
bizoo_n/iStock
厚労省研究班(大曲班)では、コロナワクチン接種後の遷延症状(後遺症)について、全国の専門的な医療機関に所属する医師を対象にアンケート調査を行なっている。
2021年2月1日から2022年5月31日までに受診した患者を対象にした調査に続いて、2022年6月1日から2024年5月31日までに12施設を受診した144人を対象に追加調査が行われ、その結果が、2025年4月14日に開催された厚生科学審議会で発表された。
一方、新型コロナワクチン後遺症患者の会も、会員を対象にアンケート調査を行なっている。患者会では、Google formで作成したアンケートフォームをメールで送信して調査したので、費用はかかっていない。全て、会員の手弁当である。
以前、筆者は、コロナワクチン後遺症の実態について、研究班と患者会の調査結果を比較したことがあるが、最近、患者会が再調査を行なった結果を入手したので、再度、研究班の追加調査との比較を試みた。
コロナワクチン後遺症の実態:厚労省研究班と後遺症患者会報告の比較

患者会の再調査は、2025年1月19日から2月13日の期間に、605人を対象に行われた。
図1にはワクチン接種後の遷延症状を示す。研究班の調査では、23症状がリストアップされ、それぞれの症状の有無を医師がチェツクした。図には、日常生活で最も支障をきたした症状が記載されている。患者会では、事前調査で得られた情報をもとに、124の症状をリストアップし、患者本人あるいは保護者からそれぞれの症状の有無がチェックされている。
研究班の報告で多く見られた症状は、倦怠感、関節痛、発熱、頭痛と続く。疼痛は、左肩(7人)、左上腕(6人)、左腕(4人)、左肩関節(3人)と、各部位に分けて集計されており、全部位を集計すると35人になる。35人のうち24人は左肩あるいは左腕の痛みであり、右肩あるいは右腕の痛みは4人にすぎない。
患者会の報告で多く見られた症状は、倦怠感、疼痛、ブレインフォグ、頭痛と続き、一人当たり、平均24の症状が見られた。研究班の報告とは異なり、疼痛は、部位別に集計されておらず、発熱も見られなかった。すなわち、接種直後に見られる接種部位の疼痛や発熱は含まれていない。

図1 コロナワクチン接種後の遷延症状
図2には、症状の持続期間を示す。研究班の報告では、持続期間の記載がある102人のうち、7日以内が18人(18%)、35日以内が32人(31%)であり、1年間以上症状が持続したのは22人(22%)であった。転帰については、39人(27%)は未回復であり、70人(49%)は回復あるいは軽快した。34人(24%)は不明であり、死亡例は見られなかった。
患者会では、症状の持続期間が判明した579人のうち、持続期間が1年以内だったのは2人(0.3%)で、21人(4%)は4年間、354人(61%)は3〜4年間、179人(31%)は2〜3年間症状が持続した。完治したのは、17人(2.8%)にすぎず、少しの改善を含めて改善傾向が見られたのは279人(46.1%)であった。一方、死亡の9人(1.5%)を含めて、悪化傾向が見られたのは128人(21.2%)であった。198人(32.7%)は不変あるいは判断不能であった。

図2 遷延症状の持続期間
以下、患者会会員の記述する日常生活への影響を紹介する。
- 10歳代男性:起き上がれず、一日中ほとんど寝て過ごす日が多かった。高校へ行くことができず、授業をほとんど受けられなかった。所属していた運動部のレギュラーや部活動の参加も諦めた。修学旅行や体育祭などの学校行事に参加できず、友達や高校の思い出を作ることが難しかった。
- 30歳代女性:窓をすべて目張りした。豆電球のみの暗闇の部屋の中で、全ての時間を過ごす必要がある。食事の介護を必要とする毎日。光をほんの少しでも部屋へ入れることができず、音にも過敏になっている。夜には、横たわって布団で寝むれるようになったが、それ以外の時間は、暗闇の部屋の座椅子に座って過ごすほかない。
- 30歳代女性:多発性脱毛症になり、生えるまでの期間の情緒不安定に悩まされた。手の湿疹にも同時期になり、夜眠れないほどの痒みと痛みを繰り返してまもなく2年になる。
- 40歳代女性:認知機能も以前より回復したが、夕方に覚えていた予定を夜には忘れることもあり、勘違いや、記憶にないこともある。文字を書くことが困難で、漢字、平仮名、片仮名が混じって、形をなさないこともある。
- 40歳代女性:接種直後から毎日38度前後の熱が続いているので、1日の半分は寝ている。
- 40歳代女性:片手が全く動かない。空気が動くだけで激痛が走る。動かないのに痛みだけは感じるので、接種して痛めた右腕を切り落としたいとまで思った。何もしていなくても脈拍が1分間200回にもなる。湯船に入っている時に身体が硬直してズルズルと体が沈み込み、鼻ギリギリまで水中に引きずりこまれたことがあった。
- 50歳代女性:トイレ、風呂、通院以外はほぼ寝たきり。
- 50歳代男性:常に耳鳴りがしてイライラする。耳鳴りがひどい時は、頭痛もひどくなる。
- 60歳代女性:舌全体が痛く、一瞬もおさまることがない。水を飲むのも薬を飲むのも、舌を切ってしまいたいくらい痛い。
具体的な記述によって、倦怠感、光過敏、脱毛、ブレインフォグ、疼痛、耳鳴りが、どのようなものであるのかよくわかるだろう。
図3では確定病名を比較する。患者会は、今回は確定病名を調査しなかったので、前回の調査結果を示す。
患者会の調査では、うつ病や自律神経失調症などの心の病が最も多く、続いて、倦怠感を主に長期間続く多彩な症状に対して、慢性疲労症候群、線維筋痛症などの病名が付けられている。帯状疱疹、口唇ヘルペス、カンジダ症などの免疫能の低下を示す感染症や不整脈、高血圧、心筋炎・心膜炎などの心血管系疾患も見られる。
とりわけ気になるのは、関節リュウマチ、シェーグレン症候群、急性散在性能脊髄炎、ギランバレー症候群などの自己免疫疾患が目立つことだ。1型糖尿病、甲状腺疾患、副腎皮質機能低下症などの内分泌疾患も自己免疫疾患である。
研究班の調査では、ワクチン副反応が最も多く、肩の痛みの原因として、肩関節周囲炎、肩関節拘縮、肩腱板損傷、肩関節痛症、肩関節炎、首の痛みの原因として頸椎症性神経根症、変形性頸椎症などの病名が列記されている。これらの病名は、患者会の調査では見られない。また、慢性疲労症候群が1人、自己免疫疾患では関節リュウマチが1人見られるのみで、患者会の確定病名とは大きく異なる。

図3 コロナワクチン接種後の遷延症状に対する確定病名
研究班と患者会の報告では、大きく異なっていたので、海外の報告との比較を試みた。イェール大学では、日本の患者会と同様に、患者自身がパソコンやスマホで質問に回答する方式で、コロナワクチン接種後の遷延症状(Post-Vaccination Syndrome)について調査研究(LISTEN研究)を行なっている(引用2)。
症状については、事前にリストアップした96の症状について、それらの症状の有無を答えている。研究に参加した241人の居住地は、米国が主であるが、ヨーロッパや南米など世界11か国に及ぶ。
図4にLISTEN研究で報告された症状の種類と診断名を示す。よく見られる症状は、運動耐容能の低下、倦怠感、しびれ、ブレインフォグ、神経障害、睡眠障害と日本の患者会調査で見られた症状と違わない。
ワクチン接種後症状が出現するまでの中央値は3日で、一人当たり平均22の症状を抱えていた。診断名もワクチン副反応、アレルギーを除くと、
- 不安神経症やうつ病などの心の病
- 体位性頻脈症候群や慢性疲労症候群などの倦怠感を主に多彩な症状を示す疾患
- 免疫能の低下を示す疾患
- 高血圧を含む心血管系疾患
- 自己免疫疾患
と、日本の患者会の調査で示された確定病名と共通する。

図4 LISTEN研究によるコロナワクチン接種後遷延症状と診断名
日本では、厚労省研究班の調査結果をもとに、懸念を要する特定の症状や疾病の集中は見られないことを理由に、コロナワクチン後遺症は存在しないとされている。国がコロナワクチンの存在を認めていないことから、医療現場でもワクチン後遺症は存在しないとされ、その結果、ワクチン接種後の健康被害を受けた患者は行き場のない状況に置かれている。
研究班の報告に基づくだけでなく、患者会や海外の研究報告も踏まえて、コロナワクチン後遺症の存在について議論すべきである。