両国に反省材料が満載
高関税で脅しをかけて譲歩を迫るトランプ米大統領が日米閣僚級協議の場に加わり、想定外の演出で日本に早速、圧力をかけてきました。日本側トップの赤沢経済再生相は「私は(大統領に比べ)格下も格下なので・・」と下手にでて、卑屈に見せる演出でトランプ氏を喜ばせる偽装をしたのだと思いました。
トランプ大統領と面会した赤澤経済再生担当大臣 内閣官房Xより
報道によると、「在日米軍の駐留経費負担、米国製自動車の販売、貿易赤字の縮小」(朝日新聞)の3つの柱をトランプ氏は示し、改善を望んだそうです。意図的な誤解を平然とさらけだす情報戦(認知戦)が含まれ、日本側も落としどころを見つけるのに苦労しそうです。
「在日駐留軍経費負担」について、日経新聞は「思いやり予算とも呼ぶ」(きょうのことば)、「日本側負担(思いやり予算)の増加」(社説)、「思いやり予算増を視野」(17日夕刊見出し)と、何度も「思いやり」という表現を使っています。読売新聞にも「日本側負担(思いやり予算)」という表現が出てきます。
1978年当時、日本側の円高で米国側の負担(ドル建て)が増えて不満が高まったため、駐留軍経費の一部を日本が支援することになり、金丸防衛長官が「米軍に対する思いやりだ」と、場違いな表現をしたことから使われ始めた言葉です。朝日新聞は一般記事、社説を含め、「思いやり予算」という表現は使っていません。これが正しいと思います。
「思いやり予算」という表現を安全保障の分野に持ち込むのは間違いです。米側の公文書では「hostnationsuport」(支援を受ける接受国側の支援)となっているそうです。さすがに政府もおかしいと思ったのか、2021年度あたりから日本語表記はやっと「同盟強靭化予算」に変えました。いまだに「思いやり」という表現を使う新聞の言語感覚を疑います。
もっともトランプ氏は「米国は日本を守るために、何千億㌦も払っているのに、日本は何も支払わない」ととぼけたことを言っています。トランプ流の意図的に無知をさらけ出す情報戦(認知戦)でしょうか。22年度ー26年度は年度平均で日本は2110億㌦の支援をしています。落としどころは米国製の戦闘機、ミサイルを買わせる算段かとも想像します。
第一次トランプ政権の時、安倍・元首相が米国からF35戦闘機を105機、購入すると約束し、トランプ氏のご機嫌をとりました。石破首相も同じことをするような気がします。「関税問題を含め、日本は毅然とした態度を取るべきだ」という声は正しくても、毅然としていれば、日本はトランプ氏の無茶な要求を跳ね返せるのかどうか。言葉だけの「毅然」なら、虚しさを感じます。
トランプ氏は持論である円安批判はしなかったそうです。近く行われるベッセント財務長官と加藤財務相との会談で、為替問題を持ち出すのでしょう。日本側は円安誘導はしていないと、一貫して主張してきました。異次元金融緩和は脱デフレのためであり、意図的な円安誘導はしていないとの説明です。
それは虚偽に近い説明でした。アベノミクスの当初のスローガンは「2年、2%の物価上昇、通貨供給量2倍」で、つまり2年で2%の消費者物価上昇を実現し、デフレを脱却するとの公約でした。いつまでたっても、実現はせず、アベノミクスは次第に「円安、財政ファイナンス(国債購入)」が本当の目的になっていったというのが反アベノミクス派の通説です。そうだと思います。円安で輸入物価が上がり、国内物価にも波及し、税収も増えることで、政府、日銀は「しめしめ」となったのです。
2016-19年はの円相場は1㌦=105ー110円、22年10月には148円、23年10月には150円と円は下落しました。日米金利差によるもので、ゼロ金利に近い円資金を借りて、高金利のドルに投資(円キャリー・トレード)すれば儲かる。その過程で円を売れば円安が進む。物価も上がる。税収も増える。
円安を米側が突いてくれば、日本側は逃げようがありません。すでに円は140円程度まで切りあがり、130円台を予想する向きもあります。もっとも将来、関税引き上げで米国の物価が上昇すれば、円高も止まるかもしれません。独裁政権のトランプ氏は早くも「パウエルFRB議長を一刻も早く解任すべきだ」と発言しています。政治が中央銀行に口出すると、どういうことになるのか。日本がそのモデルです。
米国経済がインフレと景気後退のスタグフレーションに陥る可能性が指摘されています。そういう悪循環とトランプ氏の政治的意図の闘いが始まります。トランプ氏は、巨大な市場の審判を受けることになると想像します。米国政治の独裁者になれても、巨大な市場の独裁者にはなれません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。