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迂回輸出に利用されたタイ
近年、中国はタイ最大の貿易相手国として台頭しており、公式データによると、タイの対中貿易赤字は2018年の約96億ドルから2024年には450億ドルに膨れ上がる見込みだ。一方、タイの対米貿易黒字も2018年の約70億ドルから460億ドルに拡大した。
タイ外商局長のアラダ・フアントン氏は声明で、タイを米国への(迂回輸出のための)再輸出拠点として利用する(中国)企業によって、原産地を偽られるリスクが高いとみられる製品群をさらに9つ特定したと述べた。対象製品には、鉄鋼、銅線、アルミニウムなどが含まれるという。
バンコクポスト
過去7年で中国からの輸入が激増し、一方でタイからアメリカへの輸出もほぼ同額激増していることから、中国人たちがタイ経由でアメリカに迂回輸出する姿が見えてくる。
結局、タイは中国企業にいいように使われた結果、アメリカ政府から36%もの追加関税をかけられるという損な役を引き受けることになったわけであるが、これも今まで親中政策を取ってきたタイ政府が、中国に強く抗議できなかったことが原因であり、自業自得のようにも思えるのである。
- 米国から輸入されている飼料用コーン、大豆などの品目について関税を引き下げるとともに、米国へのエネルギー関連投資を拡大する。
- これまで米国から輸入していない品目の輸入を増加する。
- 米国からの輸入にかかる非関税障壁を減らす。
タイ政府
それに対し、大慌てのタイ政府は上のような対策を打ち出してトランプ政権と交渉を進めようとしているが、トランプ大統領が要求しているのはこんな小さなディールではなく、中国の迂回輸出を直ちに止めろ、ということだと筆者は思うのである。
プラユット軍事政権で始まった親中政策
2014年のクーデターの時、既に筆者はバンコクに住んでいたのでよく覚えているが、当初プラユット軍事政権は、この政権は一時的なもので社会が落ち着けばすぐに民主主義で選ばれた政府に政権を返還すると約束していた。
しかし、いつまで経っても政権から降りようとせず、結局8年もの間、首相の座に居座ることになったのだが、これに対しアメリカを始めとする世界の民主主義陣営が非難し始め、プラユット政権は孤立してしまったわけである。
そこで唯一中国だけが、こっちの水は甘いぞ、とばかりにすり寄ってきた結果、当時藁をもつかむ思いであったプラユット首相は、一気に親中に傾倒していったのである。
その結果、タイは中国人たちに迂回輸出で利用されることになってしまい、今のタイ政府はトランプ政権の相互関税に苦悩しているわけである。
なお、これについてはもう5年近く前になるが、本サイトでも「南シナ海防衛、ASEANが海軍力を増強する背景」と題して当時のタイの事情について触れたことがあるが、今頃になってその後遺症が出てきているのである。
EEC(東部経済回廊)の現状
中国からのEEC投資は期待外れ
中国投資家は自国の建設資材、労働力、そして請負業者を持ち込んでいる。中国からの産業投資によるタイの不動産への恩恵は、東部経済回廊(EEC)内の工業団地やその他の地域での土地売却に限られる可能性がある。
「中国人たちは(EECで)工場を建設しているが、自国の請負業者、労働力、そして建設資材を持ち込んでおり、現地サプライヤーを介さない。また、工業団地外にある中国工場も、タイ人労働者をほとんど雇用していない」。
バンコクポスト
日本を含め、大きな注目を集めていたタイのEEC(東部経済回廊)であるが、タイ政府はここに中国BYDなどの工場を誘致して、タイがEV生産でアジアのハブになることを目指す、という大きな花火を打ち上げたわけである。
しかし実態は、中国人たちは工場だけでなく工場周辺で従業員たちが住むアパートの不動産開発までやり始め、さらにはその工場や工事現場ではたくさんの中国人労働者が働き、しかも工場での生産に使うパーツや建設資材などもほとんどが中国から直接輸入されているのである。
その結果、これまでの日系自動車産業の現地生産などで折角育ってきたタイのサプライチェーンにもほとんど仕事が回ってこないことになり、さらにその挙句、アメリカから36%という重い関税をかけられるという、まさに泣きっ面に蜂という状況なのである。
一方、前回「タイにも入り込む”中国禍”」と題してタイでの中国人の様々な悪行について書いたが、最近の調査によると、あちこちで違法行為ばかりする中国人たちに対し、タイ人の実に80%が警戒心や懐疑心を持つようになってきている。つまり、中国人嫌いが増えているのは日本だけではないのである。
従って、この辺でタイ政府もプラユット政権以来の親中政策を打ち切って、ベトナムのように中国にもの申す強い政府になることが、トランプ政権の圧力を軽減する一番の近道だと思うのだが。