ドル高修正は本格化するか?:マネーが既に流出しつつあるアメリカ

為替のことは為替に聞け、なのですが、私はこのブログで一貫して言い続けてきたことがあります。それはドル円の為替に関しては地殻変動的な要因がない限り、80円から160円の枠組みから外れない、と。昨年にドル円が160円近くにアプローチした頃、一部の専門家がこれから200円になる、いや220円だとまるでバナナのたたき売りのような声があったのを「ジャンプしすぎ」と思っていたのは私だけではないでしょう。では、なぜ80円から160円なのか、これは市場が双方の力関係からそれを決めたとしか言いようがないです。論理的に計算式で出るわけでもないと思います。

為替は通貨の流通量の比率という大前提があり、その上に当該国の経済や政治、社会的動向によりブレが生じます。近年において為替の地殻変動が起きたのは1985年のプラザ合意であり、それ以降、そのような事態には陥っていないのです。為替は株価のように無限の動きをすることはなく、基本的にはシーソーのように枠組みの中での変動を繰り返すわけです。

この10数年、私は投資を通じてアメリカという国の限界を見ていました。この2-3年はアメリカへの投資から手を引くとこのブログで何度か申し上げたと思います。何がだめなのか、というと自国民の発展に伴う国家の成長ではなく、頭脳、マネー、人材を海外から取り込むことでアメリカは成長し、それらのIn-flow(流入)によりアメリカを支えてきたように見えるのです。

アメリカの一流大学で成績優秀なのは外国人留学生、マネーは世界の年金や機関投資家から、そして人材ではアジア人やヒスパニック人がアメリカの労働力を支えてきたのです。ではアメリカは何を生み出したかといえば不毛な議論と断絶と分断でありました。これにずっと前から気がついていたのですが、トランプ氏になってそのクラックが大きく裂けてきたというのがわかりやすい説明かもしれません。

アメリカはM&Aを通じて世界に手を伸ばしているじゃないか、という意見はあると思います。そうです。上述の通り海外からのマネーがアメリカに流入した場合、何らかの投資商品を買うからです。ブルームバーグによると「外国勢は米国株を19兆ドル(約2700兆円)、米国債を7兆ドル、米社債を5兆ドルそれぞれ保有しており、市場全体の約20%から30%を占める」とあります。つまりアメリカ企業の成長も外国のマネーが支えてきたということであります。

私は先日「基軸通貨ドルは意図的にいじるべきではない」と申し上げました。理由はマネーが既に逆流、つまりout-flow(流出)しつつあるからです。例えばトランプ氏の挑発に怒り狂ったカナダはアメリカ向けの投資を少しずつ引き上げています。そのマネーはカナダの株式市場に還流しているのでカナダの株価は全般的に落ち着いているのです。日本も同じでしょう。投資マネーは世界をうろつくのですが、アメリカに帰還できないマネーが落ち着きどころを探す中で日本をとりあえず中継地点にしてもおかしくない状況です。

ドル指数はドルの強さを表すものですが、ブルームバーグのドルインデックスでは現在98-99程度。トランプ氏が大統領に就任した頃は109でしたので3か月で11ポイント落としているのです。チャート的には90が大きな抵抗線でそこまでは何もないのでトランプ劇場が続くならあと10%の下落を見込むことができます。とすれば乱暴な類推ですが、ドル円が140円から10%下落で126円というのがボトムラインとして引き出されます。

加藤財務大臣とベッセント財務長官の為替分野の交渉が今日、明日にも行われると思いますが、トランプ氏が朝令暮改の方針を打ち出すのでアメリカとしてはドル安よりいったん、ドルの安定化を望むのではないかと思います。よって日本にアメリカ国債の引き受けを通じた安定的パートナーになることを期待する形で収まるのではないかと予想しています。上述の126円と言うのはあくまでも仮定の話であり、トランプ氏が市場の不信をそこまで放置することもないだろうと思っています。

ベッセント財務長官 同長官Xより

ところで通貨の価値は高い方が良いのでしょうか?安い方が良いのでしょうか?これはどこを基準に見るか次第だと思います。ただ、日本のように成熟国家になれば自国通貨は安いより高い方が良いというのが私の意見です。通貨は国家の強さともいえるのです。もしアメリカが衰退するなら誰がそのバトンを引き受けるのか、という点で80年代に日本がバトンを受けそこなったことにいまだに深い失望を感じているのです。いわゆる円の国際化であり日本がアジア、ひいては世界の盟主としてリーダーシップをとるという夢物語です。

その後、中国が台頭するもアイデンティティの問題も含め、中国がそのバトンを奪い取ろうとしている中、日本がアメリカにどう手を差し伸べるのか、そういう立場にあると思っています。

極論すれば日本はアメリカの背中を追うのではなく、日本がアメリカをどう支援しながら影のリーダーとなるかぐらいのスタンスになるのでしょう。

トランプ劇場はバイデン劇場の反動ともいえ、お家騒動以外の何物でもありません。ただ、トランプ氏の判断は過激であり、かつ強引なところがあるので想定外、予想不能という表現が並びますが、アメリカ人全員が間違った判断をするわけがないというボトムラインは押さえておいてよいでしょう。昨日、今日の株価にみられるような振り戻しも今後、まだあると思いますが、トランプ修正は始まったばかりですので今しばらく不安定な状態は続きそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年4月24日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。