日米関税交渉、どう展開するか?:赤沢大臣は無理に進展させない方が良い

証券口座が乗っ取られ、持ち株が勝手に売却され中国株や日本の新興企業株などハイリスクの銘柄が買われ、損失を被ったといったケースなどフィッシング詐欺被害が続出したことを受け、証券各社が「補償」を打ち出し始めました。足並みはまだそろいませんが、全額補償から一部補償までいろいろあるようです。私は「損失補填」といったほうが良いと思います。日本の会社も優しいですよね。ただ、証券各社が2段階認証を進めっていなかったのは落ち度と言われるでしょう。それにしても犯罪する側も次々とよく手口を思いつくものだと思います。次は何が狙われるのでしょうかね?

では今週のつぶやきをお送りします。

市場心理は「様子見」VS「怖いもの見たさ」

NYダウはほぼひと月ぶりの株価まで回復し、市場全体では「なんとなく買い」という風潮も見て取れます。もちろん、プロの投資家が熾烈な戦いをするNY市場において「なんとなく」という言い方は失礼かもしれません。しかし、朝令暮改のトランプ氏の真意と戦略、落としどころを探っていくと一つ明白なのは「トランプ氏は一旦地獄に落とし、そこから免罪するやり方」を常套としてるので今は地獄からの壁をゆっくりと登っているような感じだと思います。

来週6日と7日にFOMCが開催されパウエル議長がどのような金融政策の判断をするのか、注目されます。トランプ氏はパウエル氏を「口撃」し続け利下げを要求していますが、パウエル氏は冷徹で数字のみが答えである、という姿勢を取りますので今の状況では今回は利下げはしない気がします。ただ、FOMC後の記者会見でトランプ氏からの要求に対しての質問は必ず出ますのでそれにどう答えるかが一つのヒントになると思います。本日発表になったアメリカの4月の雇用統計はコメントするに値しないほど中立的な結果になりました。企業は「クビは切らないけど新規も雇わず、もう2-3か月様子を見る」という「Wait and See」モードにあるとみています。

では市場関係者の間で議論されている「アメリカは景気後退局面に入るのか?」ですが、専門家の意見も割れているし、専門家もその判断を変えつつあり、そちらも朝令暮改とまでは言わずもかなり揺れ動いています。個人的には目先、楽観視はしていません。一方、メルセデスなど一部自動車企業などがアメリカでの自動車生産方針を打ち出すなどトランプ氏に服従するところも出てきています。もっともアメリカで自動車をつくれるのかといえばフォードやGMでさえ「純粋培養」のアメリカ産自動車がほとんどできない中で人件費や労働の質を考えると私は懐疑的なのです。「お前、中国製のクルマとアメリカ製のクルマ、二択ならどちらを買う?」と聞かれたらどう答えますか?私は製品の質だけを考えれば中国製を選びます。

日米関税交渉、どう展開するか?

赤沢経済財政再生大臣がワシントンを訪れ2度目の交渉を行いました。石破首相は進展があったと述べていますが、個人的にはむしろ無理に進展させない方が良いかもしれないという印象を持っています。日米交渉は世界の関税交渉の先陣であり、ここで決まることが今後の他国との交渉での落としどころとなります。アメリカが日本を選んだのは組みしやすいことと日米間の貿易が規模や影響力が大きいからにほかなりません。日本政府や一部企業からは一刻も早い結論を求める声もあるようですが、私はむしろアメリカをじらしてしまう方が良いと思っています。

赤沢経済再生担当相Xより

来週火曜日頃にカナダとアメリカのトップ会談がワシントンで行われます。関税の直接的影響という点ではカナダは極めて大きいわけでカーニー首相もそれなりの戦略をもっていくはずです。また米韓の交渉も進みつつあり、欧州や他の国との交渉も一斉に進んできます。当然、各国はアメリカに不満を述べ、ガチンコの交渉になるはずで、簡単に決着がつくことはないとみています。とすれば日本だけ結論を急ぐ必要はなく、他国がガンガン押し込む中でトランプ政権が関税交渉で進展がなく、3か月の時間的枠組で成果が得られない状況になってくれば焦りが出てきて、譲歩が引き出しやすいと思うのです。

日本がアメリカに譲歩する項目にどんなものが上がっているのかが気になります。農産物はコメと共に中国に売れなくなった大豆も候補に挙がっているされます。自動車の非関税障壁は「アメリカの努力が足りないのでしょう」なのですが、どう転がってもアメ車が日本でバンバン売れることはまずないのでここは日本としては譲れる点かもしれません。エネルギー輸入の拡大ですが、これは違和感があります。特にLNG(液化天然ガス)は東海岸が基地でそこからパナマ運河経由で運ぶとなると膨大なコストと時間がかかります。一方、カナダBC州の北部で三菱商事などが長年努力し間もなく稼働するLNG基地からだと日本までの輸送は極めて短く日本には取引国の多様化を含め有利になるはずです。この交渉はもっと戦略的に進めるべきでいくら石破氏の腹心の赤沢氏とはいえ、ちょっと放り投げすぎの気もします。

精神的病と暴発的行動

大阪で精神的に病む男が運転するクルマが小学生を次々巻き添えにした報道には驚きましたが、男は車を蛇行させ、ゆっくり子供にぶつけていくような執拗さと異常さがありました。一方、1週間ほど前、バンクーバーでフィリピンのコミュニティ祭りが開催されているところに精神疾患を抱え前科がある男が爆走し、11名が死亡し、多数のけが人が出た事故もありました。これらは精神病を抱える人が車を凶器として自己抑制ができない状態で使用しているわけであまりにも恐ろしく、精神疾患者がどこにいるかわからない我々にとって危険が多すぎる社会を感じます。

日本の統計を見ると2020年の精神疾患者数は615万人です。推移をみると実は2020年から厚労省が統計の取り方を変更したためにこの年から急増しており、過去の推移との比較ができません。ただ、2002年から2017年までの15年間では258万人から419万人と比率にして64%増、また統計の取り方を変えただけで5割近く増えたということは潜在的精神疾患者はかなりいるということでしょう。

何がそうさせるのか、医者ではない者がとやかく言うのはいけないのですが、社会の抑圧が進んだのではないかという気がします。企業はガバナンスを通じて従業員への精神的プレッシャーを与えないよう気を配っています。私は根本問題はそこではなくて進化するテクノロジーであり、世の中の考え方であり、人間関係にあるとみています。我々はいかにもAIを知ったかぶりしてますが、それを理解して使っている人はごく一握りの人。社会の変化、日々起きるニュース、あるいは社会動向をきちんと理解している人もごくわずか。コミュニケーションや「飲みニケーション」も相手がなくSNSの向こうの見えない相手にうっぷん晴らしの書き込みでスッキリとなれば精神的に病んでもおかしくないでしょう。世の中の変化に対して対応できず、落ちこぼれているような方々が病むのではないかと思います。ならば今後もっと増えると推測できそうです。

後記
業務上の理由で急遽、6日間だけ東京に来ています。今回はJALグループのZIP Airを初めて使ったのですが、直前予約だったので機内食などは予約できず、自ら弁当とパンの2食分を持ち込みました。機内を見る限り、多くは日本人の若者ですが、AirLine提供の有料の弁当を食べている人はさほど多くなく乗る前に食べてきてなるべく節約する指向のようにも見えます。この飛行機、水も有料ですが、ちょっとやり過ぎの気がします。バンクーバーの空港の待合でばったり会った知り合いが「ひろさん、社長なのにZIPなんてだめでしょ!」と声をかけられました。いや本当はZIPは成田に正午過ぎに到着するのでその日の夕方6時からのミーティングに間に合うので時間を買っただけなのですが、人は勝手に想像を膨らませるようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。