今週の最大の注目は15日にもトルコで開催されるとみられるウクライナとロシアの直接の停戦交渉でしょう。もともとはプーチン氏が自国の戦勝記念日で3日間の停戦を提案したのが直近のトリガーかと思います。(停戦案はそれまでも何度もありましたが潰れています。)
プーチン氏の3日間停戦の呼びかけはそんな前向きの意味合いではなく、戦勝記念日式典に習近平氏ほか20か国もの首脳がモスクワに集まる中、そこにドローン攻撃などされては困る、という自己都合の停戦呼びかけでした。
これを受け、ゼレンスキー氏は「何を言うのだプーチンよ、3日で何ができるのだ?」と返したわけです。そりゃ当然です。プーチン氏はその3日間、各国首脳との外交に翻弄され、ウクライナのウの字すら頭に浮かべる余裕はなかったはずです。そんなことは誰でもわかることでゼレンスキー氏は30日間の停戦を提案、トランプ氏がそれに同調し、プーチン氏に強く圧力をかけます。また欧州もそれに乗るようにロシアへの強く呼びかけます。そこで出てきたのが5月12日から30日間の停戦案でした。
プーチン氏はこれに対してYESともNOとも言わず、唐突に15日からトルコで直接交渉を呼びかけたのです。さてこの交渉、どう見るかです。私は前向きな結果はまだ引き出せないだろう、とみています。
まず、12日からの停戦案はプーチン氏は踏み倒すでしょう。「俺はそんなのは合意していない」と。そして「その代わり俺の案は15日にトルコでの交渉だ」というわけです。
次に交渉に誰が出てくるのでしょうか?ゼレンスキー氏は既に自身が「受けて立つぞ!トルコで待つ!」と表明しています。ですが、ロシア側はプーチン氏が出てくるとは誰も言っていないのです。ラブロフ外相が名代で出てきてもおかしくないのです。プーチン氏の性格からはハードネゴシエーションを直接するのは得手ではない性格です。よってロシアの特使が先行交渉し、もしもロシアにとって都合の良い展開が見られればプーチン氏の途中参戦も考えられるかもしれません。交渉が1日なのか、複数日なのかあるいは数次に渡るものかもやってみなければ何とも言えません。
また仲介者がいるのかどうかも不明です。トルコでやるならエルドアン大統領が仲介する可能性はあります。バチカンでトランプ氏とゼレンスキー氏が二人っきりで椅子を向かい合わせで会談するシーンがありましたが、あんなシュールな光景はまずありえないとみています。
さて、誰が交渉の舞台に出てくるかはともかく、交渉がまとまるかどうか、についてはロシア、ウクライナの言い分が未だにかけなはれているように見えます。アメリカは資源のディールを済ませ、おいしいところを確保しているのでこの交渉にあとどれぐらい熱意を持てるのか、であります。私の見立てではトランプ大統領は「両国ともいい加減にしろ」という立場でどんな条件でもいいから一旦武器を置け、というスタンスに見えます。
ロシアはそれで満足するとは思えません。ロシアの言い分は「ここまで戦い、多数の犠牲者も出したし戦費も使ったのに成果がない状態で停戦などすれば国内で不満が爆発する」わけです。それこそ、プーチン氏が国内のテロリストに暗殺されるリスクが余計高まります。よって、よほどの条件、つまり東部ウクライナの割譲、戦争賠償なし、ウクライナのNATO加盟の永久放棄、ゼレンスキー氏の退任、さらに一枚加えて欧米の経済制裁の緩和のストレートフラッシュを求めてくるでしょう。
最大のジョーカーはトランプ大統領だと思います。この直接交渉に裏で関与し、SNSで介入するならばトランプ氏が「ゼレンスキーよ、そのうち、2,3枚は飲め」というでしょう。「お主が飲むなら俺も経済制裁緩和案を考えてもよいぞ」。その結果としてロシアにとって要求の過半数を確保できる最低条件が整えば、プーチン氏はにやりと笑い、「あと一息だな」というところで一旦交渉を中断させるような気がします。

ロシアは経済面や兵士の確保などで苦しいのか、といえば苦しいでしょうけれど破綻するような状況にはないでしょう。ロシア産の原油は中国やインドがせっせと買ってくれますし、資源国はそんなにやわな経済基盤ではありません。そもそもロシア人はソ連時代の貧困や物資不足に慣れており忍耐強さは世界でも有数の人種です。あと1,2年は戦争遂行能力はあると思います。
また北朝鮮を手なずけたのが大きかったと思います。今回、金正恩氏がモスクワに行かなかった理由は習近平氏が行ったから、とされます。それを「序列が理由」とした専門家もいるのですが、私はそうではなくて金氏が習氏に会いたくなかったのだと思います。あるいは習氏が「金氏を招待するな」とプーチン氏に事前に依頼したかもしれません。品のない表現をすると金氏は習近平氏に忠誠を誓う立場なのに、プーチン氏に浮気し、その愛人になったわけです。習氏は頭にくるでしょう。そんな金氏には会いたいわけがないのです。
今回の停戦交渉が不調になった場合、ゼレンスキー氏の手腕が問われる可能性はあります。私は以前から大統領選をして国民に信任を問うべき、と申し上げてきました。ずるずる戦争を続けるのは欧米にとっても迷惑千万であり、ゼレンスキー氏の立場を決める瀬戸際にあるようにも感じます。
最終的には双方の言い分を欧米や関係国がどれだけ調整し、落としどころを設定するかというプロセスにおいてようやく入り口に達したという感じではないかと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月12日の記事より転載させていただきました。






