コロナワクチン後遺症は存在するのか?

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厚労省のホームページに記載されているQ&A欄では、2025年5月2日においても、「コロナワクチン接種後に遷延する症状(いわゆる後遺症)が生じるのでしょうか」という質問に対して以下のように回答している。

現時点において、ワクチンが原因で接種後に遷延する症状(いわゆる後遺症)が起きるという知見はありませんが、接種後の遷延する症状を含めた副反応が疑われる症状について実態把握をする研究に取り組んでいます。

研究班の調査は、全国の専門的な医療機関に調査票を送付して、医師から提供のあった患者情報を分析したものである。研究は「新型コロナワクチン接種後の遷延する症状に係る実態調査」研究班(主任研究者、 国立国際医療研究センター、大曲貴夫国際感染症センター長)が実施した。

国立国際医療研究センターは、2025年4月1日に、国立感染症研究所と統合し、国立健康危機管理研究機構として、わが国における感染症対策の中心的役割を果たすことになった。なお、研究事務局支援として株式会社アクセライズの名前が付記されている。

大曲班の調査では、研究結果について、「懸念を要するような特定の症状や疾病の報告の集中は見られなかった」と総括している。この報告を受けて武見前厚労大臣は、定例記者会見における記者からの「コロナワクチンの後遺症は?」という質問に対して、「研究班の報告では、懸念を要する特定の症状や疾病の集中は見られなかった。現時点では、問題は起きていない」と答えている。

国がコロナワクチン後遺症の存在を認めていないことから、医療現場でも、ワクチン後遺症はないものとされている。その結果、ワクチン接種後の健康被害を訴えて医療機関を受診した患者の中には、医療機関の対応に不満を持つ者も多い。

以下、新型コロナワクチン後遺症患者の会に寄せられた不信の声を紹介する。

  • 大病院の偉い先生に、コロナワクチン後遺症なんて存在しない、後遺症のエビデンスなんかないからと断言された。
  • ワクチン後遺症では?と医師に問いかけると科学的根拠はないと一蹴された。30以上の病院を受診したが、ワクチン後遺症を疑い寄り添う姿勢を見せてくれたのは一病院のみであった。
  • ワクチン接種3ヶ月後に受診した医師から、時間がたっているのにワクチンの影響があるわけないと言われた。
  • 後遺症と呼べるのは14日が限界だ。それ以降の情報がないので、後遺症と呼べないとはっきり言われた。
  • 個人病院で“ワクチンの可能性だなんて0.000001%もないからと怒鳴られた。
  • コロナ後遺症はあるが、ワクチン後遺症というものはないと言われた。
  • 開業医、”大きい病院で調べてもらってください。町医者ではわかりません。”
  • 大学病院、“ワクチンについては、悪くは言えないのです。”
  • ワクチンを接種した病院の医師から、”我々にワクチン後遺症を治療する義務はない。国からの治療ガイドラインもないので、我々には関係ない”と言われた。
  • 受診した医師から、”自分は国の指示でうっただけであり、窓口は市町村であり、国へ文句は言ってくれ”と言われた。
  • 現在は、ワクチンの後遺症とは認められないが、国が変われば後遺症と認めることに協力する。”と言われた。

国が、ワクチン後遺症の存在を認めない根拠となった大曲班の調査報告に対して、筆者は、その内容に疑問を投げかけたことがある。

コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較

コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較
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対象となった140人の症状のうち、最も多いのが、32人の発熱、次いで19人の疼痛であって、症状の持続期間も判明している89人のうち、47人(53%)は7日以内であった。後遺症というより、接種直後の副反応が含まれている可能性はないだろうか。

確定病名として記載されているなかに、発熱が7人、発疹が3人、頭痛が3人、胸痛が2人、意識障害が2人、目眩が2人含まれている。これらは症状であって病名ではない。アナフィラキシーは接種当日に発症するもので後遺症とは考えられない。痙攣重複発作という記載があるが、痙攣重積発作の間違いではないか。重積という用語は、一般には馴染みがないが、痙攣重積は医学生でも知っている医学用語である。医師が行った調査報告書とは思えない。

前回の調査は、2021年2月1日から2022年5月31日の期間に全国の21医療機関を受診した140人が対象であった。大曲班では、追加調査として、2021年6月1日から2024年5月31日の期間に12医療機関を受診した144人を対象に追加調査を行い、その結果が2025年4月14日に開催された厚生科学審議会で発表された。

そこで、以下に前回と今回の報告の比較を行った。

図1には、ワクチン接種後の遷延症状の頻度を示す。前回は、発熱、疼痛が1位、2位を占めたが、今回は、倦怠感、関節痛が取って代わり、発熱が3位であった。

前回の調査では、全部位の疼痛を集計して19人とされていたが、今回の統計では、疼痛を、左肩(7人)、左上腕(6人)、左腕(4人)、左肩関節(3人)と、各部位に分けて集計しており、全部位を集計すると35人になる。症状としては、倦怠感の28人を上回った。また、35人のうち24人は左肩あるいは左腕の痛みであり、右肩あるいは右腕の痛みは4人にすぎない。

図1 コロナワクチン接種後の遷延症状

図2には、症状の持続期間を示す。前回の調査では回答が得られた89人のうち47人は1週間以内であり、1年間以上症状が続いたのは6人にすぎなかった。今回は、回答があった102人のうち1週間以内が18人、1ヶ月以内が32人で、22人は症状が1年以上持続していた。

今回の調査で、144人のうち50人はワクチン接種当日に発症しており、疼痛の部位も、多くは、左肩や左上腕に限局している。症状が1週間以内で消失した症例は、ワクチン接種部位の疼痛である可能性が高く後遺症には当たらないであろう。

図2 遷延症状の持続期間

図3には、確定病名を示す。前回と同じく、今回もワクチン副反応が最も多かった。前回は、確定病名として発熱や発疹などの症状名が並んでいたが今回の調査では含まれていない。前回は肩関節周囲炎が2人あったのみであるが、今回は左肩の痛みに対応して、左肩関節周囲炎(7人)、左肩関節拘縮(3人)、左肩腱板損傷(2人)、肩関節痛症(2人)、左肩関節炎(1人)などの病名が列記されている。

図3 遷延症状に対する確定病名

前回、大曲班の報告で、「懸念を要するような特定の症状や疾病の報告の集中はみられない」と総括されたことから、審議会や厚労大臣もコロナワクチン後遺症は存在しないという立場をとってきたが、今回の調査結果の総括では、この表現が消えて、症状の持続期間に長期化が見られると書き加えられている。

今回の調査結果が国のコロナワクチン後遺症の取り扱いにどう変化をもたらすか注目される。