メードインジャパンが消える日:確実に蝕まれているかつてのモノづくり大国

モノづくり大国とされる日本ですが、私が30数年海外から見ている限り、確実に蝕まれています。これは国内からどんな批判があろうが、反論があろうが事実は事実であり、そこから目を逸らしてはいけないでしょう。

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2005年頃だったと思います、私の会社で日本のアパレルを輸入販売するという話が持ち上がり、調べてみました。当時はWHOに中国が加盟し、アパレルメーカーが雪崩を打って中国進出を図っていた時です。そのため、メードインジャパンの洋服は既に探すのが難しく、価格は中国製に比べ全く話にならない値段でした。いくら中国製が安いとはいえ、そこまで価格差があるはずがなく、調べてみてわかったのは価格競争では勝てないので製品の品質やデザインで勝負したというのです。平たく言えば高級品勝負です。もちろんコアなファンはいくら払ってでもそれを買うかもしれませんが、時間の経過とともにそれらの挑戦は追い込まれていったのです。

家電は面白い変遷をたどったと思います。白物家電なら中国製でも気にならない人が比較的多かった一方、テレビのような黑物家電は中国製の国内普及は遅れました。居間のような目立つところに鎮座するからでブランド名が気になったのかもしれません。メンタル的な抵抗と言われればそれまで。当時ですらテレビの画質の差を素人が見分けるのは困難と言われた中で2台目なら中国製でも気にならないという人が徐々に増えたのもこれまた事実であります。

そして今回は中国のEV自動車の雄、BYDが日本専用のEV軽自動車を2026年から日本で販売すると発表しました。既に日本では様々な論評が出ていますが、個人的には日本の自動車業界にとって黒船になる可能性はあると思います。このところ、日本だけがなぜかテスラの販売が好調とのことです。その理由は国産のEVの選択肢が極めて乏しいからとされます。トヨタのbZ4X、日本国内で2024年に売れたのはたった1012台。月に100台売れないという散々な状況でさて、BYDは日本に風穴を開けるのでしょうか?こちらもテレビ同様、2台目ならいいか、という方がじわっと増える気がします。

メードインジャパンの危機は製品だけに留まらないかもしれません。不思議な不思議な令和コメ騒動。先日、輸入米が増えるだろうし、海外のコメの質もそれほど悪くないです、と申し上げました。カリフォルニアから本格的に日本向けの輸出量が増えているようでスーパーにも並び始めていると聞いています。また韓国米がごく少量輸入されました。1999年以降初めてとのことで第2弾として20トンが届いた頃だと思います。タイ米も来ているし、中国産米も政府間交渉を経て、いずれ来てもおかしくありません。

すると何が起きるかといえば輸入米と国産米との価格差と品質差の市場競争です。そして日本米の方がどうしてもコストが高いので高級米として売らねばならず、市場規模が小さくなるとみています。もちろん、政府が輸入量を調整するでしょうが、一度商品として一定の市場評価を得ると元に戻すのは割と難しいのです。

メードインジャパンが消える日、もちろん大げさに書いています。ただ、私が昔から見てきたアメリカと今の日本が重なるのです。トランプ氏はアメリカに製造業を復活させる、と言っていますが、勤勉さを忘れたアメリカ人に緻密で同じ作業の繰り返しとなる製造業は出来ないのです。できるのはアジアやヒスパニックの移民層なのです。では日本はどうか、といえばほぼ単一民族である故に民族的代替ができない点で状況はもっと悪いのです。

例えば日本で大問題になりつつある介護問題。今後10-20年は日本は介護大国として君臨しますが、お年寄りを誰が面倒見るのか、人材が払底しつつあり、ようやく見つかっても「やっぱり無理!」と離職者が続出しているのが現状です。大手による老人施設のチェーン化も進む中、零細の介護事業者はそれこそ、製造業の東大阪や東京の蒲田のような状況になりかねないのです。

日本の問題は労働力という観点において少子化による物理的人材の減少に留まりません。私が見るもっと大きな問題は若者が職を選べるほど雇用がひっ迫しているため、エントリーレベルの業種に誰も見向きもしなくなることです。今年の初任給もやれ30万円だ、うちは40万円だ、と大盤振る舞いする中で地味な製造業やサービス業を誰が支えるのか、ここが説明できないのです。

日本企業はカネを稼ぐことはできると思います。特に海外売上比率が伸びている企業が増える中、海外ではビジネスができるのですが、国内で労働のミスマッチが生じて厳しくなるとみています。例えば自転車移動圏にスーパーが何軒もあり、コンビニは徒歩圏に3つあるという状況は維持できなくなるでしょう。自営業の廃業や倒産は増え続け、資本力のある所だけが勝ち抜く、そんな社会が迫ってきそうです。

今の日本は真綿で首を絞められている状態で、あと世代が一回りする頃、真綿は最後にキュッと締まり、本当の激変が待っているはずです。こんなことは書きたくはないですが、誰かが指摘しないと問題が起きてからでは遅いのです。まずは気づいて頂きたいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月1日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。