トランプ関税に思う

今月2日「解放の日」、世界中が高関税適用にびっくり仰天し、その日を境に政府にしろ企業にしろ右往左往している状況かと思います。他方トランプ氏は株が暴落したところで、何一つ慌てるわけでもありません。何故かと言えば、「アメリカ・ファースト」を掲げ国民の信託を受け大統領になったトランプ氏には、国内製造業の復活のため何とかせねばならないという強い思いがあるからです。そして嘗ての隆々たる製造業従事者のうち低所得層に落ち零れた多くの人を、MAGA(Make America Great Again)で今一度日の目を見る所に導いて行くことが、自分の使命であり仕事だと認識しているからです。株を保有しているのは殆どが富裕層であって、彼等彼女等が泣こうが喚こうが文句を言おうがトランプ氏には関係ないわけです。

トランプ氏のターゲットというのは、中産階級以下のレベルを如何にグレートな状況に再生するか、米国自身がきちんと製造業を有しある意味「生産立国」として再生するか、先ずは此の2点にあろうかと思います。そもそもが、こうした選挙公約を如何に実現するかという観点から全ては仕組まれているわけで、私などは、「当然やることをやっているだけ」との基本認識ゆえ一々に大慌てすることもありません。9日、全面発動した後トランプ氏は債券市場等の動揺を抑えるべく相互関税の延期・除外等と矢継ぎ早に様々な手を柔軟に打ち続けていますが、現況、対米投資拡大を表明する海外企業はどんどんと増えて行き、各国との交渉にも進展が見られ「トランプスピードで動いている」(レビット米大統領報道官)ようです。トランプ氏としては、“so far, so good”位に捉えているのではないでしょうか。暫くは各方面に相当なターモイルが生じ、一定の辛抱を要することにもなると思いますが、必ずや近い将来、貿易不均衡の是正のみならず大きな成果を生み出して、新しい形で米国という国の一つの存在感を示せるものと私は思っています。

先日トランプ氏が8つを列挙した「非関税障壁」の2番目にも、「関税や輸出補助金と同じ役割を果たす付加価値税…VATs which act as tariffs and export subsidies」(4月21日NHK NEWS WEB)とありました。例えば日米間で言えば「現在、日本がアメリカ企業から商品を輸入する場合、商品価格と関税に加え、国内で消費税が上乗せされる。一方、日本国内で生産した商品をアメリカへ輸出する場合、材料費など製造段階でかかった消費税は国内消費に回るわけではないため、海外輸出分については既に支払った消費税分が日本企業へ還付される仕組みになっている」ものです(4月9日テレ朝news)。いま我国でも「全世代型の社会保障を支える重要な財源」(石破首相)であるはずの消費税が、輸出企業等のためにあることが白日の下に晒され、様々な事柄が明らかになってきています。

トランプ氏は賢明かつ公正に納税者の金を使うべく、強力な一つの武器として関税というものを使っているのだろうと思います。DOGE(米政府効率化省…Department of Government Efficiency)にしても極めて効率的に動き、マスク氏は「2026年度に無駄と不正の削減によって1500億ドルを節約できる見込みであると発表しま」した(4月11日TBS NEWS DIG)。これまでの税金の使い方で、使途不明・意義不明といった類を全て変えて行こうというのがトランプスタイルであります。「対外援助」を隠れ蓑に己の懐を肥やすことに力を入れてきた政治家の悪事が炙り出される等々、ある意味国の内外を問わぬ粛清であると共に浄化ということで、清くする上では実に思い切った手段を取らざるを得ないのだろうと思います。

東洋哲学的に言えばDOGEというのも正に、「一利一害」という考え方を実践しているものです。最後に、当ブログ「北尾吉孝日記」(24年4月3日)より以下ご紹介致しておきます――モンゴル帝国を築いたチンギス・ハーンに重用された耶律楚材(やりつそざい)は、「一利を興(おこ)すは一害を除くにしかず。一事を生やすは一事を減らすにしかず」ということ、即ち絶えず問題を省みて省くことの大切さ・必要性を説きました。私はこの考え方ほど、組織運営において正しい真理は無いと思っています。(中略)官民問わず基本いかなる組織体であろうとも、使った資源に対する得られた成果割合を最大化すべく、効率を重視しなければなりません。(中略)「一利を興すは」利がありそうなものをどんどん付け加えて行けば良いのではなくて、「一害を除くにしかず」と耶律楚材が言っているように省くことが極めて大事なことだと思います。(中略)例えば赤字を垂れ流す事業という一害を除いたら、その垂れ流していた利益を他の一利を興すために持って行けるわけです。私は、こういうことが常に革新を生む一つの条件になる、と思っています。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2025年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。