5月9日のロシアの戦勝記念日に今年は20か国の首脳が集まると報じられています。コロナ時には外国首脳が誰も来なかった年もあったぐらいなのに習近平氏を含め、20か国も集まれば過去最大級となり、プーチン大統領としては意気揚々であろうと察します。

トランプ大統領とプーチン大統領 2018年 クレムリンHPより
我々が目にする報道はほとんどが西側の都合に基づく内容が主体であり、バイアスがかかったものになりやすいのはやむを得ません。ただ、それを理解した上で読むのと全く知らずに読むのでは人々の意識に大きな差が出やすくなります。またある程度教養がある一般層ほど騙されやすいとも言えます。
お前はバランスよく情報を集めているのか、と言われるとそれは難しいです。もしも私が研究者であれば英語ではなく、現地語の報道を丹念に読み解くという時間と努力もできるのですが、残念ながらそれをする余裕はありません。よって西側報道をある程度間引きながら斜に構えて考えたりしています。
大きなピクチャーからピンポイントさせていくアプローチがもっともぶれない答えを導きやすいと思います。では私が考える最も大きな疑問です。
「パクスアメリカーナは持続可能か」
であります。第二次大戦後の世界の構図は共産主義を標榜するソ連や中国と資本主義、自由主義のアメリカとの対立でした。冷戦を通じた戦いは双方の戦力や社会影響力、政治力といったイデオロギー的なぶつかり合いであったものの1989年のベルリンの壁崩壊で東西冷戦の終焉となり、それも引き金になり、1991年のソ連崩壊につながります。それは自由社会の西側諸国の勝利と位置付けられ、米ソ冷戦時代が終わり、パクスアメリカーナ、つまりアメリカ覇権時代となったわけです。
アメリカ一国覇権となればモノや人、マネー、情報などすべてがアメリカに集中します。それに対抗するため欧州はユーロ圏の更なる団結力強化を進め、1999年には通貨統合をします。それは91年にアメリカの覇権となった時点で経済的バランスが悪くなったため、欧州が一塊になり、ドルに対抗する共通通貨ユーロでリスクヘッジを行う思想でした。もちろん、安全保障も含めて「欧州共同体」が名実ともに完成したとも言えます。(その後の欧州危機は通貨統合の弊害でもありましたが。)
トランプ氏が巻き起こす様々な旋風は心地よいと思う人にはフォローの風となりますが、大いなる反感も買っています。特にこれはアメリカ国民の話というよりアメリカと関係がある諸外国のレベルで見るとより見えてくるものがあります。
パクスアメリカーナが91年から既に34年経った今、中国が力をつけ、ロシアが戦争を吹っ掛け、グローバルサウスが台頭しています。欧州は今一つ団結力にかけ、各国内部でも保守派と民主派・改革派に分断しています。
もしもトランプ大統領の最大の短所は何か、と聞かれたら私は権威主義であると躊躇なく申し上げます。署名した大統領令は3か月で130本。大統領令とはとりもなおさず、大統領の権限に基づくオーダーであり、その多くは議会の判断を要しない外交関連が主体となります。大統領令が多いのは民主的議論をせずに強権的にルール変更することであり、これはロシアや中国が今までやって来たことと差して変わらないとも言えます(そしてアメリカ議会ではトランプ2.0になってから成立した法案数が非常に少ないのも特徴です。)
もちろん、極度に進化した民主化は民のエゴイスティックで我儘な声も出てくるし、少数の声をどれだけ重視するか、それにより大多数が我慢をするという事態すら招くこともあり、その罠にはまったのがバイデン政権でありました。つまり、私にはアメリカは一枚岩になれず、もがいているように見えるのです。そして政治は時としてショーであり、パフォーマンス化しているとも言えます。
これに対して中国やロシアは強い権威主義の下、着実に仲間を増やしつつあることは事実です。これが将来的にアメリカの一強体制に大きな試練になりかねないとみています。例えばOPEC+が原油の増産体制にシフトしています。表向きの理由はOPEC+合意の産油量を無視するイランなどに対抗するためとされ、最終的には減産の枠組みすら取り払う可能性が出てきています。
ただ、私はそこにはロシアの悪知恵がある気がしています。原油価格が今の水準、つまり60ドル程度だとアメリカのシェールオイルはコスト見合いで新規開拓できないのです。シェールオイルの油田の寿命は7-8年。今稼働しているのはコロナ前のモノが主流でそろそろ寿命が来るはずです。ところが新規のシェール油田に投資マネーが向かなければどうなるか、自明ですね。アメリカは最大の産油国から輸入国に転落するのです。
私はパクスアメリカーナが34年も続いている今がおかしいのだと考えています。地球儀ベースのバランスが必要にもかかわらず、ある意味いびつなアメリカ一国主義が延々と続いていたのだ、と考えたほうがスッキリするのです。
中国とロシアが様々な国を仲間に引き込もうとしています。今の状況ならまだ増やせるかもしれません。ただ、多くの国家の基盤である国民と企業はどちらかの一択を望まず、「いいところ取り」を目指すところも増えてくるでしょう。既にインドを含むグローバルサウスはその傾向が見て取れます。
どこに向かう世界の覇権競争、答えは未知です。少なくとも何十年という単位で世界の国々がポジション争いをするだろう、それが私が予想できる唯一の答えです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月7日の記事より転載させていただきました。