基軸通貨ドル、トランプ氏はこれを調整しようとしているように見えます。一連の関税措置が終わったら強いアメリカを作るために第二弾の経済措置をしたいと考えている気配はさまざまな発言から想定できます。それは国内製造業を強くする、であり、工場などのアメリカへの回帰であり、通貨価値を下落させ、輸出競争力をつけることであるようにも聞こえます。

トランプ大統領とスコット・ベッセント財務長官とハワード・ラトニック商務長官 ホワイトハウスXより
通貨価値の調整方法は大まかに2通りあります。1つは中央銀行の金融政策による調整機能です。各国の中央銀行の目的は国内物価の安定と雇用の適度な活性化です。適度というのは過剰な雇用状態とされる完全雇用になると労働の質が極めて低下するため、一定の失業率は許容されるべきとするものです。適度な失業率は各国の規定や国柄により差異がある為、一概に何%が妥当とは言えません。日本の失業率は現在2.4%程度でアメリカが4.2%程度かと思いますが、両国ともほぼ最適雇用の上限に近い領域にあると思います。
その中央銀行の目的からすると為替の調整機能は彼らの目的外ではありますが、金利の上げ下げがマネーの流れと流通量の変化を付随的に伴うため、意図しようがしまいが、結果として為替には影響が出やすくなります。故に日銀が金利を上げそうだといえば為替は円高に動きやすくなるのです。
基軸通貨のドルで見るとFRBが今年金利を4回程度下げるのではないか、と市場関係者はみています。当然ながら今年残り7か月程度をかけての話となればトレンドとしてのドル安傾向が生まれやすくなります。但し、これはあくまでも他国が利下げしなければという話で他の国も一緒に利下げすれば帳消しになり、ドルの価値は維持されることになります。
ではもう1つの通貨価値の調整方法はどこにあるかといえば政府が発する政策があります。これは中央銀行の微調整機能に対して大きめのクラックを伴う変動になりやすいと言えます。その最たるものが85年のプラザ合意であったわけです。
トランプ氏のことですからFRBによる為替調整機能は補助的手段だとみているでしょう。ではどうやって基軸通貨の価値を調整するかです。一番想像しやすいのは国債を利用する方法が思いつきます。例えばですが、アメリカが永久国債を発行すれば市場はどう反応するでしょうか?仮想通貨を使う手も無きにしも非ずですが、これはあまりにも市場の認知度が低く危険を伴うので現実的ではないかもしれません。
それらは私の想像力を超えるので手段については議論を差し控えますが、私が気になるのはアメリカは基軸通貨を調整するべきか、という本質論であります。アメリカがアメリカたる理由の一つは基軸通貨ドルを国内通貨のみならず、世界の「基準通貨」として流通させていることに価値があるのです。もしもドルが基軸としての機能を持たなくなればドルは暴落し、今の半分ぐらいの価値になるかもしれません。(プラザ合意でドルの価値がどれぐらい下がったかは基準点をどこに取るかで変わってきますが、一般には半分になったとされます。)
トランプ氏は上述の目的を達成するためにドル安としたい、しかし、FRBはその目的論からトランプ氏の意志に頷けるものではありません。ならば政府が政策として無理な方策で動かそうとするかもしれません。これは現在の世界経済に大津波を引き起こすようなもので個人的にはすべきではないと考えています。
一方、ドル信認が今までの通りなされるか、といえばそれもやや疑問視される状況にあるとみています。理由は何故ドルでなければならないかという説明ができないからです。70年代80年代ならわかります。ですが、今やデジタル通貨を議論する時代で実物的な担保価値が薄い仮想通貨に一定の価値を見出す時代になったのです。ドルはアメリカの政府通貨としての担保価値があります。金は物的な価値があります。ですが、仮想通貨はほぼ何もないのに価値を創造しており、投資家がそれを認める社会が形成されつつあるということは基準通貨がドルである必要はないという議論はできるでしょう。
かつてこのブログでIMFのSDR(特別引出権:ドル、ユーロ、円、ポンド、人民元の通貨バスケット)やSDRに金を足した新たなバスケットを創出して、それを基軸通貨にするというアイディアを紹介したことがあります。もう7-8年前だったかもしれません。
それから時間がたった今、ふと思うのは基軸通貨がなくても地域通貨による取引が起こる可能性はより現実的になってきたとみています。地域通貨は例えば中国元を使うというばかりではなく、中国元にインドやブラジル、ロシアなどの通貨ミックスを作りそれを使うことだって可能でしょう。
つまり基軸通貨ドルはトランプ氏が恣意的に何か価値を調整させようがさせまいが、いずれその存在を維持できなくなる公算が絶対にないとは言い切れない時代に入りつつあるのです。その中でトランプ氏が意図的に通貨価値をいじろうとすれば1985年のプラザ合意の時に比し、極めて大きなレバレッジが働くことで大混乱が生じるリスクが顕在化します。
恐ろしい話ですが、トランプ氏のように経済に政治を持ち込むことで地球規模の経済をいびつに、そして一定の壁を作るわけで国家レベルの貿易に一定の制限やルールが課されやすいなったと言えます。要は何が起きてもびっくりしてはいけないともいえます。
そう考えるとアメリカの国債が暴落して多量に所有する日本政府に被害が及ばないことだけを祈ります。一般的な投資のリスク分散の思想からは日本はアメリカに偏重投資の状況です。バランス感覚が非常に悪い気がするのは私だけでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月21日の記事より転載させていただきました。