言も出ている。こうした状況下でなお辞任しない姿勢は、他の民主国家であれば到底容認されないはずであるが、スペインでは首相職に留まり続けている。

中国の対EU戦略とスペインの位置づけ

中国にとって現在のスペインは、EU内で最も関心のある国の一つとなっている。かつてはイタリアが一帯一路構想の主要な協力国であったが、政権交代によりメローニ首相が同構想から離脱。中国は代替国としてスペインを選び、戦略拠点としてカナリア諸島の活用も視野に入れている。

対米関係の冷却と媚中路線

従来、スペイン外交は米国寄りであったが、ブッシュ政権下でサパテロ元首相がイラクから撤退したことを契機に、米国はスペインを冷遇。そのサパテロ氏が現在もサンチェス首相の政治顧問を務めていることもあり、関係はさらに冷え込んでいる。その結果、サンチェス政権は明確に中国寄りの姿勢を強めており、EUが中国製EV車に高関税を課そうとする中でも唯一反対の立場を取っている。

こうした行動はEU内でも孤立を招いており、サンチェス氏の今回の訪中にも各国首脳は冷ややかな視線を向けている。にもかかわらず、サンチェス首相は訪中中、自らがEU内で影響力を持つ存在であるかのような振る舞いを見せていた。

トランプ政権からの批判と国内の反応

トランプ政権のベッセント財務長官は、今回の訪中を「自らの首を絞める行為」と強く批判した。感情的な対応で知られるトランプ大統領は、今後スペインに対して報復措置を講じる可能性があるとの懸念が国内でも広がっている。次期政権を担うことが有力視される国民党も、今回の訪問は「最悪のタイミングだった」と厳しく批判している。

サンチェス首相が政権の座にとどまる限り、スペインの外交は迷走を続けることになるだろう。