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わが国では、コロナワクチン接種後の遷延症状(後遺症)が生じるかについて、厚労省研究班(大曲班)が調査研究を行っている。研究班からは、「懸念を要するような特定の症状や疾病の集中はみられない」という総括が厚生科学審議会に報告され、その結果、国レベルでは、コロナワクチン後遺症は存在しないとされている。
チューリッヒ大学のScholkmannは、新型コロナウイルス感染症に続いてlong COVIDが生じるのと同様に、ワクチン接種直後にみられるAcute COVID-19 vaccination syndrome(急性コロナワクチン接種後症候群)に続いて生じる副反応について、Post-acute COVID-19 vaccination syndrome(PACVS)の名称を提唱している(図1)。

図1 コロナウイルス感染後・ワクチン接種後にみられる症候群の定義
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PACVSはコロナワクチン接種後の遷延症状を示す言葉であり、コロナワクチン後遺症と同義語と考えてよい。急性コロナワクチン接種後症候群で見られる主な症状は、接種部位の疼痛、発熱、アナフィラキシーなどであり、倦怠感、頭痛、関節痛、筋肉痛、ブレインフォグが主症状のコロナワクチン後遺症とは症状が異なる。
筆者は、大曲班の行った後遺症患者の調査研究には、急性コロナワクチン接種後症候群が含まれており、その結果、「懸念を要するような特定の症状や疾病の集中は見られない」という誤った結論が導かれた可能性があることを指摘した(引用2、引用3)。

コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較②

実際、大曲班の調査対象のうち、頻度が高い症状の1位、2位は発熱と疼痛であり、症状の持続期間も半数が7日以内であった。また、アナフィラキシーが4人含まれていることから、後遺症の調査と言いながら、急性コロナワクチン接種後症候群が含まれていたと考えられる。
long COVIDについて米国アカデミーは、
long COVIDは、新型コロナウイルス感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす病状が少なくとも3ヶ月間継続する。病状は再発・寛解をくり返すことや進行性のこともある。
と定義している。
A Long COVID Definition:A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences
long COVIDでは、感染した時期が不明のこともあることから、感染から発症までの期間が規定されていない。
コロナワクチン後遺症については、定まった定義はないが、long COVIDに対応する存在として以下の定義を提唱する。
コロナワクチン後遺症は、直近のコロナワクチン接種後1年以内に発生する慢性疾患であり、病状は少なくとも3ヶ月間継続する。病状は、再発・寛解をくり返すことや進行性のこともある。
long COVIDとは異なり、ワクチンの接種時期は特定できることから、ワクチン接種から発症までの期間を規定した。新型コロナワクチン後遺症患者の会のアンケート調査では、99%はワクチン接種後1年以内に症状が出現しており、期間は1年以内とした。また、特定の臓器のみに発症する場合もあることから、long COVIDにみられる複数の臓器という規定も削除した。
コロナワクチン後遺症に見られる症状は、long COVIDと共通するものも多い(図2)。long COVIDに苦しむ患者については、メデイアで紹介されることも多いが、コロナワクチン後遺症患者を報道するメデイアは限られている。SNSでは、long COVIDとして紹介される患者が、実は、コロナワクチン後遺症患者ではないかと揶揄するコメントも見られる。

図2 コロナウイルス感染後・ワクチン接種後にみられる症候群の関係
Pathology-Research and Proctice246(2023)154497を改変
そこで、コロナワクチン後遺症とlong COVIDに共通する所見と、それぞれに特異的な所見を明らかにすることを目的に、筆者が経験した32人のコロナ後遺症患者と愛知医科大学新型コロナウイルス後遺症外来を受診してlong COVIDと診断された23人の臨床症状の比較を行った。long Covidの23人は、ワクチン後遺症の可能性を否定するために、すべてコロナワクチンの接種歴がない患者を選択した。
表1には、32人のコロナワクチン後遺症患者の臨床像を示す。罹病期間は全例が、3ヶ月以上で、先に示したコロナワクチン後遺症の定義を満たす。

表1 コロナワクチン後遺症患者の臨床像
倦怠感などの全身症状が主たる患者が多いが、出血斑、関節の強張り、下半身麻痺、眼瞼下垂など一つの臓器に特異的な症状を主訴とする患者もいる。23人については、ワクチン接種後2週間以内に症状が出現した。また、2人はワクチン後遺症が発症する前に、14人は発症後にコロナに罹患している。
慢性疲労症候群と診断された患者が14人と最も多く、7人が関節リュウマチ、血小板減少性紫斑病、急性散在性脳脊髄炎、汎発性円形脱毛症、眼窩筋炎、重症筋無力症など臓器に特異的な自己免疫疾患と診断されている。自己免疫疾患を発症した患者においても、各臓器に特異的な症状のみでなく、倦怠感、全身痛、ブレインフォグ、睡眠障害などの全身症状を訴えることが多い。
表2にはlong COVIDと診断された23人の臨床像を示す。倦怠感や味覚・嗅覚障害のほか全身痛やブレインフォグ、睡眠障害を訴えることが多く、症状の持続期間も全例が10ヶ月以上でlong COVIDの定義を満たしている。ワクチン後遺症とは異なり自己免疫疾患と診断された患者はいなかった。

表2 long COVID患者の臨床像
次に、症状の出現頻度を、ワクチン後遺症とlong COVIDとで比較した(図3)。ワクチン後遺症では、倦怠感(25人)、頭痛(24人)、睡眠障害(21人)、ブレインフォグ(20人)、筋肉痛(18人)、筋力低下(18人)、関節痛(15人)などを訴える頻度が高く、味覚障害(1人)、嗅覚障害(0人)はほとんどみられなかった。
一方、long COVIDでよくみられたのは、倦怠感(13人)、味覚障害(11人)、嗅覚障害(11人)で、関節痛や筋力低下を訴えた患者はいなかった。なお、今回の結果の解釈については、ワクチン後遺症とlong COVIDを診察した医師が異なることによるバイアスが生じる可能性があることを指摘しておく。

図3 コロナワクチン後遺症とlong COVIDでみられた症状の頻度
大曲班では、急性コロナワクチン接種後症候群とワクチン後遺症とを一括して調査対象としたために、「懸念を要するような特定の症状や疾病の集中は見られなかった」という誤った結果となり、ワクチン後遺症は存在しないという国の主張の根拠となったと考えられる。
今回の研究は、ワクチン後遺症がlong COVIDと比較しても、より深刻な健康被害をもたらしていることを示しており、ワクチン後遺症の存在についての論議を進めるべきである。