4日に実施されたルーマニアのやり直し大統領選挙(第一回投票)で、同国の極右政党「ルーマニア統一同盟」(AUR)のジョージ・シミオン党首(38)が圧倒的な支持を集め、得票率約40%を獲得して首位となったことから、ルーマニアの政情の右傾化が改めて注目された。その翌日(5日)、マルチェル・チョラク首相は突然、辞任を表明した。

ハンガリーのオルバン首相と会見するチョラク首相、2024年12月20日、ルーマニア政府公式サイトから
シミオン氏は今月18日に実施される決選投票で第2位の首都ブカレスト市長で無党派のニコソル・ダン氏と大統領ポストをかけて争うことになった。チョラク首相の社会民主党(PSD)主導政権はクリン・アントネスク氏を大統領選に擁立したが、ダン氏に敗れて第3位に留まり、18日の決選投票に進出できなかった。チョラク首相の辞任表明はその意味で引責辞任と受け取られている。
現地のメディアはチョラク首相が後任を指名せずに辞任したことについて、「親欧州派政府は終焉し、政情は急速に右傾化するだろう」と述べ、早期議会選挙の可能性を予想している。チョラク首相は「大統領選の結果を考えれば、現在の連立政権はもはや正当性をもたない」と述べている。ただし、社会民主党の閣僚は当面の間、職務を続行するという。
ちなみに、同国では昨年12月1日に総選挙が実施され、PSDは中道の「自由党」およびハンガリー系住民のUDMRと連立政権を樹立して親欧州路線を維持してきた。AURは前回の9.1%から17.7%とほぼ倍の得票率を獲得して第2位に躍進している。
ルーマニアの政情は今月18日の決選投票の行方に関心が注がれてきた。得票率20.9%で第2位となったダン氏はシミオン氏の勝利を防ぐために親欧州派の結束を呼び掛けているが、チョラク首相は社会民主党にダン氏投票を呼びかけてはいない。ダン氏は「ルーマニアが西側志向を維持し続けるかどうかが問題だ」と語った。現状ではダン氏の逆転勝利の可能性は限りなく少ない。
今回の大統領選は再選挙だった。昨年11月24日に実施された大統領選でジョルジェスク氏(62)は有力候補とされていたチョラク首相らを抑え、約23%の得票率でトップに躍り出た。ジョルジェスク氏はロシアのプーチン大統領を「国を愛する男」と称賛し、ウクライナを「敵対国家」と呼び、北大西洋条約機構(NATO)に批判的な姿勢を強調するなど、親ロシア的な立場を明確にしてきた。ルーマニア憲法裁判所は決選投票直前の昨年12月6日、選挙資金の不正やロシアの干渉などを理由に第1回投票の結果を無効とし、12月8日に予定されていた決選投票を中止した。そして今年5月4日に選挙の再実施を決定した経緯がある。
今回第1位となったシミオン氏の支持層はジョルジェスク氏と重なる。シミオン党首は自身が当選すればジョルジェスク氏を首相に任命すると約束し、同氏の票を吸収することに成功している。
東欧諸国の中でハンガリーのオルバン首相、スロバキアのフィツオ首相は欧州連合(EU)に批判的であり、ロシアのプーチン大統領との友好関係を構築している。フィツオ首相は9日モスクワで開催される対独戦争勝利80年記念イベントにEU加盟国で唯一、参加する予定だ。また、ブルガリアでは極右「復活党」が躍進するなど、東欧全域で右傾化が拡散してきた。
そしてルーマニアで近い将来、極右政権が誕生する可能性が出てきた。シミオン氏が大統領選で勝利すれば、NATOの東側防衛に支障が出てくるかもしれない。EUやNATOの対ウクライナ支援問題で加盟国の結束がこれまで以上に難しくなることが必至だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。